一章33話 分御霊。
「さて、改めてステータスを確認してみたが……弱いな。『分御霊』である身で多くを望むのも贅沢なんだろうけど、運以外は絶望的だね」
冒険者としての指標の一つとして、一つ以上のステータスがC以上、かつ全ステータスの平均がD以上というのがある。
その中で俺は、Luck値以外がオールF。しかもFの中でも最小値なので、一般的な冒険者の能力より遥かに劣るという結果となる。
ふむ。正直言って、そこらの村人の方がステータスが高いと思う。
レアスキルとコモンスキルを上手く利用すればそれなりには立ちまわれそうではあるが、正直不安しかない。
コモンスキルは言わば熟練度のようなものが大半なのだが、いくら技術を磨こうとこの能力値では、単純に能力の高いやつに及ばないだろう。
「それにしても『
正直言ってヒトが魔物より上位という評価には少々疑問が残るが、個体数の多さと知能指数の高さという観点からの評価なのだろうか。
現代日本同様にこの世界もヒト族の国家群が幅を利かせているので、生態系として上位という側面では間違いではない。
ともあれ
「さて、天職も一通り確認したし、唯一の希望かつ面白そうなレアスキルである『良成長☆5』の話をしようか」
『良成長』
レベルやステータスの成長に上限が無く、無限の可能性を秘めているレアスキル。レベルが上がるたびにHP、MPなら100、他のステータスは10上がる選択ボーナスがあり、その数値を割り振ることで徐々に強化することが出来る。
恐らくだが、これは『二重ノ御霊』の恩寵だろう。分御霊は言わば
単純計算で五段階ほどステータスも下がっているし、最悪オールGすらあり得たのだから、恐らくだがそれに対する補償なのだろう。
成長限界が割と明確に定められているアヴィスフィアにおいて、”壊れスキル”に分類されるであろうプレミア級のレアスキルだが、生かすも殺すもまさに自分次第と言われているような気さえするリスキーさである。
これがゲームであればセーブも可能かもしれないが、死んだら終わりのこの世界で能力を五段階も下げられたらたまったものではない。
特に生死に直結する体力がF—―つまりHP100しかないのは致命的で、下手すれば生まれたばかりの赤ちゃんの方が数値が高いのだ。
ちなみにステータスカードに記載されている能力値は言わば”見込み”なので、極論だが、HP換算だとA(1)~A(9999)までの振り幅がある。
俺の場合で言えば、F(1)~F(200)までの能力を持つ成人男性という情報が客観的に見たシュウ君の振り幅ということになる。
「冒険者登録で少々揉めそうだけど、剣術と小盾術がLv10だということを利用すれば問題ないかな? いや、一代限りで田舎領の騎士爵を叙爵していた亡父を持つ息子という設定の方が確実か」
そうすれば『礼儀作法』を初めとしたコモンスキルの説明も可能だし、元とは言え貴族を相手にそこまで強気に出てくる阿呆も居ないだろう。
何を貴族の坊ちゃんがと陰口は言われるかも知れないが、遠巻きに見ている分には毒にも薬にもならないからね。
……さて、そうこうしているうちにギルド『夜烏』に着いたな。
ここは国営かつギルド長も顔見知りだからまず間違いないし、シュウ君として直接会ったことは無いとはいえその人柄は知っているから、そういった意味でのアドバンテージは大きいのではなかろうか。
「失礼お嬢さん。冒険者登録をしたいのだが、ここで宜しいかな?」
「少々お待ちください。……では、こちらを確認していただいた後、こちらの誓約書にサインをお願いします。朗読は必要ですか?」
「こう見えて田舎の騎士領出身でね、読み書き一通り出来るのさ」
「御貴族様でしたか。すいません、これは大変な失礼を致しました」
「ははっ。そうは言っても父が築いた一代限りの騎士爵でね、没したと同時に廃嫡されたので、こうしてはるばる皇都まで足を伸ばしたのさ」
「そうでしたか。それは大変なご苦労をされたのですね」
「ありがとう、君は優しいね。だが本当の苦労はこれからさ。何せこの不肖な身一つで生きていかなければならないからね」
「確かに冒険者は大変ですが、やりがいのあるお仕事だと思いますよ」
「うむ。まずは薬草でも採取しつつ、堅実に歩を進めようかとは思っているよ。……何せ私はステータスが、少々尖がり過ぎているのでね」
アイヴィスとして来たときは見かけなかったから、この
知的で落ち着いているうえに物腰も柔らかいときたら、きっともう男が放っておかないね。仕事とはいえ、会話をしてくれる今に感謝でもしておこうか。
それに今は冒険者としての地位を確立する方が優先だ。素敵なお姉さんとの会話も大事だけど、まずは薬草採取しつつ小物狩りしてレベリングでもしたいところだな。
アイヴィスのときは生存効率重視で最短距離を駆け抜けてきたし、ここらで初心に帰るつもりで一から冒険者として頑張っていこうかな。
「はい。こちらが『ステータスカード』になります。身分証明書としてもご利用が可能ですので、無くさないようにお気を付けくださいね」
「ありがとう。早速だが、これから出かけてくるとしよう」
「いってらっしゃいませ。ご無事を祈っております」
「うむ。実に心地のよい接客であった。これからも励むとよいぞ」
流石に不遜すぎたか? でも貴族の坊ちゃんってこんな感じだったよな? むしろこれでも柔らかい方だと思うんだけど。
……うん。なんか強面の冒険者の兄ちゃんがこっち睨んでるし、多分合ってるな。ていうかやり過ぎて逆にこれ、目を付けられちゃってない?
ま、まぁ気のせいだろう。わざわざアラサーのおっさんに絡むほど、冒険者も暇じゃないだろうからね。
あれ? なんかこっちに歩いて来てない? ずんずん肩を怒らせて身体を大きく見せようとするこの感じ、前世の地元のおっちゃん達に酷似しててちょっとウルっときちゃいそうなんだけど?
懐かしいなぁ。普段はおっかない嫁さんの尻に敷かれている故に、そういう方向性でしか自己をアピールする手段が無かったのだと思う。
「おいおい。元貴族様だかなんだか知らんが、少しばかり冒険者を舐めちゃぁいないか?」
「む? 誰だ君は。私は君のような不遜な輩など存じ上げなんだが?」
「ふ、ふそん? よ、よく分からんこと宣いやがって! 難しい言葉で誤魔化そうとしてんじゃねーぞっ!」
「その様な意図は無かったのだが、不快と感じたのならば謝罪しよう。だが、こう見えて忙しい身の上でな。さらばだ、青年よ」
「—―なっ⁉ 青年って……お、おい待ちやがれこの野郎っ!」
「ま、まぁまぁ落ち着きなよノアール。どう考えても絡んだ君が悪いよ」
「ちくしょう放せっ! 忘れたのかトリトっ! 過酷な冒険者がお高く留まった貴族様なんぞに務まるわきゃねーだろうがよっっ!」
おおっ。この青年は、やたら元気が有り余ってるな。文字通り、貴族に親でも殺されたのだろうか?
言い方は悪いが、このご時世そのような悲劇は路傍の石ころのように転がっており、同情はするが有体に言って”よくあること”なのだ。
そんな”よくあること”で同じ貴族だからなどと難癖を付けられても、正直言って困ってしまう。
そもそも『
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