第11話 突然の訪問

「本当にすいませんでした」


「あ、いえ……その貴方がやったことではないですし、お気になさらないでください」


アメに『家を失くしたくない』と言った次の日、珍しく隣の家の人がやってきた。


私を毛嫌いしているこの隣人の『ツガイ』のサリーには何回か会ったことがあったが、彼と顔を合わせたのははじめてだった。


黒い髪に黒い瞳の前世の日本人のような外見の彼に少し懐かしさを覚えてた。


突然、謝られた理由を聞いたところ回覧板の話をされた。


そのせいで嵐の日に酷い目にあったので怒りの感情が湧かないわけではないがよく話を聞くと彼ではなく彼の『ツガイ』がそうしたようだった。


この世界ではそれがどんなに理不尽でも『ツガイ』が言うなら全力でそれを庇うのが当たり前だという常識がある。


前の世界であれば、止めなかった彼への怒りも強く持っただろうが、それが当たり前の世界で自身の『ツガイ』を諫めるのは難しいことは痛いほど理解している。


しかし、だからこそ疑問があった。


「『ツガイ』がやったことを貴方はどうしてあやまりにきたのですか??」


「それは、おかしいと思うかもしれませんが、『ツガイ』のその行動がどうしても許せなくて……気付いたら『ツガイ』へのあの狂おしい気持ちが消えてしまったのです」


衝撃的な言葉だった。


『ツガイ』はこの国の絶対のことわりだ。


どんな過ちを犯しても『ツガイ』だけは味方でいてくれる、そんな存在こそが『ツガイ』でありこの世界の神様が決めたいにしえからのことわり


それが失われるなんて事例はいままで読んだ数多の書物に書かれてはいなかった。


ただ、ひとつ心当たりがあるとしたらそれは彼が『ツガイ』が死に『カタヨク』となった場合のみだが、だとしたら彼は『ツガイ』を……。


「安心して。彼は『ツガイ』を殺したりはしてないから」


後ろで本の整理をしていた、アメがいつの間にか私の背後まできて、突然、後ろから私を抱きしめた。


「アメ、そう言うのはやめて」


「ええっ。どうして??僕は、アリシアが大好きなのに……」


いきなり人前で後ろから抱き着くのは流石に恥ずかしいし、良くないと思うのだが、目の前の彼は特に気にした様子はなかった。


「その、それで……僕の方で償いをしたいと思いまして……、もしよろしければ今回の王家からの不当な立ち退きの件を記事にさせていただけませんか??」


「記事??」


「はい、僕は新聞記者をしておりまして、今回の件を書かせていただけたらと思いまして」


この国はとても閉鎖的だが、回覧板のように新聞や本は活版技術があるようで国の隅々まで普及していた。


基本的には大きなことが起きないので新聞の記事はそれこそ前世の日本の動物記事のような穏やかものばかりで私自身も愛読していた。


「でも、そんなことしたら貴方もおうたいし……王家に睨まれるかもしれませんよ??」


その言葉に彼は力強く首を振ると、意思の強い瞳を私に向けた。


「そんなことは怖くありません。それよりも貴方が、ひとりの人間としての尊厳を踏みにじられ続けている事実の方が由々しき問題です。少しでもお力になりたいのです」

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