一章26話 付与効果。

「優香さんがミリタリー関連で、蒼空ちゃんはコスメ関連と来て、紫苑ちゃんは……何これ? 拷問道具?」

「……格闘ゲームのキャラクターの、コスプレ衣装です」

「え、もしかしてこのチェーン付きのトゲトゲした首輪とか猿轡も? それに流石にこのチェーンソーは……やりすぎじゃない?」

「……そちらは別のサバイバルゲームのキラーと呼ばれる鬼ごっこの鬼のような存在が持つアイデンティティなので、外せません」

「だとしても本物の必要性は無いのでは――ひぃ⁉ や、ごめんって! なにも私も否定しているわけじゃなくてだね?」

「……やっぱりアイヴィスさんは、とてもいい反応をしてくれますね」

「む。まぁ私としては、紫苑ちゃんが楽しそうならそれでいいのだけど」

「……買い物、凄く楽しい。アイヴィスさん、ありがとうございました。早速今夜にでも蒼空姉さんに着させて、撮影会でもしようかと思います」


 あ、やっぱりその衣装の大半って、蒼ちゃん用の服だったんだね? 紫苑ちゃんが着るには大きいものが余りにも多すぎる気がしたんだよね。


 中には用途不明品もちらほら見受けられるけど、全部拾ってつっこんでたらそれこそ藪蛇になりそうだから、涙を飲んでやめておくにしよう。


 しかしなんだ。いくらシュアちゃんが何でも買っていいと許可したとはいえ、まさか紫苑ちゃんまでもがこんなにも遠慮なく買い物を楽しんでくれるとは思わなかったな。


 俺としても色々と貰ったものが大きいので何らかの形で恩返しをしたいと思っていたし、下手に遠慮なんかされたくなかったんだよね。


 ……ふむ。これはおそらくだが、ユニちゃんのおかげに違いない。


 彼女が意図してやったのかは分からないけれど、現代日本における百億円相当の金銭を一括で支払う能力と余力が自身の主にはあるのだということを実に分かりやすく、かつ嫌味にならない塩梅で蒼空ちゃん達に分からせてくれたからな。


 いや、可愛らしく「ふんすっ」とドヤ顔をしてる以上、意図的なのは間違いないか。


 見た目こそ小学校高学年相当にしか見えないが、ふたを開けたら中身は海千山千の長命種なのだということを、まさに今思い出したよ。


 褒めて欲しそうにグリグリと頭を摺り寄せてくるのが愛おし過ぎて、またすぐにでもその事実を忘れ去ってしまいそうではあるけども。


「それで件の蒼空ちゃんは、マナポーション片手に何をそんなにまじまじと眺めているんだい? クーリングオフでもするの?」

「あーしの『鑑定』で、全ての商品をチェックしてるとこ。地球で買ったもの限定だけど、『付与効果』が付いているものが大半だから。その有効性とかも含めて個別にその詳細を今のうちに纏めておこうと思ってね~」

「『付与効果』? 何かしらのバフみたいなものが付いてるってこと?」

「バフに限らずデバフもあるかな? 例えばアイちゃん様が買ったこのゼロカロリーのコーラの効果なんだけど、飲んだら一定時間”性的興奮が高まる”っていう追加効果があるみたい」

「え、なにその”媚薬”みたいな効果……。大好きだったはずなのに、ちょっと飲むのが怖くなってきちゃったんだが」

「あははっ。まぁそんな感じで、ヒトによってバフにもなるしデバフにもなる商品もあるから、全部チェックして安全性を確認する必要があるってわけ」

「なるほどね……。たしかに商売を考えている以上そこは疎かには出来ないか」

「こっちの怪物の異名を持つ栄養ドリンクは”滋養強壮が高まる”効果があって、うわっ⁉ こっちの風邪薬の味がする缶ジュースなんて”目視した対象に対する感情値が上昇する”効果—―要するに”惚れ薬”じゃん! 流石にヤバすぎるってこんな効果ぁぁぁっ!」

「……どれもこれも主様が注文した商品ですが、もしかして――」

「—―そ、そんなわけないじゃん! え、私のせいじゃないよね? たまたまだよね? いくら私でも、そんなに年中発情してないからねっ⁉」

「ちなみにアイちゃんが買ったG19に”相手の武装を解除する”っていう『付与効果』が付いてるみたいだけどぉ、これってもしかして”服を強制的に脱がす"とか、そういうことなのかなぁ?」

「そ、そそそ、そんなわけないじゃんかっ! え、違うよね? 確かに全裸にすればたいていの対人戦は相手を無力化出来るだろうけども」


 え、何? もしかしてこの効果って、俺のせいだったりする?


 確かに”天職”然り”ユニークスキル”然り、そういった性愛に関連する要素が大きいという自覚はあるけれど、流石に買ったものまでは反映されないと思いたいのだが。


 そ、それにそもそも『異界通販』は蒼ちゃんのスキルなわけだし、俺のせいじゃなくね? そうだよ、蒼ちゃんがえっちなせいだって。


 いや待てよ? 中空に表示された半透明のUIのような画面でポチポチしたあと、最終的に決定して購入したのは……俺、だったよな?


 ということはもしかして、本当にそういうことだったりしちゃいます?


「……物は試しと言いますし、早速ゼロコーラを一本買ってみたのですが、蒼空姉さん?」

「あ、うん。それじゃ鑑定してみる……ね? ――あぁっ⁉ こ、効果が違う! 紫苑のコーラ、”最大MPの50%を回復する”だってさ!」

「では今度は私が買ってみましょうか。—―蒼空、確認して下さい」

「分かりました、ラヴィニス様! ……っ⁉ ラヴィニス様のコーラ、紫苑のものと効果がまるっきり同じですっ! ということはつまり――」

「—―えっ⁉ つまり私が買うと”付与効果”が変化しちゃうってこと?」 

「それも、ちょっとえっちな方向に変わっちゃうみたいねぇ」

「……アイヴィス様。ここからここまでの大人用玩具と各種マッサージ機類を個人用、第三者用、予備品含めて三つずつ購入しましょうか」

「—―は? え、シュアちゃんったら真面目な顔して、一体何を言っちゃってるのっ⁉ それにそんなことしたらただでさえそういう用途で用いる道具が、”付与効果”でさらに凶悪になっちゃうじゃんかっっ!」

「それ故に買うのですよ? アイヴィス様の天職が『調教師(ヒト型)』なのはもはや語るまでもないですが、職人にはそれ相応の道具というものが必要であると私は考えています」

「……なるほどね? 確かに効率を上げるためには道具の存在は欠かせないものだし、その品質も現代日本の技術で作られた最高峰のものであるべきかも知れないな?」

「その通りですアイヴィス様。むろん道具には試験運用が必須事項だと思いますので、私の方で優香を相手にテストプレイを実施しようかと」

「ふぇぇ? わ、私ぃ? シュアさんってばもう、えっちなんだからぁ」

「……不味いですね。このままでは数日どころか今日にも二人目が陥落してしまうかも知れません」


 あ、あれ? もしかしてシュアちゃんってば私を出汁にして、自身の欲求を満たそうとしてません?


 ま、まぁ良いか。蒼空ちゃん達三姉妹との関係値は出来るだけ深めておきたいし、誰も傷つかないならそれに越したことはないだろうからね。


 しかしなんだ。やっぱり関係を持った後の二人って性に貪欲というか、歯止めが利かなくなっているような気がするんだよなぁ。


 過程はどうあれ、ラヴィニスによって調教された蒼空ちゃんの純潔を俺が貰ったという客観的な事実が、困ったことに負けず嫌いなシュアちゃんの奉仕欲を刺激してしまったらしい。


 うーむ。ラヴィニスとシュアを墜とすのに五年程かかった身としては非常に複雑ではあるが、せっかくならば貰えるものは貰っておくとしようか。


 とは言え、ラヴィニスが蒼空ちゃんでシュアが優香さんとくれば当然の如く俺の担当は紫苑ちゃんになるのだが……。


「……そんな目で見ても、私は簡単には堕ちませんからね?」


 いや、無理じゃん。流石にこんなに警戒されてたら、墜とせるもんも墜とせんて。


 ていうか別に墜とす必要はないからな? 仲良くなれればそれでいいし! ……え? この臆病者って? し、失礼な! 慎重派なんだよ!


 ちなみに余談だが、俺がポチポチして買った例の品物は、想像をはるかに超えた逸品だったということをここに明記しておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る