第22話

 翌朝、朝食はパンとスープ、魚のムニエルだった。

 まぁまぁかなぁ?

 ファナもネルも魚は珍しいからかなり小さめに切って食べてから味を確認して食べた。

 可愛い仕草だな。ルカだと外食時は匂い嗅いで気に入らないと一口で食べて水で流し込むよ。残すのはあり得ないからね。


 食後にお祖父様の家に行っても無礼にならない程度の衣装に着替える。

 私もルカも少し地味メイクをする。お祖父様は父母を知ってるから隠しても仕方ないけど伯父や従兄弟達はちょっとめんどくさいから。

 ファナとネルにも遊びだよって地味メイクを施すと鏡を見て笑ってる。

「顔がちがーう!おもしろ~い」

 ベン兄さんは少し複雑そうだけどスルーしてくれた。

 兄さんも他所行きのフロックコートに着替えてて、流石にカッコよく見える。整った顔していて畑仕事や狩りで身体も筋肉質だしね。




 朝の街は少し騒がしい。王都に一番近いだけあって次の街に向けて、もしくは王都に向けて出発する馬車がたくさん待機してる。


 渋滞にハマりながら馬車は進む。

 多くの馬車が同じ時間帯に進むのは護衛を付けている貴族や商人と行動を共にした方が安全だと知っているからだ。ズルいようだが生活の知恵だと思う。


 パスクの街から王都はそんな事情から危険はほぼ無い。


 ゆっくりだけどスムーズに進み、昼前に王都アンシェルに入れた。


 こんなに早く再び王都に来るとは思ってなかったなぁ。お祖父様、デガード領にいて欲しかったよ。


 父さんの実家、デガード侯爵家に着けば、門から玄関までが遠い。庭も整っていて石像や東屋と贅を凝らしている。

 ファナとネルが口をぽかんと開けたままだよ。


「お城~!お姫様いるかな?」

「王子様だよ~」

 

 楽しそうなところ大変申し訳ないが、住んでるのは常に眉間に皺がよってる爺様とちょっとチャラい伯父様とザマスな伯母様、俺様な男と意地の悪い縦ロールだ。


 あのお祖父様と共に暮らしてなぜこうなるんだと不思議だが数年前に召されたお祖母様が甘やかしまくったからだろうね。


「お城はもっと大きいよ」


「「ええ~!!」」


 まぁ我が家に比べたらとんでもない立派な建物だ。お城に見えるのもわかる。


 姉ちゃん達いっぱい頑張ってまぁまぁな屋敷建てるからね。大きすぎると維持費と人件費が大変だからね。まあまあなサイズで勘弁してね。


 やっと馬車寄せに着いて降りれば、侍女長とメイドさん達が出迎えてくれた。

 あと従兄姉達。


「しばらく世話になる」

 ベン兄さんが侍女長メイヤさんに声をかけると目を潤ませてる。

 兄さん達は父さんに似てるからね。

 ミニ父さんもいるよ。

「久しぶり。この子がファナ、この子がネルです」

 二人を紹介すると侍女長はしゃがんで二人に挨拶してくれた。

「私はメイヤと申します。よろしくお願いしますね。本当に坊っちゃまのお小さい頃そっくりです!」

 メイヤはメイクでは誤魔化せなかったか。

 私のメイク術もまだまだだな。


「ファナ・マートムです!」

「ネル・マーチョム!りょくひゃいでしゅ!!」


 ファナはマナーを一生懸命実践してる感があって初々しい。可愛い。

 ネルはファナを真似て一生懸命だけど噛んだ。可愛い!


 可愛さに悶絶してると姦しい声が邪魔をしてきた。


「ちょっとリィン!私たちを無視しないで!!」


 はぁ、私達が気に入らないなら出てくんなよ。

 従姉のイーダは何かとうるさい。数度しか顔を合わせたことはないし、学園では一学年上だからこっちが徹底的に避けたので関わっていない。こいつも王子様狙いで王子の婚約者だったジュリエッタ嬢に絡んでいたバカの一人だ。


「あんた達そんな貧相な装いでよくうちに来たものね!」

 

 あんたのそのバカみたいに横幅取ってるリボンまみれのドレスより良いと思ってる。


「身分差があるんだから仕方ないだろう。俺たちは分相応な装いをしている。物事を見た目でしか判断できない方が心が貧しい」


 ルカが凍えるほど冷たい声でスパっとぶった斬る。

 

「なんですってぇ!!」


 イーダは子供の頃、まだ隠蔽も地味メイクも出来ていなかった頃にマートム領まで伯父やってきてはルカにべったりしていたので、今の地味メイクのルカでも嫌われると辛いだろうね。

 わざわざマートム領に来てたのは伯母が母さんを馬鹿にしたかったから。

 同年代で美しいと評判だった母に一方的にライバル心を持ってて、子供二人連れてやってきてはドレスの自慢や「こんな物も食べられないのでしょう?」ってお家のお菓子を持ってきてはお茶請けにさせ、ほぼ従兄姉が貪り食って数時間で帰るって意味のわからんことをしてた。幾度目かにお祖父様が辞めさせたそうだ。


「おい!子爵家の分際で!!」


 従兄のアヌールが顔を真っ赤にしてる。イーダに言ったことが自分に当てはまってるからかな?


「いい加減にしないか!アヌール、イーダ、二人ともしばらく離れに籠っていろ!!」

「「お祖父様!?」」


 やっとお祖父様が出てきてくれた。アイツら相手すると長いんだよね。ほんと最初から離れでも地下でも入れとけって感じだ。


 侍従達が慣れた感じで二人を引きずっていった。


 ファナとネルが初めてみただろう怒鳴る大人にびっくりして兄さんの足にしがみついてる。


「ファナ、ネル、あれはヒステリーと言う。一種の病だ。可哀想だが治らん。見かけたら逃げろ」


 ルカが二人に身も蓋もないことを教える。そんなの覚えさせたくないけど、わりとあんなのが世の中にはいる。残念なことに。


「「わかった~」」


 ああ、私の天使達が汚れを知ってしまうよ。


「お前達、よく来たな。居間に来てくれ」


 お祖父様が先導して進む。


 普通なら先に部屋に行って休憩ってところだが私たちの用事があるからね。わりと急ぎで。


「ファナとネルは初めてだな」


 お祖父様は少し寂しそうにそう呟く。

 

 二人ともマートム領から出たのは初だから仕方ない。余裕のない我が家の馬車では幼い子を連れては隣りでもデガード領に行くのはかなり厳しい。


 二人が生まれた前後は、お祖父様が馬車を手配してくれても、働き手の家族の中で誰かが付き添うのでも勘弁して欲しい状況だった。


 なぜ侯爵家の子息であった父さんがお祖父様に援助を願わなかったか。


 それは私達子供のためと行っても過言ではない。


 まぁそんなこんなは置いといて、まずはベン兄さんの抱える問題を片付けなくてはね。





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ファナとネルのキャララフ


下手なんでイメージだけわかってもらえると嬉しいです。





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