第7話 魔王と復活の噂
魔王。伝説上の存在であるのが一般かもしれないけれど、実際に約200年前に現れた存在である。その当時は人類は一般人と魔族の2種類に分けられていた。一般人は今で言うところの能力者と無能力者の両方で、魔族は魔力と呼ばれる不思議な力を使った者たちを指している。その中には異形の者もいたという話もあるっけ。
で、魔王は約100年前に討伐され封印された存在。魔族をまとめる長であった。そして、今はその魔族の生き残りたちが復活させようと躍起になっているという噂がよく聞かれている。私も気にしてるんだよね。復活させるわけには流石にいかないでしょうから。
「…それで、あなたは魔王の復活にかかわっているのかしら」
「答える義理は無いです。それに、予想はできているんでしょう。そう聞くということは」
「ふふっ、流石に分かるよね。予想は立っているわよ」
分かっていながら話そうとしない彼女に対し、私はそう返す。これは私なりの用事であるし、私以外の知り合いにこの件と関わりを持つ人はいない。
さて、話す気が無いのなら予想をこっちが話しちゃおうか。
「そうねぇ。まずは今回のBランクの人たちの様子がおかしいことかな。まるで自分たちがしてる感じにさせられているんだよね。私はそう見えた」
もちろん個々の実力や相性の良さ、戦ってる時の協力はとても良いものであった。でも、なんだろうな。それ以上の何かがあったとは思えないんだよね。
「で、彼らの判断。きっとあなたが来たから戦うのをやめたと思うのよね。あの時は、リーダーが私の後ろを見て指を動かしてた感じがしたから。まぁそれだけだけど。ま、後はあなたの動きや発言かな。これはもう完全に怪しいなって」
私はそう言ってもっと詳しく確信が持てたらと考える。やってる事についてはなんとなく情報集まってはいるけれど、それこそ本当になんとなくのレベル。
で、そのなんとなくって言うのが、魔王復活のために実力者たちの力を捧げているという内容なんだよね。これに関してはいまだに裏付ける根拠がない。
「復活のために高ランクの能力者を利用していると言う噂が本当なら、だけどね」
最後に私はそう付け足した。この噂の信ぴょう性がどこまで本物かは未だに確証が持てていない。かなりの時間をかけて情報を集めているけど、本拠点すら見つかっていないんだから…凄いんだよなぁ。
彼女は私の話を静かに聞いた後、少し悩むそぶりを見せる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「そう。なら、一つだけ教えてあげる。…彼らはもうBランクの力を持ち合わせていない。その力は確かに私たちの組織が貰っているから。…じゃ、これで」
彼女はそれだけ言って私に背を向け、静かに去っていった。私はそれを止めようとせず、壁に背中を預けてその後ろ姿を見送る。
力は貰っているから…か。なるほどね。彼女の追跡をうまくすれば本拠点とまで行かずとも、もう少し情報が集まりそう。っと、それは違う人に頼みましょ。
「――今の、聞いていたわよね。彼女の後をバレずについて行って頂戴」
「…あぁ、分かった」
彼女の去っていく姿を見送った後、私は背後にいる姿を見せない彼にそう伝えた。私には味方がいるって事、分かってもらわないとね。
それにしても、能力というのは奪えるものなのだろうか。そりゃあ、力を貰ったと彼女が宣言したのだから、できるのだろうけど。それを、どこまで復活に活かせるのか…。
「…こればかりは尻尾掴めたら…かな」
壁から背中を離し、私はふらっと目的もなく気の向くままに足を動かす。Eランクの人達の治療が終わらないと、麗奈と友梨が戻ってこない。となると、暇でしかないわけで。
「魔王の復活のことよね。と言うか、あの人も本当に娘可愛さになんでも聞き入れちゃって」
「…げ。アル、なんでいるの」
ふらっとしてたら、背後から女の人にいきなり声をかけられる。私は後ろを振り向きつつ、露骨に嫌な顔をして睨みつけた。
この女の人は私の知り合いでさっき私が頼った男の人とも知り合いだったりする。で、ニックネームはアル。本当の名前はまた別にあって、よほどのことない限り本名では呼ばない。本人の機嫌が悪くなるから。
で、容姿としてはすらっとしたモデル体型で、髪色はシルバーで長髪。瞳の色は紺色で声色は結構可愛い寄り。ま、これでいて実力者だから喧嘩をふっかける場合は十分に注意したほうがいい。
「げっ。て何よ。私がいて悪いわけ?」
「別に。そう言うわけではないけど、さっきの見られたのが嫌だっただけ」
呆れたようなアルの言葉に対し、私はそう返す。そのまま私ははあ…と一つため息をつくと、冷たい声でアルに質問を投げた。
「で、何なの?」
「別にそこまで大きい用事ではないわよ。家に寄ったら誰もいないから、探してここに来たってだけね。で、これ。今日の晩ご飯の足しにして。作ってきたから」
私の質問に対してそうアルは答えると、手に持っていたバッグから一つの真空パックを取り出す。そして、それを渡してくれた。
「ん、ありがと。それだけのためにここに来たの?」
「えぇ。…あ、違うわ。口座にお金振り込んでおいたから、生活費の足しにして頂戴って言おうと思っていたのよ」
「え、本当に?」
「嘘はつかないわよ。じゃあ、私はこれで帰るから。早めに帰りなさいよ」
「はーい」
私とアルはそう話す。そして、アルが私の頭をポンと軽くたたいて別れた。
…アルは私と妹たちの戸籍上の母親。その実感は未だにわかない。まぁ、それは一緒に住んでいないのが最大の理由だと分かってる。それでもこうして生活費の援助やおかずを作ってくれたりとすごく優しい母親だと思うよ。
「…あ、お姉さま。今のはお母さまですか?」
「うん。おかず作ってくれたって。後、口座のお金はお母さんが振り込んでくれていたみたい」
治療を終えて戻ってきた麗奈が私にそう聞く。私は頷くと、麗奈の頭を軽く撫で撫でしつつアルから聞いたことを麗奈に伝えた。
「それは普通に助かりますが、今日もお父さまは…」
「来ていない、かな。ま、3人養わないといけないわけだし、今頃まだ仕事なんじゃないかな」
麗奈の疑問は本当にその通りだと思う。そりゃあアルだけの片親ということは今はそこまで珍しくはない。でも、私たちには一応父親もいる。もちろん、この父親とも血は繋がっていない。
…じゃあ、なんで来ないのか。仕事中なのか。答えは至ってシンプル。仕事をしてるから。頼んじゃったしねぇ。
「確かに、まだ暗くはなっていませんけど」
「うん。そうだね。…っと、友梨は?」
ふと気になって私は麗奈にそう聞く。さっきから2人だけで話していたけど、麗奈のことは友梨に任せていたはず。なのに、姿が見えない。
「友梨さんでしたら、もう少しで来るはずです。先ほどまで一緒にEランクの方の引き渡しをしていたので」
「なるほどね。となると、これで一件落着かぁ」
「はい。依頼料も貰えるはずです」
友梨が後から来る。なら、気にしなくても良いかと私は一気に気を抜いた。その時に体の力も抜いたため、ふらついてしまう。そんなふらっとした私を支えつつ、麗奈はそのことを伝えてくれた。
今回の依頼料、増えても問題ないけどね。絶対それだけはないんだろうな。結構大変だったけど。
「はぁ…。なんでこうも面倒事に巻き込まれるかなぁ…」
私は思わずしゃがみ、そんなことをぼやいた。
午前中のやつはともかくとして、午後のこれに関しては完全に想定外だった。ったく、これだから依頼の日は嫌なんだよなぁ。
「――ここまで大変だとは思わなかったので、私としても面倒事でしたよ。奏音」
私のぼやきに応えたのは友梨。
「本当にね。…お疲れ、友梨。色々と任せちゃってごめんね」
私は友梨の姿を視界に捉えると、そう言って申し訳なさそうな表情を浮かべる。
友梨は本当に疲れているのか、無言で私の言葉に頷いた。
「じゃあ、帰ろうか。麗奈、報酬は誰から受け取れば良い?」
「それなら、草場さんに聞けば分かるかと」
「そっか。…で、どこにいるの?」
立ち上がり、私はそう言った。ていうか、葵さんに聞けば分かるっていうけど、渡せるならさっきのうちに渡して欲しかったな。
さて、今いる場所はショッピングモールの出入口。で、ここから連れ出していたはずなんだけど。探すのは面倒くさいな?
「引き渡しを終えたという連絡は美咲から入ってるので、もしかしたら戻ったのかもしれません」
「組織に…か」
居場所に心当たりあるのは良いけど、取締組織の建物には行きたくないんだよね。
「ここから遠いですし、先に帰ったとなれば足はないですね。…私、帰れなくなりました…?」
「「あっ」」
嫌そうな表情を浮かべた私にそう言った麗奈は、そのままそんな疑問を口にする。私と友梨はその麗奈の疑問に対し、そんな声をこぼしていた。
「いつもは葵さんの運転だったはず…だよね?」
「ですね」
「帰ったのなら、徒歩になる」
「はい」
「…葵さんに電話入れるか」
一応念のために麗奈に確認を取る。それでもやはり帰る足は無いと。
ちなみに言っておくと、ショッピングモールから取締組織の建物まで、歩いて約1時間かかる。それは、歩いて帰りたくなくなるでしょ。
私はスマホを手に取り、葵さんの電話にかける。
「連絡先知らないのに、なんでお姉さまが知っているんですか…」
「奏音のことですから、初めて会った時には交換してたんでしょう」
おい、私のことだからってどういう意味だ。友梨。後、電話番号ぐらいは交換しておいてよね。
「堅物で誰にも連絡先教えてないはずなのなぁ…」
「まぁね。私は双子の妹たちのことで何かあってもいけないから、連絡先もらったのよ」
麗奈にそう言って、私は電話に出た葵さんと話し始める。
「あ、もしもし。奏音です」
『あー、奏音さんか。わざわざ俺に電話して、何の用だ』
忙しいのか、電話に出た葵さんはすごく低い声になっている。これは機嫌が悪い。
「機嫌悪いねー、葵さん。用事としては、今回の依頼の報酬について。どこに行けば受け取れる?」
『ん?依頼を受けていたのか』
「そうですよ。…というか、そうじゃなければモールの方に行かないし。あんな面倒事に巻き込まれたくもないもの。で、どうしたら良い?」
私が自ら頭を突っ込んだと思われていたか。…心外なんですけど。だけどその文句を飲み込んで私はどうしたらいいか聞き直す。
今回の依頼は取締組織が出してるから、そっちが分かるはずなんだけどな。
『…少し待っていてくれ。確認してくる』
「分かったわ」
そのまま電話が切れる。私は手に持っているスマホに一度視線を落とすと、ふぅ…と力を抜いた。やっぱり電話だとどうしてもかしこまっちゃうな。後は、結構慎重になるし、電話をかけるという行為自体が苦手なんだよね。
「…確認してくるって」
少し黙った後、私は小さくそう2人に伝えた。友梨はその私の言葉を聞いて、文句を言う。
「どうして現場に来てる人に情報が回っていないのでしょうかね」
「仕方ないよ」
その文句に対して私はそう言って、友梨をなだめる。仕方ないで本当は済むことじゃないし、依頼を出してきたのは今回は取締組織なんだよね。だから、友梨の言い分も分かるけど、とりあえず落ち着いてもらわないと…。
「私としては、存在を忘れられた可能性があるのが解せないんですけど」
「それは確かにそうだよね。ということは、まだこの近くにいる…?」
私たちの様子を見つつ、麗奈は遠慮がちにそんなことを口にする。私はそれに対して、一つの予想を考えた。
そして、とりあえず連絡を待とうと3人とも待機の姿勢を取る。そこに、葵さんが帰ってきた。
「――そういうことでは無い。持ってきたぞ、奏音さん」
「…あ、葵さん。もしかして、まだ仕事中だった?」
「いや、他の部署に回収を頼んでいたんだが、美咲が他の部署にかみついてしまって…。それの処理に時間がかかってしまっただけだ」
え…。あー、そういうことね。引き渡しの際に少しもめて、そのせいで時間がかかったと。後で美咲は説教かなぁ。
「なんかごめんなさいね。それで、美咲は?」
「美咲ならもう少しすれば合流できるだろう。っと、そうだ。これ、渡しておく」
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」
謝りに対してそう答えると、葵さんは私と友梨に封筒を渡してくる。
「…葵さん。今回の事件についてどう考えてる?」
封筒をカバンの中に仕舞い、私は葵さんにそう聞く。死人は出ていないとは言え、確実に殺人未遂となる今回の事件。でも、今回はそうでは無い。どこまでを罪と捉えられるのかという、そういう問題が発生すると考えられるからだ。
なんだけど、取締組織はどこまで知ってるんだろう。きっとあの人たちは口封じをされているはず。でも、私はそのことを伝えることはできない。
「Bランクの起こした騒ぎとしては、珍しくEランクの死者は出ていない。とはいえ、ここで騒ぎを起こしたのだから、軽傷では済まないだろう」
「そうね。…とはいえ、今回は利害の一致か何かで起きた被害者でもあるでしょうし。そこらへんは考えてくれるとうれしいわ」
「どこまで仲間で他に誰と手を組んでいるのかといったところか」
それでも…と遠回りに伝えたところ、葵さんはそういう風に返してきた。どうやら、ある程度の事は知っているらしい。彼女が少し伝えたのだろうか。
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