第9話

 家族勢揃いと言いたいところだけどベン兄さんが帰ってこない。ジャクリーンと別れるにしても色々話してこないといけないだろうしきっと遅くなるだろう。


 ハンナがたくさんの豪華料理とはいかないまでもでも心尽くしの我が家の中ではちょっとしたお祝いの日の食卓に整えてくれた。


 メインはカモ。多分兄さんが狩って来たんだと思う。全員に行き渡るだけの量を用意してくれてる。狩の腕が上がったんだろうな。


「恵みに感謝を」

「「「「「「恵みに感謝を」」」」」」


 父の言葉で神と精霊と大地に祈りを捧げ食事を始める。


 ネルとファナが嬉しそう。お土産の衣装もバッチリ着こなしてくれてる。

 その様子を父さんや母さんが嬉しそうに見てる。


「このスープのお野菜、私が収穫したんだよ」


 ファナがスープにスプーンを入れて人参や玉ねぎ、じゃがいもを採ったと説明してくれる。


「最近二人とも畑を手伝ってくれてね」

「羊のお世話もするよ!!」


 お手伝いができるようになったのが嬉しいらしい。少し会えない間に二人とも成長が早いなぁ。

 

 以前より畑も広くなって、家畜も増えて。アマレットさんの持参金とご実家からの援助でだいぶ領地経営も安定して来てるみたい。

 有り難いことだ。


 まぁ人口むっちゃ少ないんだけどね。

 うちの家族と少ない領民が飢えずにちょっと蓄えが持てる暮らしを維持できたら上々。

 それくらい不毛な土地だったんだよ。


 しっかり食事を摂って王都での話をファナたちに聞かれるままに話して子供たちは寝かしつけ。アマレットさんが気を利かせてくれて二人と下がってくれた。


 

「さて、リィン、ルカ。色々聞きたいことがあるんだが、まずは繰り上げてまで卒業したのに士官するわけでも研究職に付くわけでもなさそうだがどうしてだい?」


 父さんが聞くのは当たり前だろう。

 実際、士官の勧誘はあったし。

 後継候補でも婚約が決まってる訳でもないなら学生でいる期間があった方が先への繋ぎにはなる。


 あくまでも先への目標ががなければね。


 私たちは冒険者として生きていきたいし、貴族の柵の中で生きる気はない。


 ルカは私に付き合いの感も否めないけど、所詮は三男で貴族として生きるなら婿養子に入るか騎子爵を目指すか。

 

「繰り上げをしたのは学園で学びたいことがないから。そして早く自活したいから」


 ルカがスパーンと言い放つ。

 オブラートに包んだり、遠回しは好まない男ルカなのだ。


「自活?」


 兄さんが聞いてくる。


「そう、僕たちはいずれ家を出る身だから、結婚や士官より市井に出る方を選んだ」

「選んだって貴方・・・」


 母さんが戸惑った様子でいる。


「貴族に生まれて家のための婚姻を結ばないのは良くないかもしれないけど、うちは政略とか必要がない家だし、下手に付き合うと相手方に嫌がらせが波及しそうだと思えば貴族籍から抜ける方が良いと判断した。だから父さん、俺たちを除籍してくれないか?」


 ルカがサクッと結論を告げてしまう。もっと先に伝えることあったでしょ!?


 父さんも母さんも唖然としてる。


「あなたたちはまだ16才なのよ?籍を抜くだなんて・・・」


 母さんがどんどん青ざめてくのが申し訳ないけど、私たちはもうずっと考えて結論を出したから譲れない。


「私たちはもう結婚も出来る年齢だよ?だからまたあのオッサンが無茶を言い出す前にマートム家から外れたい」


「・・・!!」


「逆に平民となったらお前は貴族に逆らえなくなるぞ?」


 そこは理解しているけど、私たちは冒険者。権力に屈しなくていい。


「父さん、報告が遅くなったけど俺たちは半年前に冒険者としてCランクになったんだ」


「C!?」


 驚くのも無理はない。

 

 貴族同等に扱われるDランクからは審査も試験も厳しく、強いだけならEランクで止まってしまう。


 Cランクというのはこの国の冒険者の中では結構な実力者扱いだ。この国ではDランクが多い。下手に権力と並べるもんだからランクが上げにくくて他所の国に移ってしまう事も多くある。


 冒険者ギルドは世界統一基準を持っているけど、この国では貴族階級の介入が多かった名残で権力に屈しないで済むようにシステムが独特なの。

 時の権力者たちのせいで、この国は冒険者が育ちにくく、いざという時は他国に協力を求めなくてはならないという悪循環に陥っている。

 

 そのシステムを利用して私たちは自由を確保しようと目論んでいる。



 目立たないようにしようって言っても最低限、自分たちの立場を守り、安寧を確保するために動いて来た結果が今なワケ。


 多少ズレちゃった気もするけど。


「お前たちが何かやってるとは思っていたけど、冒険者とは・・・」

「なんでそんな危ないこと・・・」


 本当のことを言うとまた母さんが落ち込むし、父さんも責任を感じちゃうだろうから、私たちはあえて自由になりたいと言う。


「私たちはこことお祖父さまの領地の狭間で暮らそうと思ってる」


 本当は国を出る方が楽なんだけど、家族と縁を切りたい訳じゃないし、出るとしてもネルとファナが成人してからにしたい。


「家を出るのか?」

「兄さんも結婚したし、元々成人したら出る予定だったんだから出るべきだと思ってる」


 うちは離れはボロボロの物置になってて住めないし、正直この町のギルドは小さすぎて拠点には出来ない。


 父さんはムスっと黙り込んでしまった。


「お前たちが小さな頃からギルドに出入りしていたのは知っていたがまさかCランクになるとはなぁ」


 ジョン兄さんがぼやいたのを聞いて驚く。


「お前たちは隠していたつもりだろうが流石に行動力がおかしかったんだよ」


 まぁ確かに。

 でもみんなのんびりおおらかだからあまり私たちが自由に動き回ってても気にしてないと思ってたよ。







 


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