第6話

金曜日の夕刻になった。

予定通りに彼女から教えてくれた待ち合わせの場所の近くの駅で待っていた。車両の音が通り過ぎていくのに気がつくと、一斉に人が群がって改札口から出てきた。

どこにいるのかと辺りを見回していると、思い切り右肩を叩かれたので振り返ると彼女だった。


「とりあえず行こう」


しばらく歩いていくと、高層ビル並みのホテルが見えてきた。そこの上階にあるレストランに行くと言ってきたので、渋々ついていくとエントランスホールからエレベーターで上がっていき、約束した通りに中華飯店に入っていった。


席につくや否や、彼女は早速メニュー表を見ていくつか注文をしていった。僕もつられるように数品を注文した。


「あのさ……ここ結構良い値段だよ。そんなに頼んで大丈夫?」

「うん。たまには良いじゃん」

「来たことあるの?」

「ない」

「へ?」

「あー早く飲みたい。来ないかな……?」

「そういえば仕事、仕事は順調?」

「まぁね。あんまり話したくないから別の話にして」

「少しくらい聞いたっていいじゃん。そっちだってあのホテルだっけ?」

「そう、カフェバーのスタッフやってるよ」

「時間もばらつきがあるだろう?重労働じゃない?」

「トータルで7年やってるから慣れっこだよ。いいからその話止めて」


そうしている間にテーブルに次々と品物が置かれていくのに目が点になった。ビールで乾杯をした後彼女は当たり障りに食事にありつけていった。良い食いっぷりだ。食べてもいいよとテーブルを回してくるとフカヒレのスープだった。

恐る恐る口にすると塩みがちょうど良く具材と合わされていて、溶けるように喉に流れていった。


「すいません、紹興酒と……この茅台酒マオタイシュも、追加で」


始まった。

飲むスピードが早くなると、ほとんど会話する間もないまま食らいつくように食べていった。

ゆっくり食べようと告げても睨み返してきたので大人しく食につけていった。


2時間近くは経っただろうか、彼女は酔いに任せて時々しゃっくりをしてはニヤついて、靴を脱いでは両脚を抱えてグラスを片手に持ちながら何かを呟いていた。


「そろそろ、出よう。こっちもお腹いっぱいになったよ」

「嫌だ。お願い、紹興酒また追加して……」

「もうやめなよ。そっちがずっと酔っ払っている分、周りのお客さんもさっきからこっちを見ているんだぞ?」

「他の客なんかどうでもいいじゃん。あたし達で楽しんでいれば関係ないし」


僕はついに呆れてしまい、席を立ち彼女の腕を掴み帰るように促した。するといきなり大声で話し始めた。


「あたしらの関係を今から暴くよ。いい?あんたね、こないだのセックスがどんだけ気持ち良かったか、ここで再現してやろうかぁ?!」

「全く……変なこと言うな。……すみません、お会計お願いします」

「お相手のお客様、大丈夫ですか?」

「ええ、お気遣いなく。酒癖悪いだけなんで……」

「お前偉そうにしてんじゃねぇよ。あんたの喘ぎ声ブっ放つよ?!」

「一生やってろ!」


僕は相手にしたくなかったので会計口に行き精算をしてもらうと、跳ね上がるくらいの桁数が目に入ってきたので、大きくため息を出してカードで決済をした。

コートを返してもらい席に戻ると僕を睨んでいたが、無理矢理腕を引っ張り出して店から出てエレベーターに乗った。


「吐く」

「次は何だ?」

「吐く……トイレ行きたい……」


1階に降りて近くにいた従業員に声をかけトイレに案内してもらった。1人だと不安だと言い出したので一緒に女子トイレに入って行った。

ドアを開けて便器の中に思い切り嘔吐する様子を見ながら、頭が痛くなり額に手を当てた。


彼女は咽せながらトイレットペーパーを引いて口を拭いていた。その哀れな姿が痛く感じたのか僕は背中を摩ってあげた。彼女は振り向いて軽く微笑んできた。


「想ちゃん……好きだな……」

「はい?」


すると肩を掴んで壁に打ち当てられて彼女は僕に口を塞ぐようにキスをしてきた。

僕は目をギョロリと見開いたまま驚いて身体を離そうとしたが、舌を絡ませていく度に次第に思いに濡れそうになり、2人でしばらく唇を交わしていた。

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