第27話 あのシリーズを覚えていて褒められた
小鳥あるみの店頭対応で体験したことです。
書店の立地が繁華街も近かったので、水商売っぽいお客様、ちょっと危険な雰囲気のお客様もよく来店されていました。そしてあるみは、本物の極道に遭遇しました。
雰囲気から出で立ちから、映画の世界から出てきたのかと思うほどの迫力があります。若頭ポジションと思われるシュッとしたイケオジと、おつきの人っぽいちょっとふくよかなおじさん。そして後ろにはちらほら若手がいました。
そんな一団がカウンターでお問い合わせをしてきたのです!
むしろ会話をしてみたいと思い、あるみが接客をします。
「ちょっとムショに入っているやつに本を送りたくてな。長い作品を毎日少しずつ送りたいんだ」
ふくよかなおじさんが、気さくに聞いてきます。
ムショ!そして差し入れの本を探しているとな?!これはどの本をおすすめするのが正解なのか…やはりアングラ系がいいのか…いや、見た目で判断してはいけない…
「ヤン×ガの作品はどうですしょうか。新宿ス×ンとか、頭×字Dとか鉄板ですよ」
「そうか~でもそいつそんな若くはないからな~」
「でしたら、モーニ×グの作品の方がいいですかね~」
「あ、いいね。あれだ、島×作ある?」
「シリーズがたくさん出ていますが、最初からでいいですか?」
「あ、島×作って今、どこまでいってんだっけ」
「課長、部長、取締役、常務、専務までございます。次回作では遂に社長になりますよ、連載はまだですが。あとは、課長より前のヤング時代もございます」
「凄いね、調べないですらっと言えるんだ」
「担当しておりますので」
この時、ドヤ顔をしていた自覚があります。まさかのコワイおじさんに褒められるとは!毎日せっせと棚に補充していた日々が報われました。
ふくよかおじさんは島×作を出ている分をごりっと購入してくれました。
「配送ご希望ですよね」
「そうそう、あ、宛名はこいつが書くから」
後ろにいた若手が、配送伝票の記入をします。
「それでさ、5冊ずつ配送して欲しいのよ」
「1つにまとめずに、5冊ずつですか。可能ですけど都度送料をいただくことになりますが」
「大丈夫大丈夫。刑務所のルールで1日の上限が決まってるんだよ」
そうなんだーーーーー!生きた雑学!
ためになったなぁ~ためになったよぉ~
毎日、5冊ずつ。刑務所の中の人は島×作が出世していくストーリーを追っていくんだなぁ~
書店にぞろぞろと来て、選書してお金を払って。そっちの世界の人が、義理人情に厚いっていのは本当なんだな~
よくある【堅気の人に迷惑はかけない】っていうのも本当なんだな~見た目はコワイけどみんな紳士だったしなぁ~若頭、めっちゃかっこいいな~
それ以降、そっちの世界の人とは出会っておりませんが、あるみの人生の中でのインパクトは残り続けています。
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