第14話

「おい!嬢ちゃん!何言ってんだ!?」

 休んでたおっちゃん達がびっくりして止めてくれる。


「でもこの人たちが最初から来てくれてたら・・・!!」


 ジュリーさんが怒っているのはマグナムが怪我をしている事も関係してそうだ。


「最初の報告ではここまでの規模ではなかっただろう?中級冒険者である彼らが駆け出しにために簡易な依頼を譲るのは当たり前のことだ」


「そうだぞ!!大体嬢ちゃん達が正式な報告の前に気が早って出て行くから俺たちも付き添うことになったんだろうが!!」


「きちんと調査した後に出発していたらここまでの被害は出していないし、対策も取れたんだ」


 普段無茶しないはずの顔ぶれもいたから不思議だったんだけど、心配して付き合っちゃったんだね。


「だってゴブリンの巣を放置だなんて近隣の被害が・・・!!」


 なおも言い募る強心臓は流石だけど、死線を何度も切り抜けて来たおっちゃん達は流されないよ。


「調査後に完全に潰す対策をするのがまともな冒険者の役割なんだぞ」


 きちんと教え諭す役割の人と怒る人とでバランスを取ってる。さすがベテランだ。


「リンク達は仕事を選べる立場だ。いざとなれば強制依頼だって跳ね除けることが出来るのに来てくれただけでも有り難いんだぞ」

「こいつらがちゃんと今回の現場に自分たちが必要か確認してから実家に戻ったとギルマスが言ってたぞ」


 おっと、ギルマス!個人情報流しやがったな。


 ジュリーさんは拳を握りしめながらまだ睨んでくる。


「力を持ってるならその力を有効に使って民を守るべきよ!」


 おおぅ!王族に嫁ぐ予定だった人の言うことは崇高だね。


「俺たちは貴族じゃなく冒険者だ。人に尽くす為じゃなく生きるために活動してる」


 ルカがうんざりした顔で冷え冷えとした視線で睨み返す。


「Cランクなら守れるだけの力を持ってるでしょう!!」


「金を稼ぐためにやってる。そのついでに人助けをしているだけだ。綺麗事でやってるヤツもいるが自分の理想を人に押し付けんな」


 ルカが珍しくよく喋ってるな。辛辣だけど。


「冒険者は国に属していない事を忘れたか?」


 おっちゃんも追撃してくれる。


「でもその子達は貴族でしょう?」


 その言葉に力尽きて休んでた連中も起き出してジュリーさんを睨む。


「おい!冒険者はだいたい訳ありだ!自分で公表してないことを漏らすのは規約違反だぞ」

「仮に貴族だとして冒険者なんかやってるんだ!その枠を捨ててるに決まってんだろうが!!」


 強面のおっちゃんやデカいおっさんが怒っていても全然引かないジュリーさんは相当な胆力持ちだ。


 貴族嫌いも多い中庇ってくれて嬉しい。 まぁこの国では跡を継げない者は家を出て商人や冒険者になるのもよくある事だしね。


「貴族として生まれたなら死ぬまで民のために生きるべきでしょう?」


 はぁ。このお嬢さんは責任感が強いようだ。その国の王子に無責任に捨てられてもなお民を思うのか。自分のことだけ考えればいいのに。

 ちょっと思考が偏ってるみたいだけど、収まるところに収まってれば正しく王妃になったはずのこの人を捨てて、あの頭の軽そうな令嬢を選んだ王子はくたばればいい。


「守ってくれない国とその民のために生きる気は無い。俺たちは家族と仲間のために生きる。自分の思考を押し付けてくるな」


「・・・守ってくれない・・・?」


 高位貴族として生きて来た令嬢には知り得ない世界で私たちは生きて来た。分かり合えないのは仕方ない。


「冒険者に向いてないよ、あんた」


 ルカがそう言って切り上げて、まだが終わってない現場に向かおうと私を誘う。


「おっちゃん達、魔が余力があるなら取りこぼしがないかチェックして、死体の処理と素材の回収をお願い。無理そうなら休んでて。追加の人員が来てくれるから」


 いまだにブルブルとこちらを睨みつけてるお嬢様をスルーして、《爆炎の翼》が向かった岩場に向かう。多分もうそろそろ片付くだろう。


 ギルドからの救援物資を向こうで力尽きそうな連中に配らないと。


 ジュリーさんは私たちにだいぶヘイトを溜め込んでるなぁ。なんでそこまでって思うんだけど、色々あって気が昂ってるんだろうね。


 公爵家に戻ってから私たちに変な干渉してこないと良いけど。


 やっぱランク上げるか、別の国にでるしかないのかな。

 

 




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