最終回 『墓参り』
カナの母親はカナが三歳の時に死んだ。病気だったらしい。顔も覚えていないし、声さえ記憶にない。ただ写真で見たことがあるだけだ。
だから、今日この時まで、カナは自分の母親の墓を知らなかった。しかし、今朝方、父親が墓参りに行こうと誘って来たのだ。
特に用事もないから、行くことにした。後、単純で今更だが、父親に素直になれたからずっと、目を逸らしていた母親の問題を考えてみようと思ったからだ。
ずっと考えないようにしてきた。父親に愛されてないと思いたくなくて、自分の母親がどんな人だったかなんて知りたくないと思っていた。
でも、今は違う。色んな人に教えて貰った。母親は自分のことを愛していた、と沢山の人に聞かされて来たし、この前偶然見かけてしまったのだ。
ビデオテープの中に映っていた母の姿を……カナを抱っこしている母の姿があった。後――
『カナちゃん、すくすく育ってね』
そう言っていた母の言葉を……聞いた。当然貴方とまともに話もケンカもしたことがないけれど――
「カナ。ここだ」
父親の声で我に帰り、墓を見る。そこには綺麗な墓だった。数年行っていない、と父親が言っていたのに掃除されているようだ。
「……掃除、してたのか」
ため息を吐きつつも、父親は菊を供えた。一体誰が掃除を、とは聞けない雰囲気だったので黙ることにする。
線香をあげ終えると、父親は墓石に手を合わせた。それに習ってカナも父親の隣に行き手を合わせる。
「(お母様……私、貴方と一緒に話がしたかった)」
心の中で呟く。今まで何も言わずにいた。ずっと、逃げていた。闇の中にいるような感覚に陥ってしまうのが怖くて、目を背けてきた。
でももうそんなことはしない。これからは向き合うんだ。自分とも母親にも……
「でも、これからは毎年来るからね」
もっと、話したいことあるから。もっと話したい、聞きたいことがあるから。そうカナが思っていると、風が強く吹いた。その風に――
『楽しみにしてるわよ、カナちゃん』
そう聞こえた気がする。空耳かもしれない。だけど、確かにそう聞こえた。
気付くと涙が出ていて、慌てて拭う。そして、もう一度墓石を見つめてから、カナは微笑みながら、
「ねぇ、お父様……」
「なんだ?」
「お母様のこと、いっぱい話そう。私の知らないことも全部教えて欲しい」
そう言うと、父親は驚いたように目を開きながらも、優しく笑った。
「……わかった」
父親のそんな笑顔を見るのは初めてで、少し嬉しくなって笑った。
(了)
【完結】お嬢様は納得出来ない! かんな @hamiya_mamiya
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