第16話

 ちょっとゲンナリしつつ、仕切ってるおっちゃんに声を掛ける。


「一応、終わったと思う。調査隊と回収の担当が合流したらまた中に入る」


 ルカが説明するとおっちゃんがホッとした。この辺りの冒険者だとこんな大量の魔物相手に、森に留まって滞在する依頼は早々ない。

 飛ぶ系の魔獣がいなかったけどほぼスタンピードだったと思う。


 ジュリーことジュリエッタ嬢が未だに騒いでる。学園の卒業式で見た彼女は凛としてカッコよかったんだけどな。

 理不尽な婚約破棄で心が振り切っちゃったのかな?


 彼女の話している内容は「なぜ国から救援が来なかった」「なぜこんなに集落が出来るまで放置されていたのか」とまぁそのギルドの担当者に言っても答えられそうにない事。


 私たちが戻ったのを見て、

「最初から高ランクがいたらこんなに怪我人や死者が出ずに済んだ」と怒っている。


 調査隊の詳しい情報を待たずに出て崩壊させたのは誰だよ!?


「おい!良い加減にしてくれ。準備も情報もおざなりに参加したのが悪いんだろう?」


 ジャック達が注意を入れる。

 怪我をしている他の冒険者も良い顔はしていない。


「全滅していてもおかしくなかったんだぞ」


 そう言われて顔をぐしゃっとさせて泣き出した。


 どうもマグナムさんが大怪我をしてるらしい。救護テントで治療を受けてる。

 ポーション足りてないのかな?


「ゴブリンだろうが集落がある可能性があったら数や他の種がいないか、地形まで全部詳しく情報を仕入れないと高位ランクでも危ないんだぞ!」


 何が出てくるかわかんないしね。まぁBランクだったらゴブリンくらい集落複数あっても、初動間違えなかったら楽勝だろうけど、今回はサーペントやオーガロードとか想定外のが多かった。

 私たちが楽に討伐出来たのはだいぶ削られてたから。


 ハヤった連中を追ってくれたおっちゃん達は面倒見が良すぎだ。

 命を落としたのはハヤった連中の中で若手だそう。経験が少ないならオーガやウルフが急に出て来たら無理だったろう。


「でも村や民に被害が出たら・・・」

「近場に村落はないから高位ランクを持ってたんだと言ってるだろう」


 これ私らが中に入って出てくるまでずっとループだったのかな?


 矛先が来たら面倒だから、ギルドの物資から食料を出してごった煮スープと雑穀リゾットを作る。


 おっちゃん達は糧食で済ましがちだからね。先に戻るにしても体力付けて帰さないと。


 救護テントの中を覗いたら結構辛そうなのでスープにお手製ポーションをこっそり入れておく。


 ルカが物言いたげだけど、ここから帰るのだってちょっと遠いんだからサービスだよ。


「良い匂いだな~」


「怪我人に先に配ってあげて」


「了解っす」


 ああー、早く蒲焼き食べたい。

 流石に全員分はやっぱり作ってられないわ。



 みんなが食べ終わって多少動ける人が出て来たところで増員が来た。

 討伐は終わったけど魔物の回収や処理も大変なんだ。


「お疲れ様です。重症者は馬車に。動ける人は申し訳ないが徒歩で戻ってくれ。事後調査、回収に付き合える者は残って欲しい」


 残ったのは《爆炎の翼》、私たち入れて計30人余り。


 流石に一週間近く頑張ったおっちゃん達は無理だよね。

 マグナムさんも怪我人でジュリーさんを一人残すのは絶対にダメだと無理やり連れ帰ってくれた。良かった。


 もうじき暗くなるので今夜は中に入らず明日に朝から調査になった。


 残った冒険者に女性はいなかったのでちょっと寂し。


「リンク~飯食わして~」


 ジャック達がおねだりに来た。マジでか。約30人だぞ!


 食材をどどんと用意されてその中にサーペントやワイルドボアを出されたら負けるよね。


 食材のカットと仕込みの手伝いをしてもらって作り始めた。休んでたおっちゃん達もワラワラ集まって来て場所を作ってくれる。


 みんなちょっと荒んだ気持ちだったろうにあっと言う間に宴会準備のような賑やかさになった。


 酒は物資にも無かったしジャック達も出してないから宴会っていうより食事会?


 森がちょっとざわざわしてて嫌な感じがしたけど魔物の気配ではないし、今は食事楽しむことにする。


 ボア肉は普通にステーキと煮込みを作って。野菜は炒めた。

 サーペントは石を組んでバーベキューコンロ風にして自前の網を出して炙り焼き。


 これまた自前の自家製タレで味付け。

 醤油もどきは微妙に味が違うんだけど、遠征で行った街で見つけて大量買い。

 試行錯誤して串焼き向きのタレが仕上がった。

 ルカは匂いで引いてたけど色々食べさせた結果今では好物。


 タレの焼けた匂いが漂い始めておっちゃん達が興奮し始めた。


「エール飲みテェ!!」

「ドライボー欲しい!!」


 ドライボーはターキーっぽい地酒みたいなやつ。アルコール強め。


「はぁぁー疲れたな。経験ボーナスタイムっつってもあれはキツかったわ」


 食事も睡眠もままならず延々とゴブリンとか悪夢だわね。


 交代はしてたにしても気が休まらない。


 人工的な発生だとしたら何がしたかったのか?気になるところ。


 でもジュリーさんがここに来たこととか考えるとゲームのイベントとかあるのか?

 

 学園の婚約シーンからその後なんてヒロインのエンドを見て終わりで、追加とかショートストーリーとかまで知らん。

 マジで続編とかあったの?


 勘弁して欲しい。


 この件からは報告したら手を引こう。

 兄さんの話が終わったら少し隣国の依頼とか受けようかな?


 逃亡一択。


 傍観者希望。







 

 


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