第23話
お祖父様の私室に招かれた私たちは、ネルとルカ、私とファナ、兄さんでソファに座った。
ジョルジュはお祖父様の後ろに控え、メイヤがメイドを連れてお茶セットを用意してくれた。
「で、ヘイスト男爵だったか」
まずは兄さんが自分のことだから自分で話すとお祖父様に説明する。
「はい。私が面倒がって下調べをせず決めてしまったのが一番悪いのですが、ジャクリーン・ヘイスト嬢は、ルカを見た瞬間に私との婚約をルカと切り替えろと迫りました。私は婿入りするにあたって、我がマートム子爵家、兄弟姉妹に何事も強要しないと誓約書に書き、ヘイスト嬢本人、ヘイスト男爵家にはマートム家との親戚付き合いは最低限になると伝えましたが、ヘイスト男爵はいずれリィン、ルカ、さらにファナとネルを男爵家の都合の良い家との婚約をさせるつもりだったのです」
爵位で言えば、子爵の方が上なのに随分舐めてるよね。なぜうちの父を押し除けようと思ってんだって。
「ファナやメルもだと?」
まだ小さい子供まで駒にしようと言うヘイストにお祖父様眉が吊り上がる。
「マートム家が我がデガード侯爵家に連なると知っていて我が孫を利用しようとしたか・・・」
まぁデガードが後ろにいても母さんの熱狂的なのは堂々と嫌がらせしてるんだけどな。
「ルカを婿に、出来ないなら私とは別れないと言い張り、話にならないのです」
兄さんは普段はおっとりでこう言った係争は苦手な印象だけど、いざとなったら自分で戦える人だったんだ。
「そもそも貴族の婚姻で家同士のことに口を出さないことはあり得ないだろう。些少なりとも援助金や支度金が動く。金を出した方は口も出すものだ」
金だけ出して口出すなってのは無理だねー。これは兄さんが甘い。
「ですが、事情は説明して誓約書もきちんと効力のある書式にしてます」
テーブルの上に封筒を置いてお祖父様に差し出すとサッと速読してジョルジュに渡す。
「確かにしっかり内容も良く練った物だ」
兄さんはホッとしたが、お祖父様は眉間の皺をより深くする。
「人は感情のある生き物だ。お前にために、よかれと思って、などとうまく丸め込んでお膳立てをしてやったとリィンたちに恩を売るように攻めたとして誓約に反したことになるだろうか?」
勝手に持ってきた縁談が公爵や侯爵、伯爵でも断りにくくなる。
「お前は相手をよく調べなかった。ヘイストは狡猾で人の弱味を握るのがうまい男だ。今回はジャクリーンとやらの暴走で助かったな。婚姻後であったらもっと面倒であった」
弱味を作らせてとかやりそうだもんね。
「ただし、助けてやる条件はある」
ですよねー。だから両親は極力デガード家を頼らない。
「私自身に出来ることでしたら」
兄さんもある程度は覚悟してたんだと思う。
「この件が片付いたのち、足元を掬われない相手、ジュダス伯爵家へ婿入りせよ」
ジュダスはお祖父様の親友だっけ?そのお家の孫さんかな?
「・・・お相手が良いと言ってくださるなら」
まだ婚約者がいないなら兄さんより四つは下のはず。まぁ兄さんならちょっと上でもかっこいいからアリなはず。
「ふん、お前が不幸になる話などせぬわ」
「承知しました。お願いします」
お祖父様は一応私たちを可愛がってはくれてる。
問題は伯父達ね。
もしマートム家が助けを求めたら嬉々として自分の駒にしようとする。
今はお祖父様が健在だけど、伯父がいるから無闇に頼れば、次期後継としてとか言って絡んでくる。
何も起きてなくても伯父伯母は、母さんがデガード家に面倒をかけるから離縁すべきだとか、王都に住んでデガードのために社交に出ろとか。
なので私たちの婚約も、次期当主としてデガード、と言うより伯父の都合の相手を当てがおうと機会を狙ってる。
お祖父様が座を降りれば、マートム家は多分今より大変だ。
話がつまらないし、わからないだろうからからかファナとネルは寝ちゃった。
ベッドに寝かすべきだろうけど伯父達のいるこの家で目を離すのは避けたい。
「で、リィン、ルカ。お前達は学園を早急に卒業して何をしているんだ」
うわ。こっちきたか~。いや呼び出された時点でわかってはいたけど。
「そのことなのですがお祖父様」
ルカが姿勢を正してお祖父様に頭を下げる。
「両親にはまだ保留にされましたが、私とリィンはマートム家から除籍して平民になりたいと思います。お祖父様にも許可を頂きたい」
「はぁ!?」
ベン兄さんもびっくり。ジャクリーンのせいであの席にいなかったからね。
お祖父様は静かに私たちの目を見てる。
「私たちは望まない結婚したくないし、マートム家のいざこざに婚家を巻き込んだりも嫌です」
家のために結婚するのは我が家にはあまり意味がない。それなら働いて仕送りの方が余程マートム家、領地の為になる。
まぁデガード家にためとかだと変わるけど、駒にされないために頼ってなかったし、お祖父様は私たちを利用したがるほど権力にもお金にも固執してない。
「平民になれば身を守る権力を失う。逆らえず、捕まって好き勝手扱われる可能性もあるぞ?」
正直伯爵より下だと上の人に逆らえないのはそう変わんなくないかって思ってる。まぁ貴族位がある方がマシだろうけど。
「貴族籍を残せば、柵が付き纏うので私たちにはいらない物です」
「冒険者とはそんなに良いものか?」
お祖父様はニヤッと笑う。笑ってても眉間には皺がある。シワクリームでもつくってあげようかな。
まぁ当然動向は調べてただろうなって思ってたから驚きはない。
「良いか悪いかは置いといても、楽しいですよ」
ルカも私も自由気ままに生きてきた方だけど、学園を出てこれからの冒険者生活はとても楽しみにしている。
「だが先日のスタンピード、参加した冒険者を労うためのパーティで王宮には出ねばならぬだろう?」
ん!?パーティ?
思わずルカと顔を見合う。
「まだギルドから連絡がなかったか?ジュリエッタ・デ・アロンド公爵令嬢が参加した討伐成功をアロンド公爵が喜んで、陛下も参加した者を平等に労おうとのことだぞ?」
お祖父様が楽しそうだ。悪い人でないがちょっとした意地悪が好きなんだよね。
って国をあげて労うほどの規模じゃなかったし。
陛下も婚約破棄にことがあって強く出れない、かと言ってジュリエッタ嬢だけ労うと元王子の悪行の詫びだと捉えられるのが嫌なんだろうな。
「私たちは表舞台には立たないと伝えてあるのですが」
「いくらそうはいってもこの国に住む以上王家の呼び出しは断れぬよ」
・・・。
冒険者として参加すると素顔で行かなきゃなんだよな。王宮内、王族のいる席で魔法使ったり魔道具展開させてたら捕まっちゃうし。
「お祖父様、私たちがこの顔を王宮で晒したらどうなりそうですか?」
「マートム家の、ソニアの血縁であることはバレるだろうな」
ですよねー。
「母に拘ってる貴族とやらは何か言い出しますかね?」
「執着が再燃するだろうの」
めんどくさすぎる。
「どうしても柵から逃げ切りたいならば、私からする提案は三つだ」
指を三本出してきた。
「まず一つは冒険者ランクをBランク以上にすること」
まぁそれが早いかと思ってはいる。
「もう一つは私の持つ伯爵位とアルバス領を引き受けること」
んん?
「爵位はいらないって・・・」
「地位を傘に着る相手には地位を持っていた方が良い」
お祖父様はぬるくなったお茶をジョルジュに変えさせて続ける。
「伯爵位では弱いが子息子女と当主では立場が大きく違うからな」
でもルカが伯爵になっても私は子女のままだよ。
「ルカが当主でリィンがルカの庇護を受けることになるが、マートム家の名よりは強くなろう」
要するに父では弱いけど、ルカが伯爵になったら私の婚姻なんかも跳ね飛ばせる?
「三つ目は両方とも実現させる、だ」
えええ、めんどくさすぎる。
ルカも同じく超めんどくさそうだよ。
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