第19話

 三日後に祖父から馬車が派遣されてきた。

 せっかく帰ってきたのにまた王都に逆戻りだ。ジャクリーン死すべし。


 ファナとネルは遠出が初めてで見たこともない豪華な馬車に目をキラキラさせて興奮している。

 

「すまないな、俺がついていければ良かったんだが」

「領地の方が大事だよ」

 父さんがしょんぼりと謝ってくる。

 祖父の強引さも嫌がらせの貴族のしつこさも知ってるから別に良いのに。

 今回はジャクリーンのせいだし。


 結局、ベン兄さんが自分のせいだからと王都行きについてくることになった。


 玄関に出ると祖父にところの執事が立っていた。


「わざわざジュルジュが来たの?」

「主人の大事なお孫さまのお迎えですからね」


 気さくなようで話す相手を冷静に分析しているこの執事、私は少し苦手。

 ルカと共に学園時代の地味メイクに地味衣装、ファナとネルはお土産にあげた一張羅に帽子を被せた。

 目立たないようにしないと。

 ジョルジュは私たちの姿を片眉を上げたが黙認した。

 父さん母さんの事情を知ってれば何も言わないよね。


「ジュルジュ、すまないな、子供達をよろしく頼む」

「ご無沙汰しております。ハインツさま。ご令息、ご令嬢は大切にお預かりします」

「・・・頼むよ」

「こちらは侯爵さまからお預かりしてきた書簡です。此度のヘイスト男爵家(ジャクリーン実家)についてはすぐに片付くと仰せでございます」


 簡単に済むなら呼び出さないでほしい。交換条件だから仕方ないけど。


 ジョルジュは馭者ともに荷物を荷台に運んでくれる。

「これだけで良いのですか?」

「足りなきゃ向こうで買うよ」


 アイテムボックスにもマジックバッグにも荷物入れてるし、とは言えないからね。


「承知いたしました」


 さっそくネルとファナを抱き上げて馬車に乗せ、私とルカ、ベン兄さんも乗る。

「ジュルジュは乗らないの?」

「私が主家の方と同乗するわけには参りませんにで馭者台に乗らせてもらいます」


 硬い。相変わらずの四角四面だ。


 馬車は流石に辻馬車や荷馬車とは比べ物にならない。ウチには旧式のがあるけど今の辻馬車と乗り心地に大差ないんだよね。


 マートム領から王都に向かう道は残念ながらほぼ一択で大雑把にアルガ-パスク-王都アンシェルって言う道筋。

 先日しばらく来れないって言ったアルガの連中にあっちまうだろがーい。


 ファナとネルは初めて見る景色を喜んでる。休みに帰った時もっと色々遊ばせたかったな。


 しかし馬車早いな。

「ルカ、馬車スピード出してる?」

「いや無理をしてる感じじゃなさそう」

 

 魔道具でも使ってるのかな。


 まずはアルガについて馬を休ませ、人間は食事だ。


「このままパスクまで行き、そちらで泊まります」

  

 食事をしながら今後の道程を聞かされる。


 ファナとネルにとってはアガルでも都会に見えてるんだろう。

 お店の内装にも食事にも家では出ない食材が使われてるのを興味津々に観察してる。


「おいしーね」

「おいしーなの」


 おチビたちは他の貴族家でもあまり外に出されない年齢だから特別悪い環境とは言わないけど、こんな可愛い顔をするんだからもっと色々見せてあげたい。


 おやつ用にクッキーを買って馬車に戻った。


 ベン兄さんはずっと静かにしてる。


 王都から帰ってきた時は護衛や辻馬車でゆっくりだったけど今回のスピードなら五日くらいか?


 馬車には護衛が一応四名ついている。

 多分侯爵家の護衛では無く冒険者だ。

 若干貴族を嫌ってるそぶりがあって、我が家の状況を見たからか、軽く扱っても良いと判断したみたい。

 だがお前たち、雇主は侯爵だ。私たちでは無いんだぜ。


 アルガからパスクの街道は先のゴブリン騒動が片付いたばかりだから今は魔物危険度が低い。楽な仕事の部類だろうが。魔物の危険がないってことは野盗や盗賊が出てきやすい。


「リィン、楽しそうだな」

「別に~、何事もないと良いなぁって」

「ああ、そうゆうことか」


 ツーカー、阿吽。ルカとは隠し事もできないのはちょっと不満だけど逆に詳しく言わずに済むのが良いよね。


「祖父さまが雇ったなら腕はいいんだろうさ」

 ルカが外の護衛を見て口角を上げた。


「姉様、何ー?」

「兄さま。なぁに~?」


 楽しそうに外を見てた二人が私たちの会話が気になったらしい。


「なんでもないよ。クッキー食べようか」


 天使な弟妹が私たちに似てしまったら大変だ。気をつけなくては。


 ま、フラグ立てたよねー!テヘペロ!




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