第2話

翌日、彼女の母親から連絡が来た。

葬儀に参列して欲しいという内容だった。

しかし僕は、突然亡くなった悲しみと他の親族とも親しくしていなかったので、合わせる顔がないと返答すると了解はしてくれた。


49日を過ぎた頃に挨拶に伺いたいと話すと分かったと言ってくれた。僕は彼女と出会ってから5年間は友人としていたが、彼女が実家から1人で暮らすようになってから会った時には、いつの間にか肉体関係を持つ間柄になっていた。


お互いに恋人がいる。それでも会う度に幾度となく身体を重ね合わせていた。この年齢になっても本命以外の友人と人目を気にしながら密会するようにいるのはいい加減に見切りをつけたいと考えていたところだった。


そんな時折に原因が不明なまま彼女がいなくなった。もっと話がしたかった。


死因の発端になった形跡がないので、とにかく彼女の足跡をも探しようがない。時々口喧嘩になる事もあったが、仲直りも早かったので凄く仲が悪かった訳でもない。

一体彼女は何が心に引っかかっていて死を選んだのだろう。


その週の土曜日、時間にして明朝4時。

突然スマートフォンの着信が鳴ったので、飛び起きて出てみると、僕の彼からだった。

どうやら酒を飲み過ぎたらしく、自宅のトイレで嘔吐して便座の上に顔を置きながら電話をかけてきた。


「今度は何があった?」

「同僚の女に男が本命だって話したら馬鹿にされたよ。酷すぎない?」

「……今話すことじゃないじゃん。寝かせてくれよ」

「え〜聞いてよ。いくら飲んでもその事が頭から離れないんだよ。飲み足りないからこれからウチに来て」

「……無理ですから。じゃあそっちももう寝ろよ。おやすみ」


実にくだらない。この後も数回彼から着信は来たが無視するしか対応しようがなかった。

11時。ようやく目が覚めて思い切り背伸びをした。コーヒーを淹れてソファに座り、昨夜の残った惣菜を適当に食べた。ぼんやりと天井を眺めてはあくびが出た。


今日は休日だが、夕食を買いに行く頃まで何も予定がない。クローゼットを開けて衣替え用の物がないか確かめてみた。あと1、2着は買い足ししたいな。

気分転換になると思い、衣服に着替えて家を出た。ようやく日差しが暖かくなってきて、湿度も上がり気持ちの良い風に包まれながら歩道を歩いていった。


電車に乗って中心部へ向かうにつれて人が混み合ってきた。駅に着き改札を抜けると、更に気温が上がっていた。行きつけの店に立ち寄った後、今度は3駅先の所まで歩いていった。

少しじんわりと汗をかいていたので、ちょうど道路脇にあるカフェに入り、サーモンとクリーム、ブルーベリーのベーグルを1つずつとアイスティーを注文して腹を満たした。


1時間後に店を出て、もうひとつの複合施設に行き、春ものの衣服を購入した。

15時半。そろそろ自宅へ帰ろうか。直通の電車に乗り合わせて、最寄りの駅に着くと、スーパーへ買い出しに中へ入りいくつか食材を買って自宅に帰ってきた。玄関を閉めて部屋に入ろうとした時、見覚えのある靴が置いてあった。


「来るなら連絡のひとつはしろ」

「想ちゃん。友達から馬肉もらった。夕飯一緒に食べようぜ」


明朝に酔い潰れて電話をかけてきた彼だ。

名前は箭内秋葉。アキと呼んでいる。彼は僕の5歳下で勤務先の先方の知り合いの人から紹介された老舗デパートの執行役員。

今どきっぽいスマートな風貌でちょっとしたエリートだが、親しくなれば分け隔てなく気さくに寄ってくるやつだ。


初めは軽いノリで飲み友達として付き合っていったが、そのうちにお互いにカミングアウトをし、そこから交際に至った。


タイミングが良かったのか、買ってきた食材の中に長葱や水菜などの野菜がいくつかあったので、しゃぶしゃぶにしようと伝えると最高だと喜んでいた。

一緒に支度をして、用意ができるとグツグツと煮えている鍋に早速肉を湯がいて小皿のタレにつけて食べた。


「うんめぇ〜」

「旨いね。馬肉強いわ、優勝ぉ」


久しぶりの贅沢な食事という事もあり僕らは終始その味につづみを打っていった。

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