一章24話 異界通販。

「とりあえずギルドで今日やるべきことは済んだことだし、一度我が家に帰って蒼空ちゃんの『異界通販』で出来ることを模索したいなぁと思っているんだけど……どうかな?」

「あーしは全然構わないけど……あんまり期待はしないで欲しいかな」

「え、ごめん。実は凄く期待してるかも。場合によっては”異界商店”なるものの経営まで視野に入れてるしね」

「……”異界商店”ですか。中々に良い響きですね」

「あらあら。では私はそのお店で売り子さんでもしようかしらぁ」

「おお、良いですね。蒼空ちゃんが会計で紫苑ちゃんが店長。差し詰め私たちはオーナーさん一家って感じかな?」

「アイヴィス様。蒼空たちももう家族なので、家族経営が妥当かと」

「ふふっ。何だかんだ言っていましたが、実のところラヴィニスが一番蒼空さんたちのことを想っているのかも知れませんね」

「うんうん。ラヴちゃんは人付き合いが極端に少ない分愛情深いからね」

「ら、ラヴィニス様が、あーしらのこと”家族”って……? う、うぅ。あーし嬉しい。幸せすぎて、今なら死んでもいーかも知れないぃぃぃ……」


 ちょ、蒼空ちゃん? 公衆の面前で感涙するのはまだいいとしても、死んじまっちゃあいけないぜ?


 それこそラヴちゃんが悲しむし、私も『異界通販』が使えないからね?


 ふむ。こういうと私に人情が無いみたいに聞こえるかも知れないけど、私だって関係を持った相手が死ぬなんて、普通に嫌だからね?


 え、どう答えても俗的だって? それはキミ、受け取る側の問題じゃないか。私には一切の含みなどありませんからね。


「というわけで、早速我が家の秘密基地兼私的財産保管スペースへと来たわけですが……ユニちゃん?」

「はい、いかがなさいましたか主様?」

「いや、その……なんだ。これから蒼空ちゃんのスキルを試したいから、出来るならば私の膝の上から退いて欲しいなぁ……とか思ったりして?」

「蒼空様のお力を間近で拝見することで、ユニも今以上に主様のお役に立てるかもと愚考したのですが……お邪魔でしたか?」

「お邪魔じゃないです。でもユニちゃんは今のままでも十二分に仕事をこなしていると思うし、私も感謝してるからね?」

「それでは主様。その褒賞として、ユニの頭を慈愛を持って撫でて下さい」

「ユニちゃんはいつも頑張っていて偉いねぇ、そうやって素直に甘えてくれるところとか最高にキュートだよぉ~。良い子良い子~」

「…………蒼空様。そういうことですので、このまま『異界通販』の実演講習をお願い致しますね」

「あー、うん。分かってる……けど。い、今更ながらあーし、とんでもないすけこましに誑し込まれちゃったんだなぁって思ってさ」


 い、嫌だなぁ蒼空ちゃん。誑し込んだと言えばそうともとれるかも知れないけれど、少なくとも騙してはいないからね?


 それに何度でも言うが、少なくとも俺自身は即断即決こそしたけど実行事態は日を改める心づもりでは居たわけですし。


 ふむ。まぁ事を急いだ分その後のケアはしっかりとするからさ、関係値を深めるためにも常に共に行動して今以上に仲良くなろうじゃないか。


 身体だけという関係も割り切っていてそこまで嫌いじゃないが、せっかくならば仲良くやっていきたいというのがヒトの性だろうしね。


「……蒼空。残念ですが、アイヴィス様は今の貴女の認識を優に超えてしまうと思いますよ」

「そうですね。こつこつと貯めていた資産のほとんどを費やしてまでそこなる奴隷ユニを買ってきたくらいですからね」

「だ、だってシュアちゃん。ユニちゃんってばあの世にも珍しい”幻獣種ユニコーン”の尾耳族なんだよっ⁉ しかも女の子なんて、あり得ないし!」

「……ユニコーンは基本的に雄しか人前に現れないと以前滞在していた国で聞きましたが」

「私も聞いたわぁ。それにそもそも出会うことすら稀なうえに獰猛で、純粋な乙女しか背中に乗せないとかなんとかぁ」

「へぇぇ。ユニちゃんって、そんなに珍しい子なんだねっ! あーしにはただ極上に可愛くて愛らしい少女にしか見えないけどなぁ」

「ユニは金貨十万枚キャッシュの女。……なのに、ちょっとスキルがユニークで少しばかり可愛いだけのぽっと出のギャル娘に完敗した」

「い、いやいやあーしなんてそんな……え? 金貨十万枚? た、たしか金貨一枚が日本円で約十万円だから……ひゃ、百億円って、マぁぁぁっ⁉」

「え? え? そ、そんなに驚くことかな? 私が一目惚れしたという事実は置いておくとしてもラヴちゃんの愛馬の値段と考えたら妥当だし、むしろお買い得じゃない? ね? 紫苑ちゃん」

「「…………」」

「ら、ラヴィニス様の言う通り、アイちゃん様は特に尖りきった一角の人物でした……」


 あ、あれ? なんか言葉のわりに、ドン引かれていませんか? 正直言って、これでもまだ良くしてくれているラヴちゃんに対して全然貢ぎ足りてないなと思っているのだけれども。


 そしてユニちゃん。確かに奴隷として購入はしたけど、ラヴちゃんの愛馬である以上ラヴちゃんと一心同体だから、勝ち負けで言えば立場的に勝ってるからね?


 あんまり順位なんて付けない方が良いのかも知れないけど、私個人としては出来る限り明確に分けたい性分なんだよね。


 命の価値だって皆が平等だとは思わないし、大事なヒトやモノにだって皆順番はあると思っているからさ。


 そうでなければ選択を迫られたときに即決即断出来ず、全てを失ってしまう可能性だってあるわけだから、極端かも知れないけど決めておくに限るというのが持論なのであります、はい。


「ま、まぁなんだ。そういう経緯もあり、お金ってあっても困んないよね? という理論の元、蒼空ちゃんの『異界通販』を利用してこの世界で皆で儲けて幸せになろうぜ! というのが今回のコンセプトなのです」

「……蒼空姉さんがスキルを提供し、アイヴィスさんが出資する」

「そうして手に入れた商品を私たち姉妹が販売してぇ、顧客を増やしつつ事業を拡大していきぃ~」

「……いずれは貴族や豪族、大商人などをターゲットにした”独占事業”を確立して最大限の利益を得るってことか。アイちゃん様、お主も悪よのぉ?」

「ふっふっふ。この国が陸の孤島かつ閉鎖的である以上、外交という国を挙げての商売が困難なのは否めない。だからこそその垣根を無くす、”通信販売”という手段が欲しかったのだよ越後屋もとい、吉原屋蒼ちゃん」


 と、自慢げに語ってはいるが、実のところ蒼空ちゃんのユニークスキルだけでも十二分に利益を見込めると思っていただけで、自分自身に『通販』という従属スキルが付くところまでは、単なる希望的観測でしか無かったという事実は内緒である。


 ともあれステータスボードでステータスを確認した際『通販』の詳細も見たのだが、この『通販』というスキルは”今まで取引したことのある商人相手に売買が出来るようになるスキル”であることが分かった。


 実際に個人的に出資している孤児院の子供が商売をしているフリマ――バザーのようなもので買い物をしてみたのだが、背丈の似通ったフードを被ったデコイのようなものを介して、実際に子供たちと買い物をすることが出来たのだ。


 会話をしている様子は確認できなかったが、手渡した注文書のようなものを子供が読み取れず、最終的に手取り足取りというボディランゲージを駆使していたのが絶妙に可愛かったという印象がある。


 原理は何かとか言われるとその詳細は一切合切分からないのだが、ここは便利な共通語である「異世界ファンタジーだから」という月並みな感想で逃げさせて頂くとしようか。


 纏まった時間が取れるのならばそう言ったこの世界の不思議について探求する機会を設けても良いのだが、まずは自身とその周囲の安全と安定した未来設計を築き上げるのが優先なので仕方がないのである。


 ダンジョンでレベルを上げてステータスをカンストさせ、主要スキルもマスターしたうえで、漸く趣味に使えそうなコモンスキルを習得出来る段階まで来たのだ。


 皇女という立場も十二分に利用させて貰った来たが、ここで少しばかり規模を拡大して、女帝としてこの国を掌握するまでに至っても良い。


 ふむ、そうだな。我ら三人だけならすでに無敵と言っても過言ではないが、新たに三人を迎えた以上この国をエルクド兄さんに任せるのは少々勿体ない気がするな。


 ……良し。蒼空ちゃん達三人のレベリングが終わったら、父上に相談して皇位を譲ってもらうことにするか。


 元々本人も辞めたがっていたし、私が言えば直ぐにでも譲ってくれると思うんだよね。

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