第3話 遺伝

小さな頃から不思議体験をしてきた私だが、私の父も不思議体験をいくつか持っている。


父がまだ結婚する前のこと。

とある病気を患っていた父は大学病院に入院していた。


同じ病棟に入院していた小学校低学年の子が父によく懐いていたそう。

父の病室に来てお絵描きしたり折り紙したりして一緒の時間を過ごしたそうだ。


その日もその子が父の病室でひとしきり遊んで帰った。

その後、健康観察に来た看護師さんに「さっきもあの子来たよー」と話すと看護師さんの顔つきが変わってこう言ったそうだ。


「あの子もう亡くなってるよ」と。



つらく窮屈な入院生活の中で彼にとって楽しかったと思える時間を父と過ごすことができて、きっと最後に会いに来てくれたのではないかと思っている。




父には姉が2人いたが、一人は私が産まれる直前に子ども2人と一緒に住宅火災で亡くなってしまった。


ある晩、家の2階の寝室で寝ていた両親は、階段を駆け上がるような音で目を覚ました。

当時祖父母の家で同居していたため、祖父母が2階へ来たのかと思いドアを開けるが誰もいない。

おかしいなと思いつつ布団に戻ると、また聞こえてくる足音。

もう一度確認したがやはり誰も上がってきていない。


こんなことが2〜3日続き父は気がついた。


大人の足音ではなく軽い体重の子どもの足音だと。


姿は見ていないが階段を上がっているのは亡くなった甥ではないかと思った父はお骨に何かあったのではと感じ、お骨を預けていたお寺へすぐに向かった。


お寺へ預けられていた3人のお骨はお線香もあげられておらず、お寺の一角に放置されていた。


管理の方法に苦言を呈し改善してもらうという約束をして帰ってからは、階段を駆け上がる足音はしなくなったという。


父は「骨が杜撰な管理をされいる、助けてほしい」という甥からのメッセージだったんじゃないかと話していた。




私が小学校低学年の頃、夜父が家に帰ってくるとひどく具合が悪そうだった。


家へ帰る途中のそんなに大きくはないT字路があるのだが、そこを通ったあたりから急に具合が悪くなったと言っていた。


それを聞いた母が「そこ、今日の昼間に事故があって小さな女の子が亡くなってた」と昼間の事故のことを伝えると父は「あぁ、だから」と言った。

そういう時に感じる特有の体調不良がなぜ今日いきなり起こったのか、母の言ったことを聞いて合点がいった、という感じだった。



父が病院で見た子のように、私は亡くなった人が普通の人のように見えていることが多いのかもしれない。

母からは一切こういう類の話は出てこないから、これは父から受け継いだものだろう。


私が父から受け継いだものは、私から私の子へ受け継がれたのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る