第3話 犬と輩

第3話 犬と輩


「で?てめぇらなんなんだ、おぉ?」

土下座するクロとブルをピヨ吉は見下ろしながら、優し〜く聞いた。

するとブルが、

「本当に申し訳ありません。あの…ですね…家壊したことは申し訳ないと思っておりまして…」

ブルがしゃべると、先程までの威勢と違い、口調が女性らしいというか…

「え、お前、さっきとキャラ違くね??」

とつい言ってしまった。するとブルはビクビクしながら、

「あ、そう…ですよね……実は私、メスのパグなんです...」

クロと俺、大家さんとピヨ吉は思わず顔を見合わせた。

「「にゃんですとぉ!!」」

ピヨ吉に至っては吹き出してしまっている。

「笑わないでください…申し遅れました。私、よだれのブルこと犬養さくら姫と申します。本当はパグなんですが、父に『パグだと舐められるからブルドッグにしとけぇ!荒い口調で話せ!』と…うぅ…怖かったです…」

『よだれのブル』こと、さくら姫はポロポロと涙を零した


「いや、えぇ…悪かったよ…いやいや、家壊されてるけど、な、泣くなよ、な?」

「あ、いえ、目が大きいので乾いてしまって」

「なんなんだよ!もう帰れや!!」

とツッコんでしまったが、さくら姫いわく

「実は猫又さんたちを倒さないと、お家に帰れないんです…」

マジレスするな。


しょんぼりしたさくら姫の姿に、俺は

「クロ、食べられなさい。女の子を泣かせてはいけないよ」

俺はにっこり微笑み、クロを掴み差し出した。

「たくとくん!!あんた鬼か!!いや、怖いぃ、よだれ垂らしてるよぉ!うぇぇん!」

俺は話を聞かない、ええ、聞こえませんとも。


「悪魔!鬼!オニヒトデ頭!!」

カチーンときた俺も応戦して、

「うるせぇ!行方不明ネコが!」

と怒鳴り、ギャーギャー騒いでいると、大家さんが


「喝ぁぁぁ!!!」


と一声、凄くよく響いた。耳キーンなったわ…

近くの公園では木からカラスが、地面にいたハトが飛び立つほどだ。

まぁ、そりゃ大声出されたらいなくなるわな。

「とにかく!匠人!まずは掃除するよ!」

そりゃそうだ、あぁだこうだ言ってても、掃除しなきゃ始まらない。


「大家さん、これ本当どうしよう…」

フリーターだがちゃんと仕事はしてるし貯蓄もしてる、このアパートが安いおかげだけれども、それでも…

「これ、いくらかかるんですかね…」

「業者次第だろうて……まぁ、竹原工務店のザワちゃんならなんとかしてくれるでしょう」

大家さんとピヨ吉はテキパキと片付けを始めた。

俺も流石に室内から片付けを…

「たくとくーん、がんばってにゃー」

クロは振り返った俺の鬼の形相に「ごめんなさい!」としか言えなくなり、トボトボと手伝いにきた。

傍らには、特大にブッサイクに泣くパグがいる。

「どぅええぃ!?びっくりしたぁ!」

「元飼い猫と元飼い主の再会…感動しましたぁ…感動の再会ですぅ…うぬぉおんおん!」

この状況に、俺はだんだんバカバカしくなってしまった。


ある程度片付いてから、大家さんの知り合いに、壁にコンパネとブルーシートを貼って応急処置をしてもらった。

「まぁこれで問題なく住めるなら…いいや…おい!クロ!」

「ひ!ひゃい!」

俺は大きなため息を付き、もんの凄く嫌な顔をして

「またフラフラどっか行って死ぬよりいいだろ、ここにいたら…しゃあねぇ…で、パグ!」

「うぅ…ぐすん…どうしました?」

目玉をキュッキュと拭きながら、さくら姫は答えた。

「えぇ…痛くねぇのかよ…いいや、掃除が終わったら、お前は俺が送る…犬養組ってあのヤーさんとこか?」

「え、あ、はい…いや!大丈夫です…よ…?」

困り顔のさくら姫はじりじりと後ずさりしたが、俺は首根っこを掴み、

「一発文句の1つでも言いてぇんだよ」

「あ……はい……」

さくら姫は、あまりの俺の剣幕に、泣きながら頷くしかなかった。


この選択が、俺の人生を狂わすキッカケになろうとはこの時は思いも……よってたな、何してたんだ俺は…


片付けが終わり、さくら姫を犬養組に送り届け、文句の一つでも言おうとしていた。

「たくとくん、鼻息で飛んじゃうよ、ハハハー」

クロは勝手に肩に乗っていたので、払い落とした。後ろの方で、ぶべっ!と聞こえたが無視無視。


「あ、たくとさん、ここです」

さくら姫が指し示す場所は、鬱蒼とした森だった。

「え?いや、家ないじゃないか…」

「あ、はい、一応ここからが敷地内なので」

と、さくら姫はトテトテと走り出した。

舐めてた、完全に舐めてた

道すがら話を聞いたところ、ヤーさんではなく、大地主で表も裏も通じる存在になり、SPとして強面を雇ってる……ということらしい。


「今、御館様をお呼びしますね」

さくら姫はツタの絡まった引き戸を開け、入って行った。

「たくとくん、行かなくていいの?」

また性懲りも無く肩に乗ったクロが言う、そうだ追いかけないと…

さくら姫の後を追いかけ、なんとか家……いや、館までたどり着いた。

姿は西洋と和をまぜこぜにしたような……なんでサ〇エさん家にエッフェル塔付いてんだよ


「御館様!御館様ぁ!」さくら姫は突然屋敷に向かって呼びかけた。

「おいおいおい!!いきなり叫ぶな!!」

するとドアが開き……なんとも優しそうな、老齢の男性が現れた。

「おやおや、さくら姫、どこに行っていたんだい?」

「あの、実は…」

家であったことを細かに男性へ伝えていた。

「おやおや…そのアパートでしたら、ハルさんの所ですね…お直ししておきますね。ご迷惑をおかけして申し訳ない」

俺は拍子抜けしてしまい、挨拶も忘れていた。


正直いう

文句いう気はサラサラないよね!

だって直すって言ってくれたしぃ!


「あのさ、たくとくん…気がついてないと思うけど、よく見て?」

クロに言われた通り、男性を見ると

「あのぅ、クロさん?透けてませんかね、あの人…」

「そうにゃ、あの人は人間を騙すためのカラクリにゃ!こんなことを考えるのは、きっとあいつにゃ!」


言うやいなや館の屋根の方から

「よぉくわかったな!!にっくき黒猫ぉあ!!」

と甲高い叫びが聞こえた


「あ!お父様!!」



次回 第4話 ペルロイド

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