第9話 購入後、本の付属品を捨てる人は結構多い

 小鳥あるみのレジ対応で体験したおはなしです。


 購入後に、本についている帯や、中に挟まっているチラシやしおりを捨てて欲しいというお客様は結構います。

家に帰って捨てるよりは、お店で捨ててしまおうという合理的思考です。

お店としては別に問題あることではないので、一応確認をしながら捨てさせていただきます。


 駅ナカの書店で勤めていた時のことです。

お昼過ぎに来店した中年男性のお客様が購入したのは一冊の小説です。

黒を基調として、中心には魅惑的な女性が描かれています。

官能小説の雄、フラ×ス書院の作品です!


当時の店舗でもなかなかの売れっぷりでした。

最初は品出しに恥じらいを感じましたが、すぐに慣れました。

売れてガタガタの棚に、どんどん本を補充するのは悦びになりました。


レジを済ませると、黙ったまま本を受け取ったお客様。

唐突にカバーをザッと外すと、

「捨てておいてくれ」

と一言残して去りました。


手元には置いていかれたカバーがぺらんとあります。


…え、カバー捨てるの?!

帯とかを捨てるのはまだ分かるけど、カバーって本の大事な部分ではないの?!

人間でいう洋服と同等でしょう。

マッパでいいの??!!

お客様ーーー!!


 胸の中で気の済むまで叫びました。


休憩中、先輩社員にお客様の行動について話しました。

「カバーまで捨てます?なんか、本当に捨てていいのか申し訳ない気持ちになったんですけど」

「いや、どう見ても官能小説ってバレちゃうでしょう。あの黒いカバーは」


それは分かるけど、綺麗な状態のカバーを捨てることが腑に落ちず。


「だったら無料でつけているカバーをつければよくないですか?

それなら周りからも分からないし」

「いやぁ~そんな事するよりは、元のカバーとっちゃった方がいいって思ってるんじゃないかな~」


 今の時代なら、お客様の行動はSDGsと言えるのでしょうか。

カバーを重ねるのではなく、引き算をする美学。

そうか、資源を最小限にしてくれた地球に優しい人だったんだな~


ちょっと待たれよ。

官能小説と分かられたくないから、カバーを捨てていった。

それはつまり、第三者の目があるところでその本を読もうとしているということではないのだろうか。


 例えば電車の中で、通勤の途中、外回りの途中で。

いや、どうなんだろう。

どこで何を読もうとお客様の自由だけど、衆人環視の中で官能小説を全力で楽しめるのだろうか。

自分だったら家でこっそり…いやいや、自分の嗜好を押しつけてはいけない。

うん、そっとしておこう。


「電車の網棚とかに読み終えた官能小説置かれてることって多いらしいよ~」

 先輩社員の嘘か誠か豆知識を、背中に浴びながら店頭に戻りました。

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