一章22話 愛玩動物。

「ふむ。流石に三度目になると、俺も手加減が上手くなったもんだな」

「この惨状で何をおっしゃっているのかは分かりませんが、少なくとも私やシュアが動けているというのは進歩ではありますね」

「そうは言うが、蒼空ちゃんがぐったりしちゃったのは主に紫苑ちゃんが原因だからね? 優香さんまでもが隣ですやすやと眠っているのは分からないけど、多分シュアちゃんが遅くまで可愛がったせいだと思うんだが」

「良いところで邪魔しようとした優香が悪いので、それは仕方ありませんね。それはそれとしてラヴィニス。動画はきちんと撮れていましたか?」

「それは問題ありません。シュアが撮った前半部は完璧な内容でしたし、私が引き継いだ後半部も多少の映像の乱れはありますが、むしろ臨場感が際立っていて中々に良い作品になったのではないかと愚考しますね」

「……本当に愚考だな。何というか、最近は俺より君たちの方が暴走気味だというのを、ここらでしっかりと理解して欲しいのだが?」

「……? アイヴィス様が何をおっしゃっているのかよく分かりません」

「仮に私とラヴィニスが悪いとして、そうなった原因こそがアイヴィス様なので、最終的に悪いのはやはりアイヴィス様だと思いますよ」


 そうか、俺が悪いのか。確かに二人に余計な知識と性癖を植え付けた自覚は大いにあるけれど……いや、皆まで言うまい。


 ともあれ懸念していた情報の漏洩と希少なユニークスキルの確保はこれにて一件落着というか着床したというか。とりあえずの成果としては上々かな。


 紫苑ちゃんが言っていた『ステータスカード』を発行するついでに我ら三人の詳細なデータを確認して、その後は皇族と限られたごく一部の貴族のみが利用できる”ダンジョン”にでも蒼空ちゃん達を連れてって、カンスト目指してレベリングでもするとしようか。


 ちなみに”ダンジョン”とは、リスク以上に様々な恩恵が得られるとして国やギルドが管理している”迷宮ラビリンス”と呼ばれる強大な魔物の総称だ。


 彼らの多くは魔素の潤沢な地にて周囲を巻き込むように突然出現し、魔素を食らうことでフロアの拡張や階層を増設して、最終的に魔物を生み出す母体のような存在へと成長するのだが、その過程で時折”宝箱”と呼ばれるヒトにとって多くの魅力に溢れたパンドラボックスを各階層ごとに配置する不可解な性質も持ち合わせている。


 一説によると、”冒険者”と呼ばれる一部の人間を体内に呼び込み魔物を討伐させることで、そのどちらかを捕食する目的があると言われている。


 近年のアヴィスフィアではヒトと共生関係を築くことで自己防衛力を高めている可能性も示唆されているらしいが、その詳細は定かではない。


 重要なのは迷宮という名の魔物が齎す多大なる利益であり、ことアインズ皇国としてもその恩恵の一部を有り難く頂戴しているのである。


「……アイヴィスさん、おはようございます」

「お。起きたんだね紫苑ちゃん。おはよう」

「……身体が匂うし、ベタベタする」

「お風呂なら準備してあるよ? 入るなら二人も起こしてあげて?」

「……分かった。優香姉さん、蒼空姉さん。ほら、起きて下さい」

「……ん、んんぅ? あ、紫苑ちゃんだぁ。おはよ~」

「…………紫苑。お、おはよう。その、アイちゃん……様も、おはよ」

「アイちゃん様って……ふふっ。おはよう二人とも、よく寝れたかな?」

「あらあら、アイちゃんは元気なのねぇ。何だか私、悔しいわぁ」

「ちょ、二人ともどうして普通に話せるの? 真っ裸なのにぃぃ」

「あははっ。やっぱり蒼空ちゃんは可愛いなぁ。さて—―セイン」

「—―はい。いかが致しましたか、アイヴィス様」

「今日からキミを彼女たちの専属従者とする予定だから、そのつもりでよろしくね? セーブルにはこちらから伝えとくからさ」

「かしこまりました、アイヴィス様。それでは、お嬢様方。早速ですが、湯浴みの準備が出来ておりますので此方へとお越しください」

「ユニちゃんも今日はセインを手伝って上げて? 彼女が優秀なのは知ってるけど、何分いきなりのことだからね」

「……承知いたしました、アイヴィス様」

「あ、あれ? なんかユニちゃん怒ってない?」

「怒る、ですか? そんなまさか。卑しい奴隷の身であるこのユニが、主様にそのような不敬な感情を向けるはずなど御座いません」

「やっぱり怒ってる! う、うぅ。確かに仕事は増やしちゃったけども」

「……違います。ですが、主様にそれを求めるのは酷だと思いますので」


 ぐ、ぐぬぬ。それってつまり、どういうことなの? 思わせぶりなこと言わないで言ってくれないと、ユニちゃんの言う通り分からないってば。


 ラヴィニスもシュアも分かっているような気がするのに全然教えてくれないし、何なら蒼空ちゃんたち三姉妹もジト目で睨んでくるんですけど?


 お、おかしいな。確かに前世の性別が男だった弊害で性癖は凝り固まってはいるけれど、それ故に女性の機微が分かるよう日々努力を続けてきたんだけどなぁ。


 何というか、ふとしたこういうタイミングで隔絶とした絶壁に阻まれる気がするんだよね……解せぬ。


「……こ、こほん。とにかく、朝食をとったら一度皆でギルドに行くからね? 正式にパーティを組んでダンジョンアタックするつもりだからさ」

「……ダンジョン、ですか?」

「あ、あらあら。私たち戦闘はあまり得意ではないのだけど、大丈夫かしらねぇ」

「大丈夫だよ紫苑、それに優姉も。アイちゃん様達が護ってくれるでしょ? ね、アイちゃん様?」

「勿論そのつもりだよ。スキルは後回しで何とかするとして、ステータスに直結するレベルはサクッと上限まで上げちゃうのが吉だからね」

「……分かりました。よろしくお願いします」

「うふふ。蒼ちゃんったらすっかりアイちゃんに懐いちゃってもう」

「な、懐くって表現おかしくない? それだとあーしがアイちゃんのペットみたいじゃんっ!」

「そうだよ優香さん。蒼空ちゃんはラヴちゃんの”愛玩動物”だからね?」

「ちょっ⁉ あ、朝っぱらからなに変なこと言ってるのアイちゃん様!」

「……”愛玩動物”。確かに言い得て妙ですね」

「う、うぅ。紫苑の目つきがいやらしくて、お姉ちゃん怖いんだけどぉ」


 なんか夜遅くまで蒼空ちゃんを愛でつくしてた紫苑ちゃんが言ってますよ? 俺なんかよりよっぽどねちっこい愛撫してたからな、この娘。


 ほら、蒼空ちゃん身震いしてるじゃん。自身の可愛い妹にねっぷりと攻められたことで、新たな扉開いちゃってるじゃんか。


 ふむ。お世話するセインも楽だろうし、三人は同じ部屋を使って貰おうか。キングサイズのベットも備え付けているし、夜もばっちりだしな?


 何よりやっぱり不慣れな環境だし、三人の方が安心するだろうからね。


「しかしなんだ。強引に迫った身でこんなことを言うのもなんだけど、出会った初日で関係を持つとか、まるでA〇の企画物みたいだね」

「恋愛経験も碌にない幼気な小娘の純潔を奪っておいて、本当に今更ですねアイヴィス様」

「いや、それは確かにラヴちゃんの言う通りなんだけどさ。正直言って俺だけじゃこうはならなかったと思うんだよね」

「……ラヴィニスさんと私が居たからそうなった。そういうことですね」

「まぁなんだ。オブラートに包まないのならそうだね。個人的には役得でしかなかったから嬉しいんだけど、蒼空ちゃんからすれば流石にあんまりだったかなって今更ながら反省をしていると言ったところかな」

「……れ、恋愛経験くらいあるし? 優姉と、ラヴィニス様だけだけど」

「初恋が私でぇ、今の想い人がラヴィニスさんでぇ、初ちゅーが紫苑ちゃんと来てぇ、初えっちがアイちゃんかぁ~。蒼ちゃんってばびっちぃ♡」

「—―んなっ⁉ ち、違うってば優姉っ! びっちなのはあーしじゃなくて、ラヴィニス様と紫苑だしっっ!」

「ほほぅ? アイヴィス様一筋の私を捕まえて、びっちと来ましたか」

「……蒼空姉さん。今夜は遠慮しないので、覚悟してくださいね?」

「ひ、ひぁぁっ⁉ ち、違うってば二人とも! これは言葉の綾ってやつで――た、助けてアイちゃん様っ!」

「……あ、あー。二人とも? 蒼空ちゃんを愛でるのは良いけれど、近々ダンジョンに潜るから程々に、ね?」

「あ、あぁぁ……アイちゃん様の、馬鹿ぁぁぁっ!」


 すまんな蒼空ちゃん、骨は拾ってあげるから。珍しくラヴちゃんがはしゃいでるのを止めるなんてこと、俺にはちょっと出来ないんだよ。


 紫苑ちゃんも今まで秘めていた感情の反動で若干暴走気味だし、ここらでガス抜きさせることでより良いコンディションにつながると思うから。


 がんばれ蒼空ちゃん! 負けるな蒼空ちゃん! いや、正直言って半泣きの蒼空ちゃんが一番可愛いから、ごめんだけど今夜……期待してるね?

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