『さいころパス』 下

 ダジャレー氏から届いた腕時計には、きちんとした解説書が添付されておりました。


 大手メーカーが作るものに、一歩も劣らないものです。


 『このように、まずは、リューズを三回押して、プレイモードになりましたら、出したいさいころの目の数を、押すのです。なお、相手に覚られないために、腕からは外して、ポケット内で操作するなど、必要に応じ、各自工夫すべきであります。』


 『まあ、そうだろな。』


 『地球の殆どのさいころ、電子さいころ、ルーレット等、に対応していますが、まれに、効かないことが、あり得ることは、ご承知ください。どのような場合であれ、この装置を使用したことまたは、しなかったことによる不利益について、当社は一切責任を負いません。』


 『まあ、みんな、そう書いてるな。』


 『企画、販売………GGA。  製造………マダイ製』


 『これは、わかんないな。マダイって、なに?

福音書か。あれは、マタイだな。真鯛かな。鯛は機械を製造しないよな。まあ、実力があれば、良いか。』


 やましんさんは、手持ちのさいころなどを複数使って実験したところ、確かに確実な効果があると、判断し、スピード感を持って、さっそく、使うことにしました。


       🎲


 それは、3月の初午の日。深夜。


 やましんさんは、例のお堂で、怪奇現象が起こるのを待っていたのです。


 『なんで、ぼくが、ここにいなければならないのかな。頼まれたわけでもないし。ヒーローでもないし、社会的名士でもなければ、探偵でも、そうした趣味でもない。』

 

 まさに、社会から溢れたことによる、もはや、例えようのない孤独感が、そうさせたのでありましょうか?


 しかし、ダジャレー氏の見立てによれば、その相手は、幽霊ではなく、かなり危険な宇宙妖怪であるというのです。


 幽霊と、宇宙妖怪と、宇宙人と、何が違うのかは、分かりません。



 やがて、あたりは、濃い霧が立ち込めてきました。


 幽霊番組は、深夜でないと、雰囲気がでないのか、なにか他にも都合があるのか、大概はこうした、シチュエーションになります。


 しかし、それは、律儀にも、不気味な馬の足音と共に、やましんさんの目の前に現れたのです。


 たしかに、馬にも、その武士らしき人にも、頭部がありません。


 『こんばんは。良い夜です。』


 その武士らしき人が、たぶん、宇宙妖怪が、身体のどこからか、挨拶をしました。


 挨拶されたら、反すのが礼儀というもの。


 『おばんです。あなたは、どなた?』


 『われは、落ちぶれた戦士である。ちと、ゲームをしましょう。』


 と、戦士は持っていたビジネス鞄の蓋を開け、中から、例の電子さいころを取り出したのです。


 『きたか。』


 と、やましんさんは、オーバーコートのポケットにいれた、あの腕時計をいじりながら、構えました。


 『おや。あなた、変わった対応をしますな。ははあ、さては、刺客か!』


 宇宙妖怪らしきは、再びその鞄から、あの、名高い電光刀を取り出したのです。すかさず、赤紫の刀身が輝きました。

 

 『え? いや、それは、予想外な。』


 『ふふん、やはり、予想していたか。良かろう、その首、切り落としてやろう。』


 『あの、いや。さいころは?』


 『やめた。ぱす。いざ、尋常に勝負。』


 あわてた、やましんさんでありました。



 しかし、なんと、ポケットの中の腕時計が、突如、電光槍になったのです。


 槍ですからね、長い赤い光が、コートから飛び出し、そのまま、その宇宙妖怪らしきを、あっという間もなく、貫いてしまったのです。


 『おぎょわ! やられた!』


 いまや、巨大なピーマンみたいな姿に変わった、宇宙妖怪が叫びました。馬は居なくなりました。


 そうして、見る間に、消えてしまったのです。


 『あらあ…………』


 やましんさんは、呆気にとられました。


 あとには、深い霧が漂うばかり。



 すると、背後に、なんと、ダジャレー氏が現れたのです。


 『ははは。上手くゆきましたな。』


 『な、な、上手くゆきましたな? なんですか、それ。』


 『いやあ。このやり方が一番なんですよ。でも、あなたには、やれといっても、できないでしょう? だからね。細工しました。』


 『ま、まて、ぼくは、殺人をしたのか?』


 『いやあ。あれは、妖怪ですから、殺人ではなく、退治したのです。あっばれ、あっぱれ。ははははははは。』



 その後、妖怪は、出なくなりましたが、やましんさんは、不思議な病のため、しばらくは、寝込んだとのこと。


 やっと、なんとか回復してからも、ダジャレー氏のお話しを書くのは、自粛したらしいです。


 合掌。



         くまくま 🐻



 


 



         


 


 


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『さいころパス』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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