第11話
翌日、朝食の席でベン兄さんが昨日の話を両親に伝えて、婚約破棄の意思をはっきり表明した。
「はぁ。お前達には苦労をかけるな」
ジャクリーンと男爵の言い分を知って母が暗い顔になる。いつもは明るく振る舞っているけど、過去のことが付き纏ってくるときは思いっきり落ち込んでしまう。
父も母の過去で苦労してきたけど、母を守ると言う意思は一度も揺らいで無いらしい。
「俺たちは別に気にしない。ネルとファナが無事に過ごせるならいい」
そこなんだよね。
ネルとファナは話について来れてないけど何となく良く無い話だと感じてるようで無言だ。
「一時的にお祖父様に預かってもらうのも良いんじゃ無いか?」
ジョン兄さんがそう言うと両親は顔色が悪くなる。
子煩悩な2人がまだ小さい2人を手放すことは選択できないと思う。
「ともかくジャクリーンの事片付けないと」
そう話してる時に私たちの冒険者タグが赤く光った。
ほぼ同時に窓から《伝心鳥》が入ってくる。
『緊急依頼事案発生。アガルの街に来れ』
「・・・あれか」
「・・・あれだろうねぇ」
『諾』と《伝心鳥》に返信を伝えて魔力を与えて飛ばす。
《伝心鳥》は魔石を鳥に変化させて使う伝達法で魔力を持つ者同士なら扱える。
受け取り手が返信を出来なくても緊急依頼時に飛ばす事はあるけど《伝心鳥》に使う魔石はそこそこ高いので使い捨てにはなかなか出来ないよね。
「兄さん、お祖父様に協力が得られるまで話を進めないように。俺たちもなるべく早く戻るから」
いきなり《伝心鳥》が入ってきたことに驚いて固まっていた家族が慌てる。
「緊急依頼って危なく無いのか?」
「お前達、そんな危ないことを・・・」
そう言われるのは仕方ない。けど。
「呼ばれたら行かないとね。冒険者の責務だから」
縛りとか特権は特に無いけど、身分保証がされてるからそれなりの責任と義務はある。
貴族の義務があるようにね。
「まぁこの件なら俺たちそこまで危険じゃ無いから。心配しないで」
「すぐ帰ってくるから」
困惑と心配の混じったままの家族に申し訳ないけど、一度部屋に戻ってカモフラージュ用の荷物を取って、ネルとファナに護身用に魔道具を簡単な説明をして付けてもらった。
私たちはすぐに出発した。
足取りとか日数の辻褄が合わなくなるのは困るから基本的に転移魔法は使えるけど使わない。転移魔法を使える者は希少だからバレないようにね。
でも《緊急依頼》なので身体強化でハイスピードで移動する。
ゴブリンどもの巣で何かイレギュラーがあったんだと思うけど、他のCランク呼ぶって言ってたしなんで対処できてないんだろう?
ホブゴブリンかオーク辺りが後ろにいたのか?ゴブリンメイジやソルジャー、キング、ロードでもいたのかな?
あのお嬢様は無事でいるかな?
「結局、強制依頼になったな」
「そこまで強い気配無かったよね?」
「ああ」
オークは食べられるけどそこまで好きじゃ無いし、おいしくない仕事になりそう。
ベアーやボアがいる方が美味しいんだけどな。
町一つ飛ばしてじっと走り続けるとやっとアガルの街に着いた。
すぐにキルドに行き、受付嬢のペコラちゃんがマスターの部屋に連れて行ってくれる。
ギルド内は普段よりは騒然としてるけど怪我人やらはいなさそう。
「おう。来てくれたか。悪りぃな」
ギルドマスターが申し訳なさそうに言って書類を見せてくる。
「あの後調査にDランク二組に行って貰ったんだが、ゴブリンの集落が洞窟に中にできていてどうもその近辺にも複数出来てる気配があったとのことだ。ゴブリンとはいえ数が大すぎて洞窟内部を調べることは避けて戻ってきた。それは当然の判断だ。改めてすぐに集まるDランクとEランクを集めてB、Cランクが来るまで待機させていたんだが、ゴブリン如きで待っていられるかと言い出した奴らと待ってる間に被害が出たらどうするのかと言うのがいてな・・・」
被害云々はあのお嬢様かな~。
「で、後追いで連絡のついたCランクがついて行ったんだがオーガキングやウォーウルフが出たと連絡が入った」
・・・軒並み美味しく無いな。
「そんな気配なかったはずだがおかしいな・・・」
「お前達の報告よりかなり奥まった森の中だ」
マスターが数日寝てなそうな顔でどんよりしている。
「ゴブリンは確かにお前達に頼むほどでは無いがオーガキングは流石にこの辺りを拠点に動いてる連中にはキツい。悪いが強制依頼を出させてもらう」
まぁ仕方ないよね。オーガキングは単体でいることはなく仲間を含めてBランク魔物扱いだから。
「すでに昨日からBランクの《爆炎の翼》も出ているが集落に冒険者が向かってから3日経っている」
「長引いてるな」
Dランクだとオーガは難しいかもしれないな。
あのお嬢様がどのレベルか分からないけど、3日もオーガやゴブリンどもとやり合ってるとしたら精神が持たない気がする。
「Bランクが出てるなら俺たちがついた時には終わってそうだけど」
「事後調査と怪我人の保護もよろしくな」
怪我人の回収や食糧の補給も兼ねてまだギルドに残っていた他の冒険者達の中で体力自慢の連中も現場に向かうことになっているらしい。
とはいえ、一刻も早く現場に向かう必要があるから私たちは先に走ることにした。
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