第二十話:セーラー服と直動式ボルトアクションライフル
「うおおおおおォッ!!」
鬼気迫る表情で突っ込んできた舞に、男は地上から冷静に白刃を振るい、雷撃を放った。
闇夜に閃光が走り、大気を揺るがす轟音が鳴り響く。少女は左腕を素早く顔に近づけると、顎でス魔ートウォッチに
「ム……これは……」
「水……?」
一般的に「水は電気をよく通す」と思われているが、真水は絶縁体である。ただし、通常の水には様々な物質が溶けて混ざっているため、海や川では当然感電する。塩水は電気を通すが、砂糖水は通さない……という実験を学校でやったことのある人もいるかもしれない。水タイプは電気タイプに弱い……というのは、まぁ、ゲームのやりすぎだろう。
ホテルにあった真水や調味料を使い、舞たちは事前に電撃対策をして来たのだった。もちろん、舞の発案ではない。武雄や、
「おおおおおッ!!」
突きの構えで『村正』を正面に構える。矢のような一撃が
「終わりだ」
「うぉッ……!?」
空振りした舞は、そのまま頭から地面に突っ込んで行った。ガラ空きの背中に『雷切』を突き立てようとして……
二刀の青髪少女・東禅寺花凛が蒐集家のすぐ背後にいた。
二本の『正宗』は、すでに射程距離に入っていた。が、既の所で軌道を躱され、磨かれた刃は分厚い鎧に阻まれてしまう。鈍い音と共に、重たい振動が花凛の両手に伝う。蒐集家は、宙に身を浮かせつつも、あまりに非凡な身のこなしだった。普通なら、ここで首を刎ねられていても可笑しくはない。
「避けるか……!」
狙いは首だった。少し急所にこだわり過ぎたか。その動きに驚嘆しつつ、花凛が悔しそうに顔を歪ませた。
「お前は……東禅寺花凛……」
能面の男もまた、花凛の存在に少し驚いたように声色を変えた。快足を飛ばし、離れた場所で態勢を立て直す。それから男は、今一度空を見上げた。今日は良く星の降る夜だ。舞に続いて、次から次へと捕らえられていた参加者が穴から降ってきた。
「これは……」
信頼できる仲間に背中を預ける。
誰かが蒐集家に後ろを取られたら、さらにその後ろから攻撃する。
「散れ! 出来るだけ
隻眼の少女は軽やかに地面へと着地した。『正宗』を構え直しながら、素早く皆に号令を出す。その足元で、舞が鼻を
「クソが!!」
舞が飛び起きた時、
この時、彼の思考としてはつまり……散り散りになった参加者を各個撃破して行くには、靴の能力を使い過ぎる。不意打ちは相手に悟られないからこそ意味があり、こうも身構えられた状態ではやりにくい。かと言って無作為に『雷霆』を放てば、また水の
そこで彼は、瓦礫の山に向かった。瓦礫の山に向けて、『雷切』を構え、
「なんだ……?」
参加者にどよめきが走る中、二、三度続けて雷撃を放った。
「ひぃ……!?」
闇夜が一瞬明るくなる。迸る白い閃光が瓦礫に直撃した。『電力』を手に入れた『武器』の残骸が、ゆっくりと鎌首をもたげる。それは、先ほどの武装観音ほどの大きさではなかったが、軽く信号機を超える程度の背丈はあった。爆破された『武器』が再び集まり、それぞれ
「おいおいおいおいおい……!」
「そんなの有りか!?」
軋みを上げる三匹の下で、
「来るぞ!!」
「逃げろぉ!!」
地鳴りのような咆哮と共に、鋼鉄の三匹が、
この時、舞の後ろには東禅寺花凛、さらにその弟・飛鳥がいた。狙いはもちろん、飛鳥だった。敵の一番の弱みを突く、やられたくないことをやるのが
「うわぁッ!?」
「く……!」
突如目の前にワープしてきた大男に、飛鳥が悲鳴を上げる。だが、
「わん!」
その反対側からは、愛犬のタロも飛びかかってきた。攻撃をもらう直前、再び煙のように姿を消した蒐集家は、少し距離を置いて後ろに下がった。
「うらぁッ!」
それを見て、舞が『村正』を投げつける。『村正』はすぐに男の手前で失速し、地面に突き刺さった。
いつぞやの、花凛に使ったのと同じ戦法である。
得物に相手の注意を引きつけ、敵の動きを縛る。鍔の部分に死神の腕時計が巻きつけてあり、中に重りを仕込んであった。
だが男は『村正』には目もくれず、またもや煙と化し、今度は手薄になった舞の真横に出現した。
「ッと……!?」
舞は脇差を抜き、かろうじて初太刀を受けた。痺れるような痛みが左手を揺らす。二の太刀、三の太刀が容赦無く舞の体を真っ二つにせんと襲い、彼女は転げるようにして前方に逃げた。慌てて花凛が『正宗』で応戦する。
状況は劣勢だった。
どうやら
「わん!」
初めに、嗅覚に優れる芝犬のタロが一番に気がついた。
「……上だ!」
悲鳴に近い声で、飛鳥が目を見開き、上空を指差した。星空の下で、黒漆の鎧がてらてらと輝いていた。舞たちの頭上から、
「ちっ……!?」
三人の視線をたっぷり上向きに引きつけて、蒐集家は、ガラ空きになった舞の胸元に
「ぐあ……ッ!?」
刀は容易く肉を喰い破り、内臓を抉り、早々に骨まで到達した。血飛沫と共に、舞の背中から切っ先が飛び出して来る。串刺しになった舞は、激痛に顔を歪め、
「……今だ!」
絶叫した。
舞は串刺しにされたまま、左腕で男の背中をしかと抱きしめた。
「相打ち覚悟……か」
「終わりだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます