第10話

 父さんはすぐには結論を出せないと母さんと部屋に戻ってしまった。


 私たちはジョン兄さんとテーブルを片付けながら話を続ける。


「まぁうちレベルだと貴族っていう地位にしがみつきたいほど良いものには思えんわなぁ。しかしリィン、良く婚約の話を全部交わし切ったね」


 兄さんが達観した感じ。昔からなんか悟り開いてるような穏やかな人だ。


「うわさだけで顔も見たことがないのに申し込んでくるのは論外だし、子供の頃から付き合いにある相手なんかはいじめられた記憶しかないから。学園でわざわざ見に来た連中はダサメイクしてるの見たら幻想を壊されたとか怒って来たりしたし」


 そう。目立たないように隠蔽や隠密スキルを使っててもクラスまで来ちゃったり、調べて住処まで来た奴もいたけど、おさげでダサメイク、古着でいれば大体引く。


 高位貴族はそもそも子爵の娘をわざわざ望まないから、愛人にしてやるよ?くらいの阿保ボンは来たりもしたけど、ルカって言う用心棒の威圧で逃げる小物。


 まぁ運が良いのか絶対逆らえないレベルが来てなかったのもある。


「俺ですらストーカーみたいなの来たのに本当に二人ともすごいなぁ」


 ちょっとその情報は聞いてなかったよ!?


 ルカも同じく隠蔽隠密で行動してたし、基本私と組んでたから他の令嬢と接近する必要なかったしね!同世代に王子と公爵令息とか優良物件がいたから、顔だけ良い子爵令息なんてのもお呼びじゃなかったのかも?


 まぁ婚約の打診で男爵や伯爵の婿入りって言うのはあったけど、ルカもクラスまで見に来た令嬢が思いっきりしょんぼりして帰ったのよ。噂でマートム家の美形度が一人歩きし過ぎて期待も振り切ってるんだろうね。

 ネルとファナも苦労しそうだからちゃんと対策教えないと。


 あと遠回しに母と合わせて欲しい系の下心が透けてる。ワンチャン口説けないかとか一晩行けないかって。キモいよね!


 母さんの娘時代ってどんなだったんだろう?今でも天然系ほんわか美人だけどほぼ社交界には出てないからね。わからん。

 私たちも夜会デビューはせずに王都から出て来ちゃったから、このままフェードアウトしたいんだけど。


「良いとこと結婚してとかは嫌なんだな?」

「「はい」」


 兄さんがそう聞いてくれたのでしっかりと肯定した。

 結婚したところでその先で変な人に当たったら母さんみたく一生付き纏われそうだし、結婚はするとしても多少金持ちのが良いのはチラッと思うけど、貧乏でも食べていける程度なら自分で稼げばいい。そう思うと気ままに冒険者か商人がいいかな?

 うちに持参金出す余裕はないしね。私たちの貯金はマイホーム資金だしぃ。


 ルカは一生遊び人がいいらしい。冒険しつつ適度に遊んでって。まぁまだチェリーちゃんだって知ってるけど☆お互い行動が全部知られてるから仕方なし!


 このまま二人で一緒にずーっとバカやってそうな気もする。


「父さんも母さんも引き寄せるタチだけどお前たちは上手くやり過ごせるのだから今からそんなガチガチに人生決めなくてもいいと思うぞ」


 そんなタチやだねぇ。魅了のスキルでも持ってるのかしら?


 兄さんが優しく私たちの頭を撫でてくれる。

 六つ上で多分ウチが一番苦しい時期を覚えてるだろうし、長男としてだいぶ重圧もあっただろうに常に下の弟妹を気遣ってくれるよい兄だよ。


「ただいま~」


 ベン兄さんが帰ってきたら。凄い渋面で!


「うまく纏まった?」


 ルカが聞くとベン兄さんが首を横に振る。


「ジャクリーンはルカが婿に来ないなら俺と

の婚約破棄はしないというし、親父さんは今更困るとか娘の言うことだからと言って話にならない」


 決定的な証拠持たせたのにそもそもそこは悪いことと思ってなさそう!


「頭悪そう・・・」

「だから推しの強い女はやめておけと・・・」


「祖父さまに頼るしかないか~」

「あの家、どうもウチと縁戚になってお前たちを自分の都合のいい家に繋がらせようとしてたみたいだ」

「は!?」


 何か爆弾投下したな?


「マートム家の血筋ってだけで欲しがる家が多いようだ」


 何それ!?


「婚姻を結めば両親と繋がりを持てる、生まれてくる子供も期待できるとか意味がわからんことを言っていた」


 ベン兄さんはほとほと疲れ果てて数時間前と比べて5歳は老けてる。


「はぁ。祖父さまに連絡を入れてくれ。出方次第では裁判も必要だろう」


 ジョン兄さんがそういうとベン兄さんが執事と家令に相談に行った。


 うーん。ウチが勝てるとしても費用が痛いな。ちょっと稼いでくるべきか?


「そこまで言われるとなるとネルとファナも気をつけてみないと行けないね」


 ルカが不機嫌な顔で言う。


 祖父さまの養子に入れるかそれこそ私たちが引き取って国外に出ないとダメかもしれない。

 母さんが泣いちゃうだろうな。


 王都には綺麗な人も可愛い人も魅力的な人たくさんいるのに、なぜ母さんはそこまで執着されてるのかな。


 母さんそっくりな私とルカで堂々と社交界に打ち出て真相を探るべき?


 無しだわ。

 せっかくゲームの世界から逃亡したのにね。



 ・・・あれ?母さんがヒロインか悪役令嬢で荒地に追放エンド的な可能性ない?


 うーん!そのゲームの記憶はないから違うと思いたい。


 違うよね?





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