第5話 【考えるな、感じろ】に救われた日

 小鳥あるみが外国のお客様を接客した時の事です。


 最大級の書店には、日本全国だけではなく海外からのお客様も多く来店します。

当時も今ほどではありませんが、ジャパンカルチャーとしてコミックの人気は熱かったです。


 見渡す限りのコミックを見て、テンション爆上がりの外国人のお客様を見るのはほっこりします。

画集や絵コンテ集など、高額な商品もどんどん買ってくれるいいお客様です。じゅるり。


 20代の男女数人でやってきた外国のお客様たち。

1人の男性が携帯片手に近寄ってきます。

本のお問い合わせかと思い身構えていると、

「Ah…日本語わかりません。でもマンガ読みたい。オススメありますカ?」


難問きたーーーー!!!

まず確認するのは、翻訳作品を探しているのか。それとどれ位の日本語力が彼にあるかということです。


「えっと、イングリッシュバージョン?」

「No」

く…人気コミックであれば外国語に翻訳されている作品がありますが、彼が探しているのは翻訳されていない日本のコミックということか…


「ヒラガナ、ヨメマスカ?」

英語でひらがなってどう言うか分からないながら、聞いてみます。

外国のお客様の中には、ひらがなは読めますと言ってくれる方がいます。

ひらがな読める読めないはデカいです。


一般コミックは漢字にルビ(振り仮名)がありません。

児童向け、少年少女コミックにはルビがあります。

一般コミックはB6版以上、少年少女は新書サイズです。

彼がひらがなを読めない場合は、少年少女レーベル作品に絞って選定することが出来ます。


「ヒラ、ガナ??」

あ、このお客様はひらがな作戦も通じないようです。かしこまった!

こうなると、日本語の力を必要としない作品をオススメしなければ!


 絵だけで物語が通じるって、もはや絵本ではないのか…

画集はイラストの力を堪能できますが、物語展開はないですし…

コミックで台詞も物語も無効化されたとしても楽しい作品。

世界に通用するような作品。


 脳裏にある作品の帯の映像が浮かびました。

【考えるな、感じろ】

そう帯で謳っていた作品があったじゃないか!

ダメ元で、『ねこ×らけ』を彼に渡します。

中をパラパラ見せながら、

「ほぼイラストオンリー、ノーディフィカルト」

と説明をします。

彼はOKと合図をして、購入してくれました。


 買い終えた彼はすぐに袋から出して読み始めます。

そして数秒後、膝を叩いて泣くほど爆笑していました。

彼の友人も集まって、本をのぞき込んでいます。

そんなに刺さった??!!


『ねこ×らけ』

なんとも言えないフォルムの猫が、声も発さずに謎のムーヴをかましているけども!!


あのコミックの帯を考えてくれた人…

多分、当時の編集さんだと思いますが本当に感謝です。

こんな形でWe are the Worldを感じる日が来るとは思いませんでした。

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