第6話 霧に閉ざされた国

外から来たという言葉に私は驚きを隠せなかった。


前世であれば、国から国へと行き来をすることはそこまで難しいことではなかったが、この国ではそれは不可能だった。


検閲が厳しいとか、人為的なことではなく物理的に無理なのだ。


この国の果ては常に霧が立ち込めている。そして、その先に足を踏み入れた者は、気付くと再び霧の前に立っている。つまり外へ出ることができないのだ。


多くの国民は『ツガイ』がおり、豊かなこの国を出ようとはしないらしいのだが、過去に『カタヨク』や私と同じ『カケラ』が外に出ようとしたことが何度かあったと書物で読んだことがあったが結果は全て同じものだった。


そして、私自身も、同じように一度だけ外に出ようと試したことがあった。けれど、結果は書物で読んだ通りで外へ出ることは出来なかった。


また、この国の外から来た人の記録というものも神がこの国に『ツガイ』の祝福を与えてから一度もない。


見落としがあるのかもしれないが、多くの歴史書を読破している私ですら一度も外から来た人の話は聞いたことがなかった。


だからどうしてもこの人が言うことが信じ難かった。


「外から??今まで誰ひとり外から来た人はいないはずですが……」


「ああ、そうだね。けれど僕は外からやってきたんだ」


その人の言葉は澄んでいて嘘をついているとは思えなかった。


優しく微笑んでいる黄金色の瞳に魅入られそうになる。そしてなぜか生まれて初めてみたはずなのにその人のことがひどく懐かしいような奇妙な気持ちになっていた。


「君が望むなら外に連れ出してあげようか??」


とても美しい声色で紡がれた言葉はとても魅力的だった。けれど、この世界で私はあまりにも悪意に触れすぎてしまった。


だからこの目の前の人が本当にただの善意でそう口にしているのか、それとも何か悪いことを考えているのではないかと思ってしまった。


「……私は」


返事が出来ずに黙り込む私に彼は心配そうに微笑むと優しく髪を撫でた。その感覚はもう何年も失われたもので胸の奧がツンと痛んだ。


「綺麗な髪だね。僕と同じ赤。ゆっくり決めてくれればいいよ」


「貴方は一体だれなのですか??」


「僕はアメだよ。


(私の名前をどうしてこの人は知っているの??)


もう随分と前から周りからは『カケラ』と呼ばれていて私の真の名前を口にする人は誰も居なかった。


だからこそ、なぜアメが私の名前を知っているのか分からず疑心が強くなる。


「どうして、私の名前を……」


「君のことなら何でも知っているよ、そうなんでも」


きっと前世のミーハーな私なら綺麗なアメにそんなことを言われたらときめいたかもしれないが、この国で差別されて嫌がらせばかり受けて来た今は、不信感だけが募った。


「……誰かに、たとえば王太子殿下に雇われたのですか??私を誘惑し、そしてここから追い出せるようにと……」

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