一章28話 レベルカンスト。

「……あの、アイヴィスさん? んっ。レベルを上げて頂いている身でこのようなことは言いたくないのですが……くぅ。そ、そろそろいい加減にしてくれません……かっ♡」

「ご、ごめんってば紫苑ちゃん。でもこれ全部、わざとじゃないのぉ!」

「……あうぅ。は、恥ずかしいです。アイヴィスさんの、えっちぃ」

「くぅぅ。このダンジョンは本当に……どうしたらこうなるんだ?」

「……全てを諦めて、身を任せないで下さいアイヴィスさ—―こ、こら! 変なところばかり触らないで下さい! もう、本当に怒りますよっ!」

「エロゲでよくいるアレなスライムに衣服を溶かされた紫苑が逃げた先で落とし罠に掛かって落下させまいと駆け寄ったアイちゃん様のお顔の上にお尻から落下したり、逆にアイちゃん様が邪魔しないようにと離れたところにレアな魔物が現れてこれ以上迷惑を掛けないようにと慌てて向かった紫苑が小石に躓いてそのままアイちゃん様にハグ&キッスをかましてる間に優姉がちゃっかりワンショットでキルしちゃったり、今みたいになんやかんやあったアイちゃん様がもういいやとばかりに紫苑のおっぱいを直接揉みしだいたりなんかしちゃってる間にあーしと優姉のレベルがカンストしちゃったんだけど……これってちゃんと、既定路線であってる?」


 俺と紫苑ちゃんの現在までの進行度を、分かりやすくかつ簡潔に一文で纏めてくれてありがとう蒼空ちゃん。


 ついでにこのローパーっぽい魔物の触手から私と紫苑ちゃんを救ってなんかくれたらアイヴィスさん、何でも買って上げちゃうかもなぁ?


 流石に世界の半分は無理でも、この国ならちょっとくらい分けられるからさ? え、要らないって? そんなこと言わないで貰ってよっ!


 役得ではあるけども、流石の紫苑ちゃんの額にも青筋が立ってるの! それはもうまさに私が捏ね繰り回してるものほどには立っちゃってるの!


「あ、あらぁ? ごめんなさいねぇ。私もぉ、レベリング終わったから”自作のアイちゃん人形”相手にスキル強化を目指して銃の練習してたんだけどぉ、何故か急にその子が銃弾に飛び込んで来ちゃったのよねぇ~」

「……あれ? なんか鈴姉が倒した子、キラキラしたの落としてない?」

「おぉっ! これは『二重ノ御霊ふたえのみたま』じゃないですか! 優香ったら凄いです! このドロップ品はとても貴重ですよっ!」

「その品は確か、”己の分け御霊を創り上げる”という希少アイテムでしたか。レジェンド級の逸品を引くとは、優香さんはとても運が良いですね」

「え、えぇ~っ⁉ それって若年の私が頓挫した”シュウ君として異世界に来ちゃった件セカンドライフ”の必須アイテムじゃないかっ! 何でLuck値がカンストしてる私が引けないのに、ぽっとでの優香さんがサラッと引けちゃうのさぁぁぁ~っ!」

「……アイヴィス様。私とシュアがこれほどまでに尽くしているというのに、私たちに内緒でその御手を広げる気だったのですか?」

「それとも逃げる気と? うちらばそん気にしゃしぇておいて今更どこしゃぃ逃げようちゅうんか? じぇったいに逃がしゃんけんね?」

「ち、違うってば二人ともっ! 私は二人に隠し事なんかしてないし、感謝もしてるからねっ! それに逃げたりなんて、絶対にしないからっ!」

「……あの、アイヴィスさん。私の薄い胸を揉みしだきながら何を言っても……んっ。せ、説得力の欠片も無いと思うのですが、それは……?」


 あぁ、ごめんね紫苑ちゃん。思考と行動が完全に分離して、各々がそれぞれ勝手なことをしちゃってたね。もしかしたら私って、意外と器用なのかも知れないね?


 ……こほん。まぁそれは置いておくとして、蒼空ちゃんも優香さんも、少しばかりカンストが早すぎではありませんか?


 特に蒼空ちゃんは二人よりも最大レベルが高いはずなのに、やたらと魔素量経験値の多い魔物ばかりが彼女中心に群れを成していたせいで、まさかのカンスト一番乗りだったしさぁ。


 それにギルドカードも見せて貰ったけど……え、何あれ? 二人して全ステータス上限が、二段階も上昇してたんですけどっ⁉


 ジョブ関連のスキルまでもがLv10まで上がっていたし、流石にやりすぎじゃない? ラヴちゃんとシュアちゃんってば、二人に一体何しちゃったの? ナニだけじゃないでしょ、絶対っ!



吉原よしはら 優香ゆうか】 Age21 女性


〔種族〕

 ヒト族 異世界人


〔天職〕

傀儡子師パペッティアLv36/36』

〔ジョブスキル〕

『傀儡生成Lv10』 『傀儡操作Lv10』

〔従魔スキル〕 コスト☆0/10


〔ユニークスキル〕

『完全偶像』

〔レアスキル〕

『模倣☆3』

〔コモンスキル〕

『操糸術Lv5』 『腹話術Lv3』 『銃術Lv1』


〔ステータス〕

 HP: SS

 MP: C

 STR: B

 VIT: SS

 INT: D

 RES: C

 DEX: SS

 AGI: A

 LUK: A



【吉原 蒼空あおい】 Age18 女性


〔種族〕

 ヒト族 異世界人


〔天職〕

『行商人Lv52/52』

〔ジョブスキル〕

『解析Lv10』 『鑑定Lv10』

〔従魔スキル〕 コスト☆0/10


〔ユニークスキル〕

『異界通販』

〔レアスキル〕

『平均相場☆3』

〔コモンスキル〕

『弓術Lv5』 『算術Lv3』


〔ステータス〕

 HP: A

 MP: A

 STR: A

 VIT: A

 INT: A

 RES: A

 DEX: A

 AGI: A

 LUK: A



 後学のために何度も皇国にある大図書館でスキルやステータス関連の書物を読み漁ってきた私だから言えるけど、レベル上昇で何かしらのステータスを一段階上げることって、言うほど簡単なことじゃないからね?


 ”G~Sの規定数値”というのは言わば”ヒトの才能の壁の具現化”なので、レベルアップしたとしてもGならG、SならSといった定められた数値内での変動が大前提で、元の能力の数値が限りなく上限寄りだったか、恒久的な能力上昇効果のあるレアアイテムの使用など例外でない限り、到底ありえないはずなのである。


 要するに一段階上昇ならまだしも二段階、それもまさかの”全ステータス強化”なんて、まさにチート級の成長率だと言っても過言ではないのだ。


 流石は”転移者”と言いたいところではあるのだが、ここで少々—―いや、かな~りおかしな点に気が付いてしまったかも知れない。


 いや、正直いって薄々気が付いては居たのだけど、まさかそんなはずはないと信じたくなかったというか何というか。


 まぁなんだ。データをみれば一目瞭然なので、うん。諦めましょうか。



【吉原 紫苑しおん】 Age16 女性


〔種族〕

 ヒト族 異世界人


〔天職〕

奇術師マジシャンLv36/42』

〔ジョブスキル〕

『手品Lv1』 『隠者Lv5』


〔ユニークスキル〕

『黒子繊手』

〔レアスキル〕

『潜影☆4』

〔コモンスキル〕

『短剣術Lv3』 『話術Lv5』


〔魔法〕

『闇属性魔法・初級』


〔ステータス〕

 HP: E

 MP: A

 STR: F

 VIT: E

 INT: A

 RES: D

 DEX: A

 AGI: C

 LUK: C


 何を隠そう俺が戦闘補佐をしていた紫苑ちゃんだけが、”レベル”と”コモンスキル”以外の上昇が一切見られなかったのである。


 なんて、こったい。俺としても断じて認めたくは無いのだが、実害が出ている以上認めざる負えないだろう。


 要するにこのデータから導き出される真理とは、”俺には他者のレベル上げの手伝いをする才能が無い”ということだ。


 ……そう。次期女帝と持て囃され、奇抜と揶揄されながらも皇国の環境を徐々に整備して防衛能力の強化と衛生環境の改善に努めてきたけれど、その実たった一人の女の子のレベル上げもまともに出来ない愚鈍な皇女だったのである。


 それどころか安全マージンを十分に取ったはずなのに罠に掛かったり、紫苑ちゃんの攻撃の導線に位置したり、しまいには拘束されて身動きが取れなくなってしまうなど、正直言って足手まとい以外の何物でもない。


 せっかく『調教師(ヒト型)』という”天職”を女神さまから授かったというのに、そのヒト型の能力を向上させることが出来ないなんて、もしかして……存在価値が無かったりしませんか?


 不味い。自己評価がまた下がってきた。私は大丈夫、大丈夫。


 と、とりあえず、この中々に手放し難い感触に溺れることで、今この瞬間の自我を保つことにしよう。きっとそれこそが唯一の希望であり、最後の救済なのではないだろうか。

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