第8話 憎き『カケラ』(王太子殿下視点)
「クリストファー様」
「ああ、いとおしい私のマリアナ、そんなに悲しい顔をしてどうしたんだい??」
嵐の影響で、今日はいつもの日当たりの良いテラスではなく城中のサロンでお互いの好みの紅茶とお菓子をつまみながら話していた時、愛する『ツガイ』のマリアナが
悲し気に縋りついてきた。
いつ見ても美しいピンクブロンドの髪と、翡翠色の瞳に上気した薄桃色の頬。その全てがただただいとおしい。
マリアナは、元は子爵家の令嬢だったが私の『ツガイ』であるということで生まれて間もなく王妃としての教育を受けて育ったので非常に気品がある。
私はその縋りついてきた手を優しく掴み聞き返すと彼女の翡翠色の瞳が涙にぬれるのが分かった。
「私のお友達のエルザから相談を受けましたの。『カケラ』のせいで『ツガイ』との時間が少なくなったそうですの」
「なんだと!!またあの『カケラ』か!!」
マリアナの言葉に烈火の如き怒りが湧く。いつだってあの愚かな女が私の愛する『ツガイ』の心を傷つけるのだ。
「はい、私の大切な親友からの相談でしたから本当に心が痛くて……」
大きな瞳から真珠のような涙を流すマリアナを私は抱き寄せた。
エルザことベルナー子爵令嬢とマリアナは同じ子爵令嬢出身で高位貴族の『ツガイ』を持つ者として幼い頃から親しくしていた。
ベルナー子爵令嬢の『ツガイ』はあの憎き『カケラ』の兄であるガルシア小公爵ではあるが、元々建国からの功労者である公爵家の次期当主であるため王族としてそれなりに付き合いはしている。
ただ、今は『ツガイ』を持ち弁えたが、幼い頃のガルシア小公爵はお世辞にも賢くはなかった。
(『カケラ』などを庇うなど愚かしいことだ)
アレはこの世界の異物であり、どうあがいても『ツガイ』の関係を邪魔する存在にしかなりえないため排除すべきものだ。
実際、愛しいマリアナとその親友のベルナー子爵令嬢を傷つけている。
「ああ、いとおしいマリアナ。なんて君は優しいのだ。私とてあの目障りな女を消してやりたい、ただ、それを父上が許さないのだ」
病床に伏しているので先は長くないだろうが、現国王は父上であり、その父上が頑なに私とあの『カケラ』との婚姻を進めようとしていた。
しかし、私が真っ向から拒絶し、民もそれを支持してくれているため父上もそれを進められないでいるようだ。
それでも、なぜか父上はあの女の肩を持ち、
『婚姻しないとしても王家で手厚く保護すべきだ』
と主張をする。
確かに、ガルシア公爵家の令嬢で身分は高いが『カケラ』に厳しいしっかりとした考えをお持ちの現ガルシア公爵からはほぼ勘当されており、唯一の持ち物が前ガルシア公爵があの女に相続させた薄汚い建物という価値もない存在をなぜ保護しなければいけないのだ。
「ああ、わかっていますクリストファー様。ただ、どうしてもエルザが私は不憫で」
腕の中で静かに涙を流すマリアナに申し訳ない気持ちになる。『ツガイ』のためならなんでもしてあげたい。それがたとえ……。
(父上さえいなくなればあの女を排除できるのに……)
「泣かないでくれマリアナ……」
私が腕の中のマリアナを慰める。
すると、マリアナがゆっくりと顔を上げた。
「クリストファー様、そういえばあの『カケラ』が住んでいる地域はだいぶ老朽化が進んでいませんか??」
「ああ、あそこは古い建造物の多い地域だな。道も狭いし……」
そこまで呟いて私に良いアイディアが浮かんだ。
「そうだ、この方法ならあの憎き『カケラ』を追い出すことができる!!」
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