第10話 あなたの番号は、きっと忘れない

 小鳥あるみの書店員時代の日常です。


番線ばんせん〟と呼ばれる書店の住所を英字と数字であらわすものがあります。

本の発注をする時は、この番線を出版社や取次の営業さんに伝えて納品をしてもらいます。

紙の本に挟まっているスリップや、FAXや郵送で送る注文書に番線印というハンコをどんと押して発注します。


 そういえばFAXも当時の書店員には重要機器でした。

出版社からのおしらせや、書店同士のNEWSのやりとりはFAXが基本でした。

もちろんPCはありますが、FAXの方が注文するにも楽ちんです。

FAXで注文書が来る、部数を記入して番線を押してFAXで戻します。

常に動き回る書店員には、FAXの方が向いていると思います。


噂によると、出版社のFAX室にはたくさんのバイトスタッフが待ち構えていて、全国各地の注文をさばいているそうです。

『ワン×ース』がとある芸人さんの発言で、馬鹿売れした時の注文書を捌くのは地獄だったと聞きました。

輪転機がすべて『ワン×ース』の重版になったという都市伝説も懐かしいです。


 番線印は書店の大事なアイテムです。

書店員になりたての頃、番線印は命よりも大事だから持ち出しは禁止。

番線印を押す時も、所定の位置で押すこと。

とにかく持ち出したりしないことを徹底的に教えられました。


当時勤めていた書店では、出版社も取次もよく出入りしていたので、口頭で番線を伝えることも多かったです。

「取次先は××で、アルファベット×、×××の×××」

この呪文が唱えられるだけで、書店員レベルが上がった気がしていました。


大きい書店だったので、売り場ごとに番線が違いました。

間違ってしまうと、違う売り場に本が行ってしまいますので要注意です。


コミックの売り場でも数種類を使いわけていました。

とにかく急ぎたい時、お付き合い事情で取次さんを変更する時、シュリンクを必要とする時などなど、番線を使いこなせるとカッコ良い書店員になれます。


そして何回も番線を唱えた結果、退職して約10年経っても番線を覚えています。

体に染みついてしまったというのは、まさにこのことです。


 さらに、当時担当していた講×社の営業部の電話番号も覚えています。

週に何回も電話していたので、指が番号を覚えました。


家族のスマホの番号すら覚えていない、誕生日すらも覚えていないですが、慣れ親しんだ番線と電話番号は忘れようと思っても忘れられないものです。

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