第13話 そのおはなし、書店員は聞いています

 小鳥あるみの店頭棚だし中に発動しがちな癖です。


 書店員として店頭のメンテナンスをしていて楽しみなのが、お客様同士の会話です。

リアル口コミは聞いていてかなり有益な情報です。


「この本面白いよ~」

「あ~これ○○さんが読んでるって言ってた~」

他愛ない会話でも、書店員は聞き耳を立てています。


この情報を元に、在庫数の調整や新刊時の注文数を決めていました。

もちろん1人だけの意見ではなく、数名のお客様の口コミを元にします。

やけに話題に出る作品だったら、売り時間違いなしです!


あるみは、無駄に聴力がいいので聞き耳レベルが高めです。


 ある日、集×社の棚前にホストらしき男性と、ホステスっぽい女性の2人がいました。

「ねぁ、この本知ってる?超面白いんだよ」

「えぇ?私あんまりマンガ読まないんだよね」

「マジで?これめっちゃオススメだよ」


何を熱心に進めているのだろう…ちらっと見ると『NA×UTO』でした。

面白いけども、彼女にはちょっとどうだろう??

引き続き、自分の棚をメンテしながら聞き耳モードにします。


「どんな話~」

「忍者。かっけーの。これさ、この見て、ここ。こいつさ狐なんだよ」

え、そこ言っちゃうの?!ネタバレじゃない?!

「え、狐~何それ」

「あ、じゃあさ、ちゃんと説明してっていい?」


すると彼は、1巻のあらすじから順に彼女に説明を始めていきます。

「まずはさ、1巻でNA×UTOが~」

まさか、その感じで最新巻まで教えていくのか?!

結構巻数出てるぞ!?

説明終わるか?!


 当時でも30巻は刊行されていたので、この調子でいくと説明タイムは1時間以上になります!

さすがに彼の説明を最後まで聞くことは、あるみには出来ません。

ちょっと聞き続けたいという気持ちもありますが、発注もしないとだし、レジの時間もあります。

無念…


彼が3巻目の説明をはじめた時に、棚から離れました。

彼女は彼の話を遮ることなく、耳を傾けています。


一生懸命説明している彼は、少年のような顔をしていました。

本当に面白くて好きな作品を知って欲しい気持ちが伝わります。


 なんか、可愛いなぁ~

あっぶな!こういうポイントで沼ってしまうのでしょう。


髪の毛は色も抜け気味の茶髪、ピアスにリング、ホストらしさを象徴するスーツ、街であれば敬遠しちゃうようないでたちです。

が、一生懸命に好きなものを説明しているギャップはご馳走様じゃよ。

幸せにな。


 勝手に人の会話を盗み聞きして満足したでばがめ書店員。

またも勝手に2人の幸せを願ってクールに去りました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る