ちょっとだけ怖い不思議体験談

猫狗尾草

第1話 小さな頃に見たもの

私の最初の記憶は1歳半くらいの頃のもの。


夜、父と母と私3人で寝ようとしてるときで私は母の横で寝ようとした。


しかし「お母さんのお腹に赤ちゃんがいて蹴っちゃうと危ないからこっちで寝ようね」と父の横に移動させられ「何で?私はお母さんと寝たいのに!!」と納得がいかず泣いたのを覚えている。


その後弟が産まれた。


祖父の趣味で枯山水をイメージして作られた庭に敷かれた玉砂利の上に座っていた当時生後9ヶ月くらいの弟が、私の目の前で手で掴んだ玉砂利を口に入れてしまった。


これはマズイと思い慌てて口の中から玉砂利を掻き出した。


慌てて飛んできた母が家の中に弟を抱いて駆け込んで行った姿を今でもハッキリと思い出す。


このくらいの頃の話をすると、普通はそんな小さな頃の記憶なんかあるはずが無いと言われてしまう。


こういうタイプは少数派なのだろう。


最近母に小さな頃に家にあったオモチャの話をしたらあまりに細かくおぼえているものだから、気味が悪いと言われてしまった。


そんな小さな頃の記憶が鮮明に残っている私が体験した不思議なお話。



祖父母の家にいた当時3歳の私。


祖母に背負われて仏間に向かっていた。


祖母の背中越しに廊下の先に視線を向けると知らない女の人がいた。


その女の人は真っ直ぐな廊下の突き当たりの押し入れの前を歩いているが、向きがおかしい。


廊下の左側は庭で、一面ガラスの掃き出し窓になっている。

開けてすらいないその掃き出し窓の方から歩いてきたような格好なのだ。


大きな花柄の入った美しい赤い着物を着た女の人。


美しい着物とは対照的に、結われることなく毛先がもつれているように見えるボサボサの長い黒髪にとてつもない違和感を感じた、

その時



彼女と目が合った。



とてつもなく憎悪に満ちた恐ろしい眼差し。


恐ろしさの中に悲しみの感情が溢れていたのが気にはなったが、とにかく顔が怖い。


恐ろしい形相で睨みつけられた私は祖母の背中に顔を埋め「ばあば!!そっちに行かないで!怖い!」と叫んだ。

しかし祖母は「何言ってんの〜。何が怖いのよ〜」と、どんどん近づいてしまう。


「ばあばは何でアレが怖くないの?」と思いながら、祖母の肩から片目だけ覗くように廊下の先を薄目で見ると、さっきまで私を睨んでいた美しい着物の女の人は廊下にもその先の仏間にもいなかった。


このことがあってから少し大きくなるまでの間、夜は一人で廊下を歩けなくなった。


あの美しい着物の女の人は一体誰だったのだろう。


10年ほど前、仕事関連で出会った方と話の流れでこの不思議体験を話したことがある。


その方が先にご自身が体験したちょっと怖かったことを話してくださって、腕にあるお数珠や車に置いているお数珠はただのファッションではないと教えてくれた。


私のこのエピソードを聞いたあと、少し黙って「彼女はあなたのご先祖様かなぁ」と言った。

「ご先祖様に非業の死を遂げた身分の高い人がいたんじゃないかな?詳しくは分からないんだけど、あなたの家の血筋の方だと思う」と続けた。


非業の死と聞いて、憎しみの中から悲しみを感じたことが腑に落ちたような感じだった。


ただ、あれ以来あの美しい着物の女の人は見ていないし、仕事関連で出会った方が本当にそういうことが分かる人なのか、美しい着物の女の人が本当にご先祖様なのか今となっては確かめようがない。


彼女はあの時私の前に現れて何を訴えたかったのか。


あの目を思い出すと今も少し背筋が寒くなる。

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