第18話

 洞窟を出て、魔物の痕跡を調べつつ、ジャック達のいる岩場を目指す。


「足跡と木のダメージ見ても長く使われた様子はない」

「そうだね、長くて三ヶ月くらいかな」

 

 ウルフやオーガたちが長く暮らしていたら臭いはもちろん根が傷ついていたり、もっとわかりやすく地面が荒れているだろう。

 


 魔素が特別溜まっていたり、瘴気を放っているような場所もない。


 岩場につけば、ジャックたちも調査を済ませたのか休憩を取っていた。


「おう、リンク、リュカ、早かったな?」

「んー、こっちはなんか問題あった?」


 ジャックは少し離れた場所置いてある石を指差す。


「あれが呼水ならぬ呼び石だったみたいだな」

 洞窟で見つけた魔石と似た気配がする。


「「・・・」」

 ルカと意思を疎通させてから、魔石をマジックバッグから取り出して見せる。


「・・・ふぅ」


 簡易結界を張っているから触れていても大丈夫だけど誰が見ても禍々しい気配を放っている。


「ディルク!」

 ジャックが休んでた一人に声をかける。


「どうやら大事だ。魔石はこのままで持ち帰りたい。結界を張ってくれ」


 ジャックの仲間ディルクはどうやら結界も使えたようだ。まぁBランクパーティだから多彩な仲間がいるのは当たり前なのかな?


「うえ、めっちゃ気色悪りぃ」

 濁った色の石を嫌そうに受け取り、置いてあった魔石とまとめて結界を張り、自身のマジックバッグに収納した。


 ジャックは私たちが目立ちたくないのを尊重してくれているので、何か勘付いても口に出したりはしない。

 

「じゃぁもう戻るかぁ、お前ら行くぞ!」

 

 休んでいた連中に声を掛けて、森の外に向かった。


「お前ら報告入れてすぐ行くのか?」

「うん、悪いけど実家の方が早急に動きたい問題がある」


 おそらく王都に調査報告に行く羽目になるだろうし、魔石の出所の調査も依頼されるだろうけど、私たちは参加する余裕がない。

 祖父が手を貸してくれるか、借りれなかったらどう話を進めるか。

 

「まぁそれ片付いたら合同依頼でもやろうな」


 食事が目当てだろうけどジャックは嫌味がない。

「そのうちね」


 下手したら国を出ることになるけど、ジャックたちなら国外依頼も受けるだろうから会う機会はあるだろう。


 森の外に出れば、ギルド職員が安堵した顔で迎えてくれた。


「「「「「お疲れ様です」」」」」


 残っていた人たちで食事を用意してくれたようで、それを食べながら大まかに説明した。


 意図的に魔物を呼び込んだ証拠が出たとなれば、国からも調査がでる案件になる。

 洞窟の痕跡は消してしまったけど岩場や他の発生場所は特別な処置をされてない。

 が、すでにジャックたちがしっかり調べているので他の証拠なんて出てこないだろう。


 帰りは急ぎたかったけど、ジャックたちの馬車に乗せてもらってアルガまで戻った。

 くそう、さすがBランク冒険者。大きくて中も広い乗り心地最高な馬車だった。

 子爵家の馬車なんて・・・。


「お前ら、お疲れ様!!よくやってくれた」


 ギルマスに労われ、マジックバッグから大量の遺品や骨を取り出して引き渡す。


「こんなにか・・・」

 あんな外れの森にこれだけの犠牲者がいた。数ヶ月でかなりの被害者がいたようだ。


 その後ギルドの食堂で食事を奢ってもらった。


「調査報告は読んだ。だが魔石は過去に記録がない。王都で詳しく調べてもらわないとあの魔石の役割、使用者が割り出せん」


 魔力の痕跡は追えなくもないけど、それをしちゃうとめんどくさいことになりそうなのでしない。

 予想通り私たち全員に王都に説明に行って欲しいと言われたけど、無理なものは無理。


「ギルマス、調査結果だけなら俺たち《爆炎の翼》だけで十分だ」

 ジャックが請け負ってくれたおかげで渋々納得してくれた。


「それと俺たちしばらくマジで身動き取れないから当面全て依頼はどんなものも受けられない。下手すると遠くに移動する可能性もあると思っていて欲しい」

「「遠くに?」」

 ジャックとギルマスが首を傾げる。


「実家が引っ越す可能性があってもしもの時はついて行くつもりだから」


 ルカが説明すると二人とも渋面になった。


「そいつぁ穏やかじゃねえな」

「ちょっと面倒なんでね」


 夜だからと引き止められたけどアルガを出て二人で実家近くまで転移した。


 あのジャクリーンは執念深い。

 出来るだけ早く問題を片付けなければ。


 深夜に帰ったにも関わらず母さんとアマレットさんは笑顔で迎え入れてくれた。


「お疲れ様、お風呂入れるわよ」

 いつ帰って来てもいいようにずっと温めて待っていてくれたようだ。

 薪だって我が家にはやすいものじゃないのに。


 ルカが譲ってくれたので先に入浴した。


 出てきたらアマレットさんがスープを出してくれて、沁みた。


 ルカと二人、寂しく思ったことはないけど、常に二人で過ごしていたから待っていてもらうとか心配してもらうって実感がなかったけど、帰ってこない私たちをいつも思ってくれてたんだろうなって思い至った。


 ルカが上がってきたら同じようにスープを出してくれて、ルカも同じようなことを考えたのか気恥ずかしいような顔をしている。


「心配ないって言ったのに・・・」

「あなたたちは王都に行ってから多めに仕送りしてくれて、一体どんな仕事をしてるのか気にはなっていたけど、冒険者だなんて危険ことをしてるとは思ってなかったのよ」


 母さんは田舎で苦労していると言ってもお嬢様育ち。あの金額が普通の仕事で学園に通いながら稼げるかとかまでは思い至らなかったんだろう。

 もちろん言う気もなかったしね。

 学園を卒業して本格的に活動ができるようになったから告げることにしただけだ。


「ジャクリーンのことだけどね、お祖父様が引き受けてくれるそうなの、でもねぇ、あなたたちがネルとファナを連れて王都のタウンハウスに顔を出すことが条件なの」


 面倒な。せめて領地なら三日で済むのに王都まで子供を連れてなら一週間以上かかる。



「それだとジャクリーンが言い掛かりをつけるのに余裕が生まれてしまうんじゃないか?」

 ルカがスープを飲み干してお代わりを貰いつつ聞く。

「あなたたちが顔を出すと約束した時点で手配してくれるそうなの。あとお迎えの馬車も手配してくれるそうよ」


 馬車代すら厳しい状況だろうとの温情だろうけど私たちは転移短縮したいからありがた迷惑なんだよね。

 私たちの能力は家族に、ネルやファナに内緒だから今回は出来ないんでいいけど。

 


「はぁ、どのみち近いうちに挨拶には行くつもりだったからいいよ。わかった」

 

 学園を卒業して貴族籍から抜けることはさすがに言わないとって思ってたからね。


「悪いわねぇ」

 母さんは父さんとの結婚で色々制限ができちゃって実家にもほとんど帰れていないけど縁を切ったわけでも仲が悪くなったわけでもない。家族に謝る必要はないのにさ。


 部屋に戻るとルカもついてきた。

「王都に行くとギルド関連に巻き込まれないか?」


 やめろっ!考えないようにしてたの!

 フラグ立っちゃうからやめろーーー!!!





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