第2話
坑夫たちが酒盛りをしているテーブルの隣に座っていた女は、酒場に来たというのに何も注文せず、一人口を固く結んで座っていた。
女の名前は城間マキ、長い髪をひとまとめにして結っており、袴と赤い着物を着こんでいる。鋭い目とそれを覆い隠す長い前髪に阻まれて気づかれることは少ないが、よく見れば顔立ちが整っていることがわかる女だった。
マキがこの店に入ったのは、彼女をつけている集団をどうしても撒くことができなかったからであった。相手は明らかにプロだった。民間人の前でなら一時的にその場をしのげるのではないかという希望に賭けて酒場に逃げ込んだが、尾行者はマキのことをどうしてもここで仕留めるつもりらしかった。
マキは席にかけていた細長い袋の縛りをほどく。
男たちは立ち上がり、マキを囲むようにして逃げ道を塞いだ。
「悪いけどよ、お前には死んでもらうぜ」
マキを囲む刺客たちが一斉日懐から銃や刀を抜くと、店内は悲鳴で包まれた。
その喧騒を一切気に留めることなく、刺客達とマキは対峙したまま動かない。
「城島、こんな茶番に付き合う必要があった?」
城島と呼ばれた浅黒い肌の刺客は、表情を動かさない。
「オヤジの命令は絶対だろうが」
「私たちの初めての仕事も、仲間殺しだったものね」
城島の瞼がピクリと動く。
マキはそれを合図に袋の中に手を突っ込みながら腰を椅子から跳ね上げた。
不意を突かれた刺客達だったが、その中でも城島は即座にマキに発砲する。
マキの後ろ髪の幕に銃弾が穴を開けた。つまり、銃弾は彼女に当たっていない。
城島が息を飲んだ時には、城島の腕は跳ね飛ばされていた。
マキが袋の中から引き抜いたのは、彼女の身長ほどあるのではないかと思われる太刀であった。
太刀一本で他の組を壊滅させてきた規格外が相手であると刺客達は知らされていた。しかし、この瞬間まではどこか冗談のように感じていたのである。
「アニキィ!!このクソアマぁ!」
刺客達がマキにもう一度照準を向けるよりも早く、マキは城島の隣にいた刺客の首を跳ね飛ばす。身をひるがえし、自分たちに太刀を構え踏み込むマキに刺客達は発砲が間に合わないことを悟った。
「やらせるか・・・・・・!」
だが、マキは踏み込んだ場所から体を動かせなかった、城島は残った片手と体をマキに巻き付けて一瞬の隙を作る。それでもマキは屈みながら銃弾を回避し、発砲した男の足を跳ね飛ばすと勢いのまま刀を返した。正面にいた男の腹が切り裂かれる。
マキの殺戮もそこが限界だった。状島に抱き着かれたことで動けないマキの太刀が、刺客に跳ね飛ばされる。
武器を失ったマキの顔面に拳が叩き込まれた。
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