第9話 王太子殿下のいやがらせ
あれから1週間がたったが、まだアメのことを私は信用していなかった。
外から来たなんてありえない嘘をつく人物だと思い込んでいた。
「アリシア、この本達はここに置けば良いかな??」
「はい、そこでお願いします」
祖父から相続した古本屋は祖父が生きていた頃は従業員が居て本もしっかり書棚に入れられていたが、祖父が亡くなり私が相続するとなってすぐに全従業員が辞めてしまった。
それ以来、ひとりで細々と商売をしていたため、買取をした本の陳列が間に合わず手が回らなかった。
しかし、アメがここになし崩し的に住むようになって私が頼む前から本を並べてくれた。
「よし、これで大体の本が綺麗に並んだね。そう言えば回覧板がきていたよ」
アメに差し出されたソレを受け取り中を見ればふたつの内容が書かれていた。、ひとつは王都の収穫祭のお知らせで、もうひとつを見た瞬間、思わず呼吸が止まる。
『再開発のお知らせ。旧市街地に大通りを通すため該当区間の建物は速やかに取り壊しを行う……』
体中から汗が滲み出る。
旧市街地はこの店がある街を指す呼び方で再開発自体は前世からないことではなかった。
しかし、幾千の時が止まったようなこの国ではあまりないことだった。
しかも取り壊しの対象になるのは私の店だけで、さらになんの保証も補填もされる記載がない。
道を通すのは完全なる建前で私を追い出すためだけのお知らせだった。
「うそ、こんな……」
あまりにも酷い話だった。『ツガイ』がいれば平民相手でも最低限国が建物を買取り保証や補填は通常ならされるが私だから着の身着のままに追い出すつもりなのだ。
「なるほど。アリシアが話していた王太子殿下とやらの嫌がらせとはこういうことなんだね」
「わっ!!」
音もなく背後に立っていたアメにびっくりしたが、それを眺めるアメの表情に釘付けになるが、明らかな怒りの表情だった。
「なるほど、今の王族は約束を守れないばかりかアリシアに酷い嫌がらせをしているようだね」
「約束??」
「そう。今はまだ制約のせいで全ては話せないけど、彼らは約束を守っていない。大体、僕の大切なアリシアを傷つける悪いヤツは許せないな」
黄金の瞳が半月型に歪んだ。笑顔だけどまるで笑って居ないことが分かった。アルカイックスマイルを浮かべるその姿に背筋が少し冷たくなった。
「あなたは何者なの……」
そう思わず問いかけたがアメは曖昧に微笑むだけだってた。
それから、私はなんとか店を家を守る方法を考えた。けれど、どう考えても私にどうすることもできない。それが悔しくて仕方がない。
(……結局、私ひとりの言葉は届かないの。このままここも奪われてしまうの??)
あまりに考えることに夢中だったせいで気づかなかったが、私の眼前にアメがいた。それも呼吸がかかるほどすぐそばに……。
「な、なに??」
急いで離れようとした私の肩をアメが抱き寄せる。驚いて抵抗したがビクともしない。
「僕のアリシア、君が望むならどんな願いも叶えてあげるよ」
「そんなこと……私はこの家を失いたくないけど叶うはずないわ」
今までも助けがきたことは一度もない。『カケラ』の私に世界は常に残酷だった。
「アリシア、強く望んで叶わないと思わないでしっかりと強くココを無くしたくないと……」
アメの声には不思議な力があった。そんな願い意味がないとおもうのになぜか私は口にしていた。
「私はこの家を失いたくない」
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