第13話 兄来襲

「……なにこれ」


私は自身に届いた手紙に怒りを抑えることができなかった。それは実家から届いた手紙だったが、そこに記載されていた内容があり得なかったのだ。


「どうしたの、アリシア??」


まるで当たり前のように私を後ろから抱きしめたアメが背後から手紙を覗き込んでいるのが分かった。


アメは私より全然背が高いので簡単に見えているだろう。


「これは随分と酷い話だね。アリシアと絶縁しているようなものなのに、勝手にお金を受け取って全て使い込んだ癖に謝るどころかここから出て行けなんてさ。子供が見たっておかしいと思うよね」


アルカイックスマイルを浮かべながらアメがそう口にする姿にもそろそろ慣れてきていたが、今日の笑顔は特に邪悪だった。


「そうね。でも王家からしたら実家がお金を受け取ったのだから立ち退けって言うはずね……」


絶望的な気持ちになる私の額にチュッとリップ音を立てながらアメが急にキスをした。


あまりのことに驚く私を彼は抱き寄せた。


「アリシア、可愛い君の眉間に皺が寄っているよ。大丈夫、悪いことをしたら必ず報いがあるのだから……」


アメの言葉には不思議な力があった。今の状況は圧倒的に不利なのになぜか私はこの立ち退かないで良いようになる気がしてきた。


「そうだといいのだけれど……」


そう呟いた時、乱暴に店の扉が開いた。明かに客ではないだろうその人物を見た時、私はとても嫌な気分になった。


「……お兄様」


「手紙は読んだか??保証金はこちらで受け取り済みだ。だからすぐにでもここを立ち退け」


用件のみを簡潔に言った兄に私は血を吐くような叫びを訴える。


「ここを立ち退いたら私はどこへ行けばいいのですか??」


「そんなことは知らない。どこへでも行けばいい」


吐き捨てるように兄がそう言った時、わずかに残っていた兄への期待が完全に消滅するのが分かった。


(……私を守ると約束してくれたお兄様はもういないのよ)


率先して私を路頭に迷わせようとする兄を私は睨みつけた。


「私にはここしか行くところがないのよ。だからそんな風に言われても出て行かないわ」


「駄目だ、もし出て行かないなら強硬的な手段を取るしかなくなるぞ」


私を睨み返した兄がそう言った時だった。


「そう言う話はまず君らが使い込んだお金をアリシアに渡してからすべきじゃないかい??」


「……お前は誰だ??」


兄がアメに気付いて怒気を孕んだ声でそう言った。小公爵にすごまれたら王族以外なら怖いはずだがアメはいつもの調子で続けた。


「でもできないんだよね??君の『ツガイ』がそのお金を遣いこんでしまったから。それなのに『ツガイ』を諫めることもせず、なぜ君は家を絶縁して追い出した妹に犠牲を払えなんて図々しいことがいえるんだい??」


「貴様は誰だ、無礼だぞ!!」


兄がアメに近付いて鋭く睨みつけた。そのまま手が出そうだと思ったがギリギリでまるで何かに弾かれたように兄の体が硬直した。


その兄の顎をクイっと掴んだアメが、私でも背筋がゾクリとするようなアルカイックスマイルを浮かべながら静かな感情が感じられない声で言った。


「無礼なのはどちらだい??アリシアが悲しむからやめようと思ったけど、先ほどの言葉でアリシアが君のこと見限ったみたいだから……ちゃんと償いはしてもらうよ」

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