一章25話 近代武器。
「え、凄い! 蒼空ちゃんの『異界通販』って、言ったことある世界ならどの国のものでも商売出来るのっ⁉」
「……はい。アインズ皇国に渡る際に利用したキャンプ用品や防寒対策グッズ、非常食などは日本で仕入れたのですが、護衛用に用意した”小型銃”などは海外でしか購入できませんので」
「……っ⁉ これってもしかして守護者の名を関する○○社の?」
「私実は銃にはちょっとうるさくてぇ、せっかく買うなら前から使ってみたかった9×19㎜のこの子が良かったのよねぇ」
「うわぁ、うわぁぁぁっ! 凄い! 本物の銃初めて見たよ!」
「高かったのにあーしらの護衛をしてくれたよっさんのパーティが強すぎて、結局使う機会なかったんだよね~」
「……はぁぁぁ。この手触りといい感触といい、モデルガンとは全然違う。実際の銃って結構重いもんなんだねぇ」
「せっかくだしあーしも撃ってみたかったなぁ……って、アイちゃん様ってば聞いてる?」
「聞いてる聞いてるっ! ね、蒼空ちゃん。試しに撃ってみてもい? いいでしょ? ね? ……ラヴちゃん、いくよ?」
「別に全然良いけど……って、アイちゃん様⁉ ヒト様に銃口を向けちゃだめだってばぁっ⁉」
うおっ⁉ 音うるさっ! それに結構反動も大きいな。ステータスのおかげか何とも無かったけど、これを女性が使うのか。
瞬間的な威力としては申し分ないけど、流石に八発だと心もとないな。護衛目的ならばともかく、魔物討伐なんかだと他の連射出来る銃の方が適正がある可能性が高いな。
こと対人においてもラヴちゃんのような魔力壁持ちには効果薄そうだし、シュアちゃんみたいな超人相手だとそもそも見てから回避余裕でしたって言われそうな気がするぜ。
とはいえ需要はあるだろう。比較的軽量でコンパクトだし、大半のヒト種に効果を認められそうな点は優秀だ。仮に鹵獲されたとて、この世界の文明レベルではオーパーツ過ぎて量産はまず無理だと判断して良い。
「ふむ。銃撃を受けるのは初めてですが、この程度ならば不意を突かれていくら撃たれたとしても、まず問題はありませんね」
「知ってた。なんなら巡航ミサイルとか撃たれても、多分ラヴちゃんなら平気だと思う」
「質量にも寄りますが、おそらく可能だと思われます。そのくらいできなければアイヴィス様をお守りするに足りませんので」
「……え。私ってば、そんな攻撃を受ける可能性まで想定されているほど危険人物なの? 確かに少々過激な手段も取ることはあるけども」
「未来は未知数です。あらゆる可能性にはあらゆる手段を用いて対処せねば、一番大事なものを失いかねませんからね」
「ラヴちゃんってば可愛すぎんかっ⁉ こんなに思ってもらえるなんて旦那冥利に尽きるというか、本当に有難うございます!」
「……なんか心配したあーしが物凄く馬鹿みたいなんですけど」
あぁ、なんだろう。ラヴちゃんの重い愛情が至極心地良い。
彼女と言いシュアちゃんと言い、何かと理由をつけて頑なに一緒の空間――正確に言えば、寝食どころか風呂やトイレに至るまで共に居たがるほどに肉厚で重厚な感情を向けられているというのに、俺ってば正直喜んじゃってるんだよね。
『性別瞬転』の副次効果である『促進制御』によって俺自身の排泄行動は確かに不要なのだけど、ラヴちゃんたちはそうもいかないからね。……ていうか普通見られるのって嫌だと思うんだけど、違ったかな? あれ?
ま、まぁいいか。俺個人としても別に嫌なわけでないからな。むしろ排泄という特に無防備な行為の際に一番近くで守ってあげることができるから、逆に大きな利点と言えるだろう。多分そうに違いないのだ。
「よし。それじゃとりあえずこの銃を蒼空ちゃん達用に予備を含めて追加で五丁買って、私個人の護身用にG19を二丁と――狩猟用にボルトアクション式のショットガンを二丁に、同じくボルトアクション式のライフルも二丁買ってぇ……ん-。でもライフルは自動拳銃の方が汎用性高いかなぁ」
「アイヴィス様。お分かりだとは思いますが、本当に必要なものだけ買ってくださいね?」
「うぅ。分かってるってシュアちゃん。これでも厳選してるんだよ?」
「まぁまぁ。良いではないですかシュア。少し前までのアイヴィス様なら、ここからここまでを予備と観賞用を含めて纏めて三丁ずつ買おう! などとたわけたことを申していたでしょうから」
「二人が私のことをどう思っているのかは分かるけども、世帯も増えたし今後を見据えて動かないと駄目だから、流石に自重するよ?」
「そうですか。では私からはもう何も。ただ、怪我だけはなさいませんよう十分に注意して下さいね」
ぐぬぬ。シュアちゃんって何というか、時々お母さんみたいなこと言うんだよね。
そこに不満があるわけではないのだけど、もう少し財布の紐を緩くしてもいいと思いませんか?
今回の銃って需要滅茶苦茶あるわけだし、決して無駄にはならないと思うんだよね?
……そうです。実は私のお財布は、シュアちゃんが管理してるのです。
ユニちゃんのときと言い盛大にやらかしていることに心当たりがあるので仕方がないのですが、シュアちゃんってばその辺かなりお堅いのです。
「……失礼を承知で言わせて頂きますが、てっきり自軍を強化するための重火器を、お金に糸目をつけず大量に仕入れるとばかり思っていました」
「まぁ確かに、この世界において覇権を握ろうと目論むのならば迷わずそうしたとは思うな」
「私たちを召喚した国のお貴族様はそんな感じだったけどぉ~、アイちゃんはそういうの興味ないのぉ?」
「う~ん。正直ないなぁ。自分の手のひらに治まりきらない気がするし、何よりもめんどくさそう」
「あーしとしては、備えとくに越したことはないと思うけど」
「えー。逆に私としては、蒼空ちゃんにあまり負担かけたくないんだよね」
「負担? 確かに魔力は消費するけど、これだけマナポーション用意して貰えれば……おトイレ以外は問題ないと思う」
「それもそうだけど、蒼空ちゃんのスキルで買った武器が大量殺人に使われることになるわけだし、流石に重くて嫌な気分になるじゃないか」
「……アイヴィスさんは、本当にお優しいのですね。言動は兎も角として」
「—―えっ? なんか急に紫苑ちゃんにディスられたんだが? 良き!」
それにせっかくのファンタジーな世界に重火器なんていう無骨なものを持ち込みたくないという心情もあるのだ。
実際に自分たちに危険が迫った際にそのような矜持など無に等しいのかも知れないけれど、そうでもないのならば突き通すのも良いと思う。
平和のためになどという綺麗事を並べるつもりはないが、少なくとも自身とその周囲のヒトの心の平穏くらいは守って見せたいのが男の子なのだ。……何度でも言うが、今世は女の子なのだけれども。
それに魔法という理不尽な力が存在するこの世界を見渡せば、重火器を使わずとも大量に殺戮する兵器など他にいくらでも心当たりがあるのだ。
「不意にそうやって嬉しいこと言ってくれちゃってさ。やっぱりアイちゃん様って悪い女の子だよね、ラヴィニス様?」
「全面的に蒼空に同意します。むしろこちらの方を自重して頂きたいくらいですが、残念なことに天然物なのでどうにもならないのですよ」
「ま、まぁ私のことは今は良いじゃないか。せっかくだから他にも色々注文してみたいし、皆も時間の許す限り買い物してみようよ」
「そうですね。実際に目で見ないと分からないものも多いでしょうし、今日ばかりは予算を気にせず購入してみましょう」
「おぉ、流石シュアちゃん話が分かる! 私ゼロカロリーのコーラと何かしらのジャンクフードが凄く欲しい!」
「アイヴィス様は引き続き自重して下さいね? 大量買いは許しません」
「そ、そんなぁ……。分かったよ。取り合えずコーラは一箱までにする」
「我慢出来て偉いです、アイヴィス様。それでは優香から順に欲しいものを言って下さい。……あぁ、遠慮は要りませんよ? 全てアイヴィス様の支払いなので」
「—―ひぇっ。ま、任せてよ? ここは私の甲斐性の見せどころだし、遠慮はむしろ失礼に当たると思って貰って構わないよ? 構わないとも!」
どんと来なさい、任せなさい。複数の女性を囲う以上、ここで甲斐性を見せねば女が廃るっての!
ま、まぁでも大半は元日本人だし? 遠慮というか、配慮というか。そういった美徳な精神も忘れないで欲しいという願望はあるからね?
い、いや。決してこれはケチりたいわけではなくて……その。—―そう! 奥ゆかしくて愛嬌のある女性って素敵だなって思うんだよね?
あ、ちょっ⁉ シュアちゃんってばせっかく蒼空ちゃんが空気読んで遠慮してるのに邪魔しないで……って。え、私はステイ? あの、はい。……いえ、うん。—―わ、分かりましたってばぁっ! ど、どんとこいっ!
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