第12話

 マキ達が潜む宿屋を包囲したのは宮崎が指揮する城間組の全構成員だった。

 宮崎はマキ達の実力を過小評価することはなかった、ここで二人を倒すことができなければいたずらに人員を消耗するだけになることを宮崎は理解していた。

 夜襲を仕掛けるために部下を潜入させてから10分、マキ達が逃げ出してくることもなく、潜入させた部下が帰ってくることもなく、宮崎は夜襲が失敗したことを悟った。

 とは言え、彼は襲撃が失敗することを予想済みだった。狭い場所はマキの独壇場であるし、彼女を補佐する男は銃の名手であるらしい。この襲撃は彼女たちを誘い出すためのものである。民間人がいる建物の中で戦うことをマキは嫌う傾向にあることは長い付き合いで把握している、戦闘を仕掛ければどうにかして外に出てくるであろう。

 また、明日に迫っている城間組の会合に間に合わせるためにはマキ達は宿から打って出る以外に榊原を仕留める手段がなく、籠城は選択しないと考えられた。

「お前ら奇襲は失敗だ、奴らの攻撃に備えろよ!」

 部下に檄を飛ばすと、宮崎は自分の銃のシリンダーを回して雷管の装着を確認した。

レ・マット・リボルバー9連発+1散弾、銃身の下に散弾用の銃身が取り付けられている特殊な大型拳銃である。

 宮崎はマキを殺すつもりはない、どちらにせよ彼女を止められるような精鋭は全て彼女達に殺されているため、部下が彼女を殺す可能性も皆無だろう。それほどに彼女の実力は鮮烈であった。城間流格闘剣術免許皆伝者の数少ない一人、先代から組に仕える剣士、城間岬と唯一マトモに手合わせができる強者が彼女である。

 彼女を唆している相方とやらを殺し、マキの目を覚まさせる。宮崎の狙いはむしろ五郎のみに定められている。

「妙だな……」

 暫く時間が経過しても、マキと五郎が室内から攻撃を仕掛けてくる気配はなかった。宿を包囲する者たちの間にも気の緩みが出てきた頃、唐突に宿の裏手から叫び声が聞こえた。

「来たか、お前ら逃がすなよ!」

 男たちは一斉に宿の裏手に走り出す。宮崎も続き裏手に走り出そうとした。

 次の瞬間、裏手から突進した何かが男達を吹き飛ばし、表通りに躍り出た。ふわりと道に着地したそれは、二人の人間を見せた大柄の馬であった。

 袴を揺らしながら馬を操るその人物と、宮崎の視線が交差した。

「達郎、悪く思わないで頂戴」

 刃に貼りついた血液を振り払いながら、マキは馬の腹をふくらはぎで締めた。走り出す馬を止めようと銃を抜こうとした宮崎は、馬の後部に座っている男が銃口を向ける様子を見て建物の陰に飛び込む。

 直後に発砲音、宮崎の立っていた位置には2発の銃痕が残っていた。

 あの瞬間で、なおかつ不安定な動きをする馬の上で正確に2発を撃ち込んだ男の腕前に宮崎は感嘆せざるを得ない。

「やってくれる……」

 宮崎は舌打ちしながら宿の裏手に走った、そこには宮崎の予想通り、複数の死体と厩に馬が繋がれている光景があった。その中から最も大きい馬に飛び乗ると、馬を走らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る