一章31話 シュウ君。

「優香さんっ! 私、アイヴィスの愛人第一号になって下さいっっ!」

「あ、あらあらぁ? 突然呼び出されたと思ったら土下座なんて、お姉さん困っちゃうわぁ」

「す、すいませんっ! 此方から出向くべきなのに、配慮が足りませんでした! 裸になって詫びますので、少々お待ちをっっ!」

「—―ちょ、ちょっとぉアイちゃんっ⁉ な、なんで服を脱いでるのぉ? ……あ、でもきちんと畳めるのはお利口さんだわぁ~」

「では改めて――優香さんっ! 私、アイヴィスの愛人第一号になって下さいっっ!」

「え、えぇ~? 急に裸になったと思ったら、また土下座するのぉ~? お姉さん、ちょっとイケない気分になっちゃいそうなんだけどぉ~」

「—―是非ともなって下さいっ! これが私に出来る謝罪とおねだりの極致ですのでっっ!」

「も、もう~。わ、分かったからぁ~! お姉さん愛人でも何でもなってあげるから、ちゃんと服を着てってばぁアイちゃん~っ!」

「ありがとうございます優香さんっ! —―いや、優香お姉さまっっ!」

「—―ちょっ⁉ 裸で抱き着いちゃ、メッ! だってばぁ~! い、色んな柔らかいのが当たって、お姉さん本当に駄目になっちゃうからぁ~!」


 ふむ。そうだと思ってはいたが、優香さんって押しに凄く弱いな。


 分かっていて実行している俺って本当に最低だと自分でも思うけど、”転移者”である優香さんを手放すなんて選択肢にないからね。どれだけ無様であろうと、女にはやらねばならぬときがあるのだから。


 それに前回紫苑ちゃんに縋り付いて懇願したときに気が付いたんだけど、優香さんってば情けなく愚図る私に対して抱く好感度の上昇値が、ラヴィニスとシュアの肩に並ぶほどには高いんだよね。


 おそらく手のかかるダメな子ほど可愛く感じてしまう少々残念な性癖を持っておられるうえで、お姉さん故に頼られるのも好きなんだと思う。


 事実として今もどんどん好感度が上昇しているし、なんならば頬が上気しているので性的な興奮も覚えていることだろう。


 ……ふむ。蒼空ちゃんも割と性癖終わってるなとは思っていたけど、実は優香さんも中々に良い勝負をしていたんだねぇ。


 弱点があるならそれを徹底的に攻めることがあらゆる戦術の基本なので、効果があるうちは擦り続けさせて頂く所存で御座います。はい。


「あ~あ。優姉ったら完全にアイちゃん様の手の平に踊らされちゃってさ~! 私のこと言えないじゃんか。……ねぇ、紫苑?」

「……流石アイヴィスさん。優香姉さんの弱点を見つけるや否や、徹底的に突き続けていますね」

「アイヴィス様に隙を見せてはいけませんよ? 『好感可視』というスキルも非常に厄介ですが、そのうえで豪運かつ強欲で、皇女様ですから」

「ラヴィニスの言う通り、アイヴィス様は狙った獲物を逃がしません。好感を持てる行動を徹底的に擦り、気が付けば骨抜きにされていますので」

「何ていうか、ラヴィニス様とシュアさんが言うと説得力が違うよね。あーしも気を付けないと文字通り、丸裸にされちゃうかも知れないなぁ~」

「……蒼空姉さんは、既に丸裸にされていると思いますが?」

「そうですね。蒼空はもう、諦めて下さい。アイヴィス様だけでなく、私や紫苑様もいるので、既に詰んでいますから」

「……うっ。あ、あーしとしては二人とも、アイちゃんみたいに少しだけでも手心を加えて貰えると有り難いなんて思ってる次第だしぃ?」

「「却下します」」

「ふぇぇ……」

「ふむ。そういう意味では、紫苑様が吉原家最後の関門となりますね。既に毒牙に刺されている状態ではあると思いますが、ご検討を祈ります」

「……ありがとうございますシュアさん。私としても二人が一週間ほどで墜とされてしまったので、最低でも一か月は頑張りたいと思っています」


 なんか皆して言いたい放題言ってるな。確かに前世であれば大問題かもしれないけど、今世は許されるからセーフだしっ!


 仮に許されなくても女帝が内定している私にとって、法などいくらでも変えられる自己ルールの延長に過ぎないからどうとでもなるからね?


 いや、流石にちゃんと考えるよ? そのうえで必要ならば改定をするってだけで、定められている法には忠実な姿勢を崩すつもり無いからさ。


 私は女帝であると同時に皇族かつ貴族なので、民を守り導く立場だ。


 その身の上で皆の指針になれないなど言語同断っ! 女帝という歯車としての役割はきちんと果たすし、全力でルールは守る所存であるっ!


 そう。あくまでも必要となった変えるのだ。それも議論で、穏便に。


 まぁ今いる貴族の九割九分は私の味方なので、大体の無茶は通ってしまうというまさにマッチポンプのようなシステムにはなっているけどね。


「ねぇお姉さま。迷惑ついでにひとつ提案があるのだけど、可愛い愛人のためだと思って聞いてくれないかなぁ~? ふぅ~」

「ふぁぁっ⁉ ちょ、ちょっとアイちゃん耳は止めてぇ~っ⁉ んぁぁっ⁉ き、聞くっ! お姉さんちゃんと聞くからぁ~っ!」

「—―ほんとっ⁉ 嬉しいっ! お姉さまありがとっ! ちゅっ♡」

「はぁぅっ⁉ あ、アイちゃん~っ? 首元にちゅーなんてしたらぁ、らめなんだからねぇ~っ!」

「……あのね、お姉さまがドロップした『二重ノ御霊』を譲って欲しいのっ! その逸品で”私の前世シュウ君”を創ってお姉さまの旦那様にすれば正妻として娶れるし、愛人関係も継続できるからさっっ!」

「え、えぇ~? 色々お世話になってるからあげるのは全然良いんだけどぉ~、わざわざそんな設定にする必要あるかなぁ~?」

「あるある。大ありだよっ! 浮気性で放浪癖のある旦那に不満はあるものの甘やかしてしまうダメンズ好きの優香さんが、自身も駄目だと思っているのに好きだと迫ってくる可愛い年下の女の子と愛人関係となってしまい、それに嫉妬したダメンズと女の子から強引に迫られて結局三人でするというドロドロで背徳的なサクセスストーリーが今、私の脳で今完成されているのだからっっ!」

「濁りのない綺麗な目でなんてことを言うのかなぁアイちゃんは~?」

「え、でも優香さんこういうの好きだよね? 聞かなくても分かるけど」

「こ、好みの問題じゃ無くてぇ~。そ、そう。常識としてぇ? やっぱりイケないことだとお姉さんは思うのぉ~」

「貴族や豪商が平民の人妻をお手付きにすることが割とよくあるこの世界のこの時代限定で言うならば、余裕で常識の範囲内かと。むしろ他人に迷惑を掛けない冴えた手段だし、より効率的に優香さんと仲良くなれるとも思うんだけど、違ったかな?」

「ち、ちちち、違わないけどぉ~! お姉さんの大好きなシチュだけどぉ、絶対そんなの駄目なんだからぁ~!」


 他人の交際相手や結婚相手を対象としない、純粋にプレイとしてのNTRを楽しめる最高の案だと思ったのだけど、駄目だったかな?


 そのうえで俺としても徐々にレベリングをして強くなっていく少年漫画のようなサクセスストーリーも同時進行出来るし、まさに一石二鳥だと思う。


 まぁ確かにこれではあまりにも優香さんのことを考えていない身勝手かつ我儘な行動として客観的には映るけど、同時に彼女の性癖も満たせているので実はこう見えてWINWINな取引に昇華出来たのではないだろうか。


 何度でも言うが、この間にも優香さんの好感度は上昇しているし、興奮しているのか、徐々に艶のある色っぽい姿に変わっていっているのだ。


 閑話休題。色々あって、以下のシュウ君が出来上がりましたとさ。



烏丸カラスマ朱羽シュウ】 Age27 男性

 『二重ノ御霊』により生成されたアイヴィスの前世の姿。ユニークスキルを持たない代わりに彼女が持つ全ての〔コモンスキル〕と〔従魔スキル〕の一部が使用可能。〔コモンスキル〕は互いに互換性があり共有されるが、分御霊であるシュウのみ〔従魔スキル〕にコスト制限(☆)がある。


〔種族〕

 ヒト族 異世界人


〔身長〕

 175㎝

〔体重〕

 68㎏


〔天職〕

魔物使いテイマーLv1/∞』

〔ジョブスキル〕

調教テイムLv1』『習得ラーニングLv1』

〔従魔スキル〕 コスト☆10/10

『再生☆5』『通販☆2』『感覚共有☆3』


〔レアスキル〕

『良成長☆5』『転性☆3』『促進制御☆2』『好感度☆3』

〔コモンスキル〕

『剣術Lv10』『小楯術Lv10』『演奏Lv10』『歌唱Lv10』『舞踊Lv10』『礼儀作法Lv10』『狩猟Lv5』『解体Lv3』『料理Lv5』『醸造Lv2』『大工Lv1』『土木Lv1』『採掘Lv2』『採取Lv2』『釣りLv2』


〔魔法〕

『四属性魔法・初級』


〔ステータス〕

 HP: F(100)

 MP: F(100)

 STR: F(10)

 VIT: F(10)

 INT: F(10)

 RES: F(10)

 DEX: F(10)

 AGI: F(10)

 LUK: A(777)


※『良成長』

 レベルやステータスの成長に上限が無く、無限の可能性を秘めているレアスキル。レベルが上がるたびにHP、MPなら100、他のステータスは10上がる選択ボーナスがあり、その数値を割り振ることで徐々に強化することが出来る。

※『転性』

 文字通り性別を転換するスキル。『雌雄瞬転』と似てはいるが、性別と容姿以外の身長体重などの質量に関する数値は変動せず、一部のみ変化させるというような細やかな調整も出来ない。

※『促進制御』

 老廃物を魔力に変換するレアスキル。排泄などの生理現象が不要となるが、自身の保有魔力を超えた場合はその限りではない。

※『好感度』

 対象の自分への好感や反感を共に十段階(+10~-10)で可視化できるスキル。好感(+)は赤いハート、反感(-)は黒いハートで表されるため実に分かりやすい。

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