第2話 光る人
私が4歳だった時のお話。
父は毎晩ビールを数本飲んでいたのだが、その日は家にあったストックではビールが足りなくなった。
近所の酒屋の前の自動販売機でビールを買うために、車へ乗り込んだ。
運転は母。
助手席の父と楽しそうに会話をしている。
後部座席に座る私は窓の外を流れる景色を眺めていた。
時間は夕飯直後だったので午後7時半くらいではないかと思われる。
車はライトを点けて走り、家々の窓からは明かりが漏れている。
比較的広い国道から酒屋の前を通る細い道への入り口数十メートル手前でウインカーを出し車が減速し、体が少し前へ傾く。
右折しながら近づく歩道に目を向けた時、ぼんやりとした青白い光の塊に気づいた。
街灯にしては低すぎるし、地面から光っている街灯なんか見たことない。
不思議に思い、目を凝らして光の塊を見ているとだんだんとその輪郭が見えてきた。
光っているのは人だった。
全体がぼんやりと光っているせいかハッキリとした色は分からなかったが、全体的に土が付いて汚れたような茶色のような緑色のような服。
ヘルメットか帽子をかぶり、肩からは同じような色味の丸っこい水筒。
なぜ光っているのか疑問に思い両親にたずねようとした時、その人の顔が見えた。
呆然と立ちつくしているその男の人の顔は傷だらけだった。
その存在への恐怖と言うより、人の怪我を見ることへの恐怖が大きく思わず目を逸らした。
細い道へ入りきった車は少し速度を上げてその人のいた場所から遠ざかっていく。
恐る恐る後ろの窓を覗くと、変わらず立ち尽くしている弱い光を発した先ほどの男の人がいた。
3歳の時に見た女の人とは違って、一度視線を外してもそこに立ち続けていた。
私は両親があの男の人を気にしてないことを不思議に思い、帰りに男の人の前であの人が光っている理由を聞いてみようと思ったが、帰りに同じ道を通った時にはもう男の人はいなかった。
今なら分かる。
人が光ることなんて無いと。
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