第12話 その頃、実家では(兄視点)
「ねぇ、この新しいドレス似合うでしょう」
妖精と見まがうような美しい私の『ツガイ』が嬉しそうにくるくると回るとフレアレッドのドレスが揺れるのが分かった。
その姿の愛らしさに目を細めながら内心でどこからそのドレス代が捻出できたのかが気になっていた。
私の見立てが正しければそのドレスは王都で最も人気があるデザイナーのものでかなり高額なはずだ。その一着でも中々だが、エルザの背後にはその他にもそのデザイナーのドレスが並んでいた。
我が家は公爵家なので、平民よりはずっと裕福な暮らしはしている。
しかし、それでも無限に財源がある訳ではなかった。
私の『ツガイ』は裕福な子爵家の令嬢であったため、散財癖があり、自身に割り当てられた金額は全て使い切ってしまい、さらに私が足りない分を補填していたが公爵家の財政は火の車になってしまっている。
その言葉に彼女は無邪気に笑いながら言った。
「あら、あの『カケラ』の立ち退きの費用がこちらに届きましたでしょう??それを利用させて頂きましたのよ」
「えっ??」
寝耳に水とはこのことだった。
今、王都から田舎までこの国はある騒動で持ち切りだ。
私には『ツガイ』のいない『カケラ』の妹がいる。昔は、とても可愛い妹だったが『ツガイ』と生活するようになってからどんどん疎ましく感じるようになっていた。
疎ましく感じる理由は全く分からないのだが、なぜか妹を見ると苛々する感情が湧くようになってしまった。
内心では、『ツガイ』のわがままで妹に意味のない謝罪をさせていることはわかっているのだが、それを変えようとすると理不尽な苛々した感情が沸き立つため放置してしまったことのバチが当たったのかもしれない。
その『カケラ』の妹が祖父から遺産として受け取った古書店兼住居の古い建物の立ち退きをめぐり前代未聞の論争が起きている。
そして、今私の『ツガイ』のエルザが使い込んだと口にしたお金こそまさに本来『カケラ』の妹に払われるべき立ち退きの費用だった。
「エルザ、君からしたらあのお金は大したことないかもしれないが……」
「どうして、またあの『カケラ』の肩を持つんですか??貴方は私の『ツガイ』なのに」
そう言って私にしがみつきながら瞳を潤ませるエルザを見ると胸を締め付けられてなにも言えなくなる。
(……しかし、あれは……)
『妹のためのお金だった』
分かっている、あのお金は手を付けずに妹に渡すべきものだ。けれど、エルザが使ってしまった……。
そして、残念なことに今あの金額を一括で払える経済状況では公爵家はなかった。
あり得ないことをしでかしたのにそれでも『ツガイ』は責められない。
(むしろ、妹が『カケラ』などではなければ『ツガイ』の居る普通の令嬢ならこんな問題にはならなかったはずだ、そうだ、全て妹が悪い……)
「違う、エルザが一番大事に決まっているだろう」
「嘘だよ。嘘じゃないならあの『カケラ』に公爵家からは一銭も払わないって宣言してきて」
甘い声でそう囁かれた時、一瞬幼い頃の可愛い妹が泣きそうな顔でこちらを見ている情景が浮かんだ。
しかし、すぐにエルザへの想いでその感覚も浮かんで消える。
「わかった、行ってこよう」
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