第11話 3.11、その時の書店員

 小鳥あるみは、あの日も書店で勤務中でした。


 いつものように在庫をストックしているバックヤードで、先輩書店員と談笑しながら整理をしていました。

すると、体験したことのない大きい揺れが襲いました。

棚の上から、バラバラとコミックが落ちてきます。

狭いバックヤードなので、このままでは本に阻まれて店頭に戻ることも出来ない!

すぐに先輩の手を引いて、バックヤードをでました。


店内には緊急地震速報のアラームがあちこちで鳴っています。

普通に買い物をしていたお客様も、レジ待ちしているお客様も、店員たちも、全員が不安な顔をして大きい揺れに耐えていました。


 ベテランの調査役が落ち着いた声で誘導をしてくれます。

慌てず、まずは揺れが収まるまで落ち着いて。

徐々に揺れは収まりましたが、お店をひとまず閉めることになりました。

お客様の対応をして、順次外に出てもらいます。


誘導をしている時、若い男性が携帯を片手に教えてくれました。

「どうやら、東北の方で大きい地震が起きたみたいだよ」

東北の地震がここまで…


お客様の誘導を終え、社員さんは店長たちと連絡を取りながらお店を閉じます。

あるみ達も外に移動します。


 3月はまだ寒く、着の身着のままで外に出たため寒さが体を刺します。

書店員の生態といいますか、力仕事中は薄着になりがちなので、あるみはまさかの半袖でした。

そこに遅番スタッフも合流して、来ていた上着を貸してくれました。

彼女も寒かっただろうに。


続く余震。

道路にはたくさんの人が出ています。

見上げるとビルがぐらぐらと揺れて、今にも倒れてきそうです。

悲鳴も上がる中、

「耐震設計のビルは、逆に揺れるように出来てるんだよ。だから大丈夫」

スタッフ仲間が教えてくれました。


揺れも収まり、スタッフ達は店内に戻ります。

今日は臨時閉店。棚には危ないから近づかないように。

交通が機能していない可能性もあるから、休憩室やバックオフィスを解放します。との案内がありました。


 各自、どうするか選択します。

家が近い人は帰宅、家族が迎えに来てくれる人は待ち合わせ、あるみは数人のスタッフとともにお店に泊まることにしました。

夜も断続的な地震や地鳴りを感じましたが、怖いという感覚はありません。

ちょっとした合宿だと思おう、みんなが近くにいてくれる。

家族からも「誰かと一緒にいなさい。実家は大丈夫」と連絡があり不安はそこまでなかったです。


 翌朝、テレビで東北の状態を見て絶句しました。

携帯に友人から連絡が入ります。

「近くで落ち合おう、一緒に帰ろう」

いつもの駅は人混みで動くことも出来ません。

友人と合流して、はぐれないように手を繫いで、必死に家に向かいます。

ちょうどタクシーを拾えて、また電車を乗り継いで、丸1日をかけて家に辿り着きました。


書店が再開して、東北の店舗に物資の輸送をしたり、節電に励みました。

この地震の影響で、当時の出版物も影響がでました。

紙がない、印刷所が機能していない、物流が止まっている、

そういった理由で予定されていた作品の多くが延期になりました。

お客様から問い合わせも多かったですが、

「地震の影響で…」

と謝罪をすると、誰1人文句を言わずに頷いてくれました。


 3.11、当時の書店員仲間の事を思い出します。

寒くて怖くても体を寄せ合って、いつもと同じような時間を少しでも過ごそうとしていたなぁ~みんなで。

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