晦渋という耐えがたい存在の軽さ

桑鶴七緒

第1話

彼女セフレが自殺をした。


その音は普段聞くような生活音とは違う、鈍くもやけに肥厚した肉がえぐられるような音が耳に入ってきた。

僕は目を覚まして起き上がり、いつの間にか開いているベランダの窓から入る生温かい風を肌で感じていた。


昨夜から泊まりに来ていた彼女かのじょの姿がない。


その吹く風の流れに誘われるように、ベランダに出て外の空気を全身で思い切り吸った。

風が吹くと手摺りがカタンと揺れる。その手摺りに片手を掴みしばらくぼんやりと滲む朝焼けの空を眺めていた。

身体を刺すように突風が吹いたので、部屋に戻ろうとした時、足元にタバコの吸い殻が落ちていたのに気づいて、手ですくうように拾い集めた。立ち上がった時、僕の目線は裏庭の軒下にいった。


よく見ると、長い黒髪の人物がロングTシャツ1枚を羽織ってうつ伏せに倒れ込んでいる姿が目に入った。僕は衣服を着て部屋を出て、1階の玄関口から裏庭に駆け寄った。

ゆっくりと近づいて髪に覆われているその顔を覗いてみた。


間違いなく彼女だった。彼女が自殺をした。


すぐに手に持っていたスマートフォンに救急車を呼び、15分後、警察と救急隊の人らがやってきた。すぐさま現場検証が行われて、担架にぐったりとした様子の意識のない彼女を乗せていき、僕を置き去りにするかのように病院へ行った。

その10分後マンションの管理人が駆けつけてきて、詳しく事情を聞かされていった。

僕は正直になり昨夜の様子を話し、普段通りの会話をしていて、何事もなく同じベッドで眠って一晩共にいた事も話した。


2時間近くが経過して、今度は病院から連絡が来たので、管理人と一緒に向かった。到着して受付外来の事務員に尋ねると、もう1人の職員が僕らを呼び出し、地下の安置室に案内された。


とある一室の中へ入ると、白いシーツに覆われた彼女の姿があった。面布を外すと額から頬にかけて血痕があり胸の中をえぐられる気持ちになった。再び1階のフロントに戻り椅子に腰をかけて待っていると、彼女の両親が僕の元にやってきてその後彼らは安置室へ向かった。


こちらに戻ってくるまで待とうかと思ったが、顔を合わせる気がしなくて先に自宅へと足早に帰った。


マンションに行くと未だにバリケードが貼られたままだった。その場所を通り過ぎて自宅へ入り玄関先に立ちすくんでいた。


実は僕はある事を警察に話さなかった。昨夜の出来事だ。


お互いに酒の酔いが回ってきたところで、衣服を脱ぎ合い、ベッドへ飛び移るように身を任せた。僕は彼女の華奢で色白の裸が好きで、前戯は決まって足の先からふくらはぎや太もも、尻や腰や背中を舐めるのが定番だった。

途中から陰部の中を指で弄り始めると彼女は早くイキたいと告げてきたので、僕は膣の中に顔を埋めて舌を使い愛撫していった。


彼女は息を荒くしていつもより声を上げていた。もっとイカせてあげようと前歯で柔らかいヒダを噛んでいくと、突然彼女は自分の片足を僕の肩に蹴り上げてきた。

赤ら顔をしながら睨みつけてきたが、僕も続けて彼女の股間を口で塞いで舌で舐めていこうしたら、今度は僕の顔面に片足を押さえつけてそのまま勢いよく蹴り上げてその反動で僕はベッドからを床に落ちた。


「痛いんだよっ。やりすぎだろ……今日はもうやりたくない。寝るわ」


彼女はそう言って不機嫌になり布団を覆って眠ってしまった。確かにこちらも強引だった。

まるで強姦をしているかのように彼女の身体を弄んだかのようにセックスを求めてしまったからだった。

頭を掻きむしりやり切れない思いのまま、クローゼットから布団を引っ張り出してソファの上に寝たんだった。


その数時間後に目が覚めてベッドに眠る彼女の隣に寄り添うように一緒に眠って過ごしていったのだった。

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