第5話

「では、こちらの送金分をお預かりをいたします。椅子にかけてお待ちください」


あれから3ヶ月が経過した。僕はいつも通りに勤務先の郵便局に出勤して窓口業務にあたっていた。

お昼時になると少し局内も混んできた。また時間が過ぎていくと客足も空いてきたところで、局長が昼休憩を取るように声をかけてきた。


歩いてすぐ近くのところにある蕎麦屋に入り柏蕎麦と稲荷寿司を注文した。店員が運んできて食べようとした時にスマートフォンにメールが送られてきた。


彼女だった。


週末に会えないかという内容だった。昼飯なら良いと返信すると何かの画像が添付されてきたので開いてみたら、プレイボーイに出てくるような色気のある外国人女性の挑発めいたポーズの写真を見て、思わず吹き出しそうになった。

今どきこのようなイタズラをしてくるやつがいるものなんだと首をかしげた。


18時半を回ったところで退勤をして帰宅した。

今日はそれほど忙しくはなかったのに身体が疲れている。冷凍庫を開けて簡単に調理できるものはないかと探していると、2日前に炊いた山菜の炊き込みご飯が出てきた。

母親が作ってくれた茄子と大根の漬け物もある。適当に味噌汁を作ってそれらを夕飯にしよう。食事を済ませてテレビを見ていたら、着信が来ていた。彼女だった。


「あのさ、昼間の写真は何なんですか?」

「気に入った?」

「やるにも程がある。もうああいうのは送らないでくれ」

「じゃあ今度は日本人にする?どんな子がいい?」

「……あのねぇ、エロい画像は2度と送ってくるな。いいかい?」

「何さ面白くない。少しは息抜きに見ておったててもいいんだよ?」

「どこまでオヤジくさいんだよ。要らない。切るよ」

「あぁ……あのさ、今週末にご飯食べることだけど、行きたい場所があって。中華って好き?」

「まぁ食べれるよ。……分かった、あとで場所教えて」

「じゃあね」


僕には結婚どころかパートナーと呼べる相手がいなかったが、本当はこの時期すでにアキという本命とも知り合いになった頃だった。

悪気はないが彼女はどちらかといえば、友人未満の存在でもあったのだった。


僕は非力だ。優しすぎるのかずるいのかそれらを天秤にかけたらどちらにも位置付けされずにプラスマイナスゼロ。つまりほとんど無の人間にいるような境地だ。


自分が女性はおろか、男性に意識していったのも高校生の頃からだった。当時放課後の教室に待たされていると、隣のクラスにいる女子に告白された。一応付き合う事になり、その事を親友だった男子生徒に打ち明けると、今度は別の日に呼び出されて彼が僕が1人の男として好きだと言ってきた。


当初は動揺もあったが、一緒にいるうちに意識し始めて次第に好きになっていった。時々授業を抜け出しては屋上に行き、誰も居ぬ間にキスもしては微笑み合っていた。


ある日、当時の彼女が彼と鉢合わせになった発端で全クラスから敵の的として冷たい視線を交わされるようになり、彼女とは別れた。

更に翌年の卒業式が終わり、彼と街で一緒に手を繋いであるいているところを見知らぬ人から軽蔑された事で喧嘩になり、警察にもお世話になってお互いの両親に説明すると、2度と会うなと言われてそのまま自然消滅した。


刹那に浸るとはこういう事を指すのだと改めて知らされた。それからは真面目に大学にも進学し、ギリギリだったけれど公務員試験に受かり今の職に就いた。歳月なんて生きていればこんなにも時間の流れが早く経つものなんだな。


淡い思い出だったがいつしか色んなものに追われるように、時代の波に乗りながらさしずめ何事も楽しみながら勤しんでいき、気づけばオヤジ以上の男勝りな彼女に出会ってこうして辿り着いたんだ。


ただ相手は僕にはどこまで関心を持ってくれているのかは半透明のままだ。色々と考えているうちに、テレビをつけたままいつしか眠ってしまっていた。

少しだけ寝冷えしたようた気がしたので、いつもより早く寝室へ行き改めてベッドへ潜り込んで眠った。

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