第14話 変わり始める世界と……

「……アメ」


「なぁに、アリシア」


最近、お決まりになったバックハグをしながら蕩けるような黄金の瞳で私を見つめているこの美しい人に何とも言いがたい感情が湧いてくる。


アメが来てから驚くような変化が続いていた。


今まではただ、この国でひとり差別されることが当たり前になっていた私の世界が言葉では言い表せないが変わりはじめている。


あの後、兄は結局アメに何か言い返すことも出来ずに帰った。そして、それっきり兄からの連絡はない。


正確には実家からの連絡が完全に途絶えた。


最初は、私を追い出す準備をしているのだと考えていたけれどそれがすぐ違うことが今手元にある新聞記事で明らかになった。


『アルニラム公爵領にて領民一揆か!?』


実家の公爵家が治める領地で大規模な領民一揆が発生しているとのことだった。


私の祖父は名君であり、王家からも信頼の厚い重臣だったが、私達の父である現公爵は享楽的な性格で現在の公爵領の税は法ギリギリまで高くなっていた。


そこに、兄の『ツガイ』のエルザの散財が重なり家計が火の車だということは知っていた。


兄がそれを補うために王家に出仕していたが、国王陛下が公の場に病で現れなくなってからは、今の王太子は私を嫌っていることもありあまり兄が重用されることはなかったと風の便りで聞いたことがあった。


だから、魔が差したのかもしれない。


父である公爵は、王家にはギリギリ法に従う税で帳簿を貴重していたが実際はそれ以上にむしり取っていたのだ。


元々は肥沃で豊かな公爵領だったが、今や領民は古い農具を買い替えることもできず、食べる物にも困っていた中で、エルザが新しいドレスを着て兄と公爵領を訪れたことでついにその不満が爆発したという。


「……お兄様もその『ツガイ』もどうなったのかしら……」


「さぁ。因果が巡った結果だからな……。僕にもわからないよ。アリシア、心配??」


眉をわざとらしくハの字にして、聞いてくるアメに私は首を振る。


「因果応報なら仕方ないわ」


少し前なら、昔の優しい兄を思い出して胸が痛んだかもしれない。けれど、『ツガイ』の罪を全て私で清算しようとした人の末路などもうどうでも良かった。


「よかった。ねぇ、アリシア。もっともっと望んで。君の願いはなんでも僕が叶えてあげるから」


甘い糖蜜にグラニュー糖をさらにかけたような甘ったるい声色でそう言ったアメの顔を見る勇気が私にはでない。


だから、振り返らなかった。


「……でも、公爵家が王家から立ち退き料を受け取った事実は変わらないわ。このままだと王家側から立ち退きの指示が出てしまうわ」


「大丈夫だよ。そんなことは僕がから」


アメの不穏な言葉に少し背筋が寒くなる。あまりにも私に都合がよく世界が変わりはじめていた。

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