第30話

 近くで畑作業をしていた兄さんと父さんと義姉さんが呼んで来てくれて、難しい話ならファナとネルは外したほうがいいだろうと義姉さんが二人を連れて部屋を出てくれた。

 なんて人の出来た義姉さん!兄さんってば大事にしなよ。


「父さん、とりあえずベン兄さんの件はヘイスト家を完全に叩く感じで爺さまが処理してくれた」

 あからさまにホッとした両親に心苦しくなるけど、続きがある。

「その代わり兄さんがジュダス伯爵家に婿入りすることになったよ」

「男爵家より格上の伯爵家に出すことで黙らせると?」

 まぁ、そうなんだ。今後もウチに絡むのを退けるには手っ取り早いし、デレードに連なる家系に入れておきたかったのもあると思う。


 ヘイストは無茶を言い過ぎだから法律的に貴族的にも締めてガッツリ慰謝料をもらうわけだけど。


「それで今回の婚約破棄と契約項目の複数に不履行、ルカへの婚約に関しての無茶な要求とまぁ色々加算して慰謝料が出るからこれはマートム家の領地予算として使うようにとお祖父様が」

 ジョルジュがきっちりまとめてくれた慰謝料請求についての資料を父さんに渡すと唖然としてる。

 うちの借金がほとんど相殺出来そうだものね。

「でもこれはベンとルカが貰うべきものだわ」

「兄さんは婿入り先が決まったし、持参金は爺さまが張り切って出すと言ってくださったから必要ないって、俺もあんなことでもらう金は要らない」

 ルカちゃん、かっこいいー☆


「父上が・・・」

 父さんは複雑そうだけど、お祖父様はマートム家に関わりたくても必要以上に手を出せずに寂しかったんだと思うんだ。

 甘えても良いんじゃないかなぁ。


「それでお前たちは?」

 ジョン兄さんが怖い顔で聞いてくる。

「除籍についてはダメだった」

 父さんと兄さんはホッとした顔で母さんはちょっと泣いてしまってる。


「んー、俺たちこの前の緊急依頼の件で王宮で祝宴に呼ばれたんだけど、流石に変装で出るわけにもいかないじゃないか」

「そうだな」

 私たちの母さんの顔に似てる問題は多分私たち以上に母さんが心配してる。


「それでお祖父さまは厄介なのに目をつけられても良いように私たちがBランク以上になるかルカがお祖父様の持つ伯爵位をもらって私がルカの扶養にはいるかって言われて」

「B!?」

「伯爵??」

 なんも労せず父さんの爵位より上だし勘弁だよね。

「で、とりあえずBになろうと思ってギルドに行ったら、Aの方が色々都合がいいと教えられて試験を受けて受かったんだよ」

「・・・お前たち」

「とりあえずでなれるのか?」

 父さんが頭を万力で締められてるみたいな顔してるし、兄さんが混乱してる。


「コツコツやってきたのが認められて?」

「この前の緊急依頼がちょっと大掛かりだったしね?」

 さすがにドラゴンのことは言えないかな。


「Aランクになれたから除籍に反対しないかと思ったら逆に除籍の必要がないだろうって」

「ただの冒険者のAより貴族位持ちの方がマートム家にも役にたつって」

 うまいことお祖父様に乗せられたからムカっ腹なんだけど。

「うちに役に立つとかは考えなくても良いが、籍を抜かずに済んだなら俺は嬉しいよ」

 兄さんが私たちの頭を撫でる。

「私たちは最終的にファナとネルが成人するまでは近くに住むか、二人を引き取って隣国に行くかって思ってたんだ」

「隣国?」

「だって変態ジジイがファナにまで婚約だの言ってきてるんでしょ?家を出た方が安全かと思って」

 父さんも兄さんも私たちが変態の手紙の話を聞いてたことを知らないから、まずい顔してるよ。


「・・・あー、母さんに変な執着がある貴族がいるのは話していたな」

「うん」

 うちの貧乏の原因。

「その相手が前の王妃の弟なんだ。ドグス侯爵には色々幅広い人脈がある」

 なるほど~。お祖父様が潰しにかかれない相手だから大物だとは思ってたけどバックが強いのか。


「ソニアが10歳頃に見染められたんだが相手は36歳で。あまりに歳が離れているし、侯爵の評判が悪いことからソニアの実家はずっと断っていた。だからどんどん嫌がらせがひどくなって、今のうち位になっていた」

 ロリコン、マジ滅びろ。

「俺とソニアは14歳の頃知り合って、父さんの一目惚れでな。最初は父にも親族にも反対されたんだが家を捨てる覚悟で準備していたらここガドルの領地とマートム子爵位を譲ってくださった」


 侯爵家からの婚約の申し込みを断るのは母さんの実家、コーラル男爵家も難儀したんだろうな。でも同じ爵位のデガート侯爵令息であったハインツから申し込まれたらドグスも深追い出来なくなったってこと?


「まぁずっと細かい嫌がらせは受けているわけだが、父上がなんとか生きていけるよう取り計らってくれているんだよ」


 いっそのこと、侯爵家を継げば良かったんでは?と思ったんだけど、それだとドグス一派と伯父たちを担いでうまい汁を吸いたい連中が適当になって色々危ないんだって。


 まぁ王都にマートム家が侯爵家として住んでる想像をすると兄さんたちの婚姻とか私たちの婚約とか今より大変だったかもと思うと今が正解な気もする。


「ドグス侯爵って今いくつ?キモい」

「多分65・6ではないかしら?」

「嫁と後継は?」

「確か息子が一人で夫人は早逝だったと」

 うわー、ファナを寄越せって言った時60前ってことか。キモいが極まる。


「それで今度俺たちは王宮に顔を出すんだけど、そのドクズが俺たち見たらまたうるさくなるよな」

「ああ、ドクズなら確実にリィンを欲しがるな」

 キッモ!渋イケオジなら宇○井健さまかおひょ○さましか認めないわ。

 外国顔ならリー○ムかジョ○ーがいい。

 でもロリはダメだからどんなに好みでも付き合うと考えたら冷めるよね。


「Aランクになったから無理強いはできないにしてもウチにまた何か言ってくるかも知れない」

 これ考えるとルカが伯爵位もらって独立するのが最善?お祖父様の思う通りになっちゃう。


「Aランク冒険者やその家族に手を出すような真似をすれば社交界どころか国民が的に回る、うちの心配はしなくても良いだろう」

 父さんがそう言うけど心配は心配。

「まぁそうなんだけど、害されたら困るからネルと言うかファナにはすでに渡してるけど父さんたちにも身につけてて欲しい」

 

 防御と反撃、強制転移(私たちが)を付与したブレスレットを四つ渡す。


「こんな高価なもの・・・」

「ダンジョンで出てきたものだから〜」

 もちろん嘘で私が作ったけど、今は言わない方が父さんたちの精神的に良さげ。


「あと、家の周りにも簡易結界の作動させておくね。悪意があるものは入れないって程度のやつ」

「すごいわねぇ」

 母さんは少し状況に慣れたみたい。

 使い方を説明すれば兄さんも父さんも仕組みを真剣に観察した。


「俺たちはまだ王都にいなくちゃ行けないから戻るけど用事が済んだら兄さん連れてすぐ戻るし心配しないで待ってて」


 もっと詳しくとか色々話したいけどあまり時間もないのでそろそろ。


「本当に母さんのせいでごめんね」

「悪いのはドクズだから」

 ルカと兄さんはずっとドグスをドクズって言うもんだから困る。もし本人に出会した時に言っっちゃったら笑っちゃうよ。


 お土産とファナとネルの荷物を渡して、外に出た。


 父さんたちは門まで出てきて私たちの姿が見えなくなるまで見送ってくれた。


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