第17話

 食事の後、疲労が少ないメンツが交代で不寝番して夜明けを待った。

 流石に殲滅に近い状態だったから魔物も出て来ない。


 おっちゃんらのイビキ、寝言、歯軋りが響く以外は平和な時間だ。


「リィン、ギルドが持ってきた情報の中にはやっぱり今回出てきた魔物はここらで出た記録はないよ」


 ルカが書類を捲りながら報告して来た。


「元々いて遭遇しなかったのか、何らかの発生原因があるのかを見極めないとだね」


 ヤツらの巣を中心に調べていつからいたのかがわかれば楽なんだけどどうかな?


 まだ少し見張りの時間が残ってるから眠気覚ましに香辛料とハーブを入れて沸かしたワインを2人で飲む。


「これあったまるけど酒精飛んでて残念だ」

「仕事中だからね」

「おっさんたち普段は途中でも飲んだくれてんじゃん」


 ブツブツ言いながらも飲み干す。可愛いやつめ。


 森からはフクロウや夜行性の生き物の声が少し漏れてくるけど、特に問題は起こらなそう。


 交代の時間になって私たちは数時間眠れた。



 日が登って起きるとすでに数人は体を動かしたり、スープを仕込んだりしてる。


 私は《洗浄》だけ掛けて軽く身繕いを済ませ、調理を手伝う。


「おはよ。リンク。昨日のタレまだあるか?分けてくれ」


 朝ごはんに焼肉のタレはどうよ?


「良いけど、朝っぱらから濃くない?」

「なぁに女みたいなこと言ってんだ!肉体労働にはパワーが出るのが良いんだよ!!」


 く!男装してるけど女だよ!


 起きてきた連中と入れ替わり立ち替わり食事を済ませ、簡単な作戦会議をする。

 

 調査隊と素材回収隊、魔物の死骸、残骸処理隊と分かれてどこ担当か程度なんだけど。

 死骸残骸は、強火力持ちと浄化が得意な連中になる。


 ま、私たちはどれでも良いんだけど、調査隊になってる。


 すでに怪我人は返してるし軽症な連中はポーション使ったり、ヒーラーが治してるから特に問題無し。


 ジャック達が行くって変わるって言ってくれたけど私たちは洞窟に向かう。

 臭いも凄惨さも今更だし、戦闘を担当した場所に行くほうが調べるのには良いと思う。



 ギルドの職員は本営として拠点に残る。


 早速散らばって、行きがてら足跡とか森に残る痕跡も見つつ洞窟まで向かった。


 入り口からすでに臭気が漂ってるのでマスクをつけて中に向かう。


「う“ー、やっぱ汚ねェ。群れの退治は断りたいよな・・・」


 ルカが辟易したとばかりにため息。


 なんて言うのかな。

 洞窟の壁に汚物でも塗りたくったかの如く岩が薄汚れてて臭いもひどい。

 言うまでもなく床面なんかは・・・。


 戦闘中は走り抜けるし、意識も奴らの気配をよむ為に集中してるからそこまで気にならないけど、今はね。


 私は面倒だけど入り口から《洗浄》魔法を展開させながら進んでる。


 汚いままだとまた魔物が棲みつくし、魔素の濁りは新たな魔物を産む。


 燃やして浄化が手っ取り早いけど、自然の造形物を壊すのは忍びない。


 私は前世で鍾乳洞とか好きだったし、遺跡とかにも浪漫を感じてた。

 長い年月かけて遺ってきたものを〈今〉の都合で壊すのはなんとなく嫌なんだ。


 魔物がえっさこらさと掘ったとかなら遠慮なくぶっ壊すけどね。


 ところどころ抉られたような傷があるのは魔物が棲みついていた以上どうしようもない。

 また棲もうと思わないくらい浄化するしかないんだよ。


「リィン、こっちも掃除するの?」


 分かれ道、横穴とか全部。

 ゴブリン達が集めた魔石とか旅行者の荷物も全部回収。

 ところどころ骨が落ちてて、人骨か判別し難いので一応まとめて回収。

 

 今のところ長い期間暮らしてた痕跡はない。


 最奥のボスクラスがいた場所まで行き着くと流石に汚さは緩和されてるけど魔素が濃い。


 魔素を生み出すものがないか調べるとボスの持ち物?部下達に貢がせたであろう物の中から妙な気配の握り拳くらいの魔石が出てきた。


「これか?」

「これだけで森のあちこちに集落できるかな?」


 持っていたくない禍々しさを放つ緑が混じったような紫色の魔石。


「結界か封印を施さないと持ち歩けないな」

「報告しないで浄化したらまずい?」

「持ち歩けないからここで処理したっていうかのはアリじゃないか?」


 困ったね。

 持ち帰れば、私たちが《結界》や《封印》を使えるのがバレちゃう。


「ジャック達が何見つけたかで決めない?」

「・・・そうだね」


 私たちは自分の身が大事だし。


 ここの浄化だけしっかりしておけば私たちに請け負った管轄で問題が復活したりはしないはず。


 この石が何者かがばら撒いたんじゃなければ。


 ボスの宝物?を全部回収しようと少し崩してみれば、立派な剣とか豪華なドレスとか方向性が全く見えないラインナップで。


 襲った馬車から奪ったモノを全部集めたのか?ってくらい謎なのだった。


「こんなの集めといてどこで使う気だったのかな」

「ゴブ子とか彼女出来たら着せたんじゃね?」


 ルカが冗談を言った!!!

 

 ゴブリンのメスとか外見でわからんかったわ。


「棍棒持ったピンクドレスのゴブリン・・・ちょっと戦いにくい」

「いや瞬殺だろ」


 クールだわ。ルカってば非情だわ!


「こんなの着て襲ってきたら勘違い女かってビビるわ」


 ひど!

 勘違い女と何かあったの!?


 最近ルカがどんどん荒んできた気がする。

 私のせいかな?


「とりあえず浄化も済んだしジャックたちと合流しよう」



 結局、洞窟は長くても半年くらいで瘴気や魔素をこの場所が生み出した感じはなく、問題といえばあの変な色の魔石ぐらいだった。


 臭いも消えたのでマスクを外して外に向かった。


 願わくばこの洞窟がまた魔物が棲まないよう。


 岩場の陰に残っていた苔などはポーションの素材になるモノだったから時間が経てば良い素材が育つはず。













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