第31話

 お見送りは嬉しいけど、転移したいから程々にしてくれたら。


 夕方までに王都に戻らないとだけど、森に寄って精霊たちに挨拶して行くことにした。


「こっち戻ってきて慌しかったからね」

「そうだな。機嫌を損なってるよね」


 人気のない場所に出て森に転移した。


 精霊の棲む森はなんとなく温かい。鬱蒼としてて湿気があるのにね。


「トーリ、ユーグ、ディグ、ナルカ」


 彼らの棲家の樹に近づけば、ふわふわと光が集まってくる。


『おそーい』

『そーい』

『リィン、待ってたぞ』

『ルカ、おやつー』


 手のひらサイズの二頭身、マスコットみたいな精霊が姿を見せる。


「俺だけおやつって」

 ルカは文句言いながらもナルカに砂糖菓子を渡すとトーリとユーグもお菓子に意識が向く。彼らはみんなお菓子好きだ。


「ディグ、私たちはとりあえず国は出て行かない方向になった」

『そうか』

 ディグは他の三人より少し長く生きているらしく見た目は可愛いのにお爺さんみたいな性格だ。


「しばらくは予定通りこの辺りを拠点に動くよ。家を買ったら来る?」

『自然が豊かでないと住めないぞ』

「この辺りに自然がない場所なんてないよ」


 僻地すぎて、人が少ないんだから。


「どっちにしてもゲートを置くからここに繋がるしいつでも会えるから心配はないけど」

『ふむ。家次第ということか』

「頑張って住み心地を良くするよ」


 こっちは真面目に話してるのに、ルカはトーリたちにお菓子を強請られまくって幸せそうだ。


「まだ王都に用事が残ってるから全部片付けてからになるよ」

『人の世は面倒だな、無事戻れよ』

 ディグがそう言うとふわふわと飛んで額に口付けをしてくれた。

 幼い時からたまに「祝福だ」と守りの加護をくれる。期間限定らしいけど、わりと長持ちでずっと重複してる気もしないでもない。


『あー、ズルーい。僕も~』

『ルーい!おれも~』

『ルカ、リィン、お守り』

 可愛い口付けを四つ貰ってご満悦。


 後ろ髪をひかれつつ、別れを告げると周りにはリスやモモンガ、フクロウにフェレットなどディグたちの友人たちが集まってる。

 彼らは私たちの遊び仲間でもある。

 子供の頃は修行にも付き合ってくれた。


「みんな戻ったらまた遊ぼうね」


 いっそここに住むのもアリなんだけど、さすがに世捨て人すぎるか。


 森を少し抜けてから王都の宿に転移して戻った。


「空気が違いすぎる」

「直で移動するとダメだね」

 森林と人の暮らす街では違って当たり前だ。

 悲しいかな上下水道が微妙なので、臭いがそれなりにある。

 窓から外に捨てるとかじゃないから本当に良かったよ。


「少し街歩く?」

「そうだな」


 まだ夕刻まで少し時間があるので宿をチェックアウトして街ブラする。


「義姉さんに少し良いもの渡したいね」

「ああ、本当にありがたい人柄だし」

 ジャクリーンを思えば天使のようだもの。

 装飾品は旦那以外にもらっても嬉しくないだろうから、やっぱり紅茶やお菓子かなぁ。

 ついでに生地と肌ケア用品。


「家事が楽になるグッズとかないかな」

「何それ」

 百均やニ○リやイ○ア、欲しいよ。

 

 色々店を回っていたら、ギルドに近い場所でジャックが声をかけてきた。


「リンク!リュカ!」

「やぁジャック」

 ジャックは男の子を二人連れている。

「あ、こいつらは兄貴の子だ」

 思わず視線を向けてしまったからか紹介してくれた。

「僕はニックです」

「俺はアックス」

 ジャックに少し似てて可愛いぞ。

「私はリンク、ジャックには良くしてもらってる」

「俺はリュカ。ジャックには世話になってる」

 ニックもアックスもジャックを憧れの目で見てるから冒険者志望かな。

「兄貴は嫌がってるんだけど。二人とも冒険者になりたいって言うから今日は見学だけさせたんだ。採取依頼なんかどれだけぶりだよ」


 Aランクになったそうそう子守と採取とは。

 微笑ましい。


「まだ登録はしてないの?」

「そうだよ。登録させたら義姉さんが怖い」

 普通の親はそうかもね。

 それを膨れて聞く二人。

 身近にジャックがいたら憧れちゃうのもわかる。面倒見良くて強くて優しいお兄ちゃんの真似したいよね。


「冒険者になりたいの?」

「「うん・・・」」

 二人はモジモジしつつ頷く。


「そっか。私たちも十歳からやってきたけど、結構頑張ったんだよ。剣の稽古も魔法訓練も、採取は八歳くらいからやってたけど失敗すると毒で倒れたり、手がかぶれちゃったりして大変なんだ。いっぱい勉強して訓練して、お父さんとお母さんに納得してもらってからが良いよ」


 私たちは勝手にやっちゃったけど、たまたまチート持ちだからやってこれただけで、他の同じような年齢から始めた連中は怪我したりFランク止まりで諦めることが多い。

 せっかくジャックって言う先達がいるんだから、ちゃんと指導を受けたりしたほうがいい。


「リンク・・・、そうだな。ニック、アックス、俺が空いてる時に色々教えるからまずは採取に必要な知識を得ることから頑張ろうか」

「「うん!!」」


 叔父と甥、いいなぁ。兄さんに子供できたらめっちゃ可愛がろう。


「お前らギルドは寄らないのか?」

「うーん、そろそろ行かなくちゃだから今度にする」

「次会うのは祝宴の日か?」

「そうかも」


 一つ二つ依頼を受けてもいいけど、屋敷の出入りが増えると伯父一家と遭遇しそうだし。


 私たちは軽く「また」って別れた。


「にいちゃんたちありがとう」

「冒険者になったらいっしょしてください」

 ニックとアックスが可愛くバイバイしてくれた。

 ジャックが二人の頭をポンポンと撫でてから手を振ってギルドの方に歩いて行った。


 平和っぽくて良いな。


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