第17話 報告
一つ目は、先代帝であり長兄の上津島藤生の名が刻まれた墓石。
もう一つは、先々代帝であり父親の上津島千秋の名が刻まれた墓石。
二人とも、突然に
文には、二人の悲願が叶った事を──人々が災害と疫病から解放されて安寧を手に入れたという事と、上津島氏の帝位は今しばらくは安泰であるという事を、綴ってある。
どうか、あちらの世で、安心して見守っていて欲しい、と。
涼葉は藤生の墓に手を合わせてお辞儀をし、千秋の墓にも同じようにした。しばらく物思いに耽った後、しずしずと後ろを振り返る。
「お待たせしました、菊斗。兄上と父上への御報告は、これにて終了です。後は私は、姫帝として、この国の民が立ち上がるのを手助けするため、政に一層励まねばなりません」
風は、爽やかに軽やかに、二人の間を吹き抜けていく。
「菊斗。今後とも、私を助けてくれますか」
「はい。もちろんです」
「ありがとう」
「当然の事にございます」
菊斗は穏やかに微笑んで、涼葉を見ている。
涼葉は、破顔した。
「しかし、その前に、ひとまず祝宴に参加するとしましょう」
「はい!」
病鬼の消滅と菊斗の快癒を祝って、
二人は牛車の停まっている場所まで、うきうきと歩を進めた。
「今回は久々に私も羽目を外してみようかしら」
「涼葉様が? それは、珍しいですね。一体何をなさるおつもりですか?」
「ふふ、今日はね、菊斗と共に琴を披露したいの。どう?」
「えっ? 僕もですか!?」
「ええ! だって私たちは、いついかなる時も苦楽を共にすると、誓った間柄ではありませんか! 楽しい事も分かち合わなくてはね。二人で『紅葉賀』を弾きましょう。ちょうど、楓の木の紅葉も終わりかけている頃ですし、きっと宴の席に映えると思うの。それに何よりこの曲は、菊斗と初めて共に奏でた、思い入れの深い曲だもの」
「とても素晴らしい案だとは思いますが、また急なことですね」
「できませんか?」
「……できます! 驚かないでくださいね。きっと、涼葉様と共に弾くのに相応しい演奏をしてご覧に入れます」
「ふふ、そう来なくては。ああ、今から楽しみだわ!」
玉砂利の敷かれた道を、楽しげに語らい行く二人の上には、日の光に満ち満ちた青い空が、どこまでも広がっていた。
おわり
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