第5話 気配
誰もいないのに、誰かに見られているような、そこに誰かいるような・・・
これは多くの人が経験したことがあるのではないだろうか。
これは、観光地の大きな公園に立ち寄った時の不思議な体験。
小学校高学年の頃、家族旅行でとある観光地へ行った。
旅行の時は父がルートを決めるのだが、そのルートの中に大きな公園があった。
公園の中にある塔や埴輪のレプリカを見せたいと思いルートに入れたそうだ。
その公園のひらけた場所にある塔に近づいたとき、なんとも言い難い変な空気を感じた。
その大きな塔の圧迫感とはまた違う圧迫感を感じる。
その正体は分からないまま、どんどん進んでいく父に着いていく。
木の生い茂ったエリアで無数の埴輪と出くわす。
埴輪たちに見つめられているような感覚だったが、だんだんとそれが恐ろしいと思うように。
埴輪の目の数よりも数倍多い目に見つめられているような感覚。
そしてそれがだんだんと距離を詰めてきている感じがする。
辺りをゆっくりと見回し原因を探るが、木の葉の隙間から差し込む陽の光に照らされる埴輪以外は見当たらない。
怖くなって林から抜け出したいと思うのに、なぜか足が動かない。
不思議なことにこの時の記憶は映像としてしっかり記憶しているのだが、夏休みの観光地の公園なのに誰かが喋っている声や蝉の声などの音声が一切なく、代わりに耳鳴りがするようなキーンというとても高い音だけがこの時の映像と一緒に思い出される。
近づいてくる目の前の見えない何かに吸い込まれそうな感覚に陥りかけたとき、
「ほら行くよ!」
と、母がポンと肩を叩いた。
ハッと我に返ったその瞬間、目の前の空間が急に広がるような感覚を覚えた。
慌てて母の背中を追いかけながら振り返った林は、澱んだ空気に満ちた異世界のように見えた。
似たような経験は他にもある。
大学生の友人が論文か何かで古墳を調べていると言っていた。
私の通学路だった場所にある古墳に行きたいから案内してほしいと言われ、休日に一緒に行くことに。
観光名所になっているわけではないその古墳をわざわざ訪ねる地元民はいないのだろう。
その時も私と彼女二人だけだった。
少し急な坂道を登ると前方後円墳の円と思われる場所に円形に並ぶ石が見える。
その石は個人の墓なのか、「〇〇家之墓」と書かれていた。
通学路にあるが踏み入る事のなかった古墳が興味深く、探索しようと思い真ん中に向かって歩き出したその瞬間。
ザザっと風が急に吹き、晴れていたはずなのに急に薄暗くなったように感じた。
そして数歩歩いたところで足が止まる。
何かが私たちを取り囲んでいる。
また見えない何かが私たちの周りにいる。
上から下まで舐め回すような視線を感じてその場から動けない。
友人は写真を撮ったり、メモしたりと動き回っている。
私は入口で立ち止まったまま。
そんな私に気づいた友人が「どした?」と声をかける。
「なんか、ここ怖過ぎて。。」
と言うと、私の過去の話を知っている友人は、
「え、マジで?ちょっと待ってて!」
と急いで用事を済ませてくれた。
私を見て怖くなった友人と、一刻も早くその場から離れたかった私は転がり落ちんばかりの勢いで道路に繋がる坂道を駆け降りた。
慌てて車に乗った私たちは、
「なんか、、
怖かったねー・・・。」
と、口数少なく古墳を後にした。
何も見えなかったけど、明らかに歓迎されていないのは明らかだった。
ちゃんと見える人だったら、
話を聞いてあげられる人だったら、
こんな訳の分からない怖い思いはしないのだろうか。
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