一章14話 紅華一刀流。

「わぁぁっ! あんな巨体を一瞬でやつけるなんて、流石つぐみんっ!」

「フクロウ殿も流石ですね。あの集団の全てをぬかるみに嵌めるなど、皇国はおろか世界にもそうはいないでしょうね」

「あらあら。のっぺりしててぬるっとしてて、とっても可愛らしいわぁ」

「……あーしは優姉が作ったクオリティの高い一分の一の人像フィギュアの方が好きだし」

「……はぁ。おたくちゃんが顔を出してますよ、蒼空姉さん」

「え、凄い! 優香さんってばフィギュア創れるのっ⁉ 私も見たい!」

「是非ローズさんにも見て欲しいっ! 精巧かつ繊細なタッチで描かれた表情も然ることながら、稼働の限界に挑み続けている大胆さを持ち合わせていて、まるで生命いのちが宿っているかのような……いや、あれはまさに生命の誕生に他ならないでしょう。私の見解だけだと心もとないですが事実自立したうえで歩行も行い戦闘までもこなすなんてあり――」

「—―蒼空姉さんっ!」

「……あっ! こ、これは違くて、その。あ、あああーしは陽キャのギャルだからフィギュアとかし、知らないし! す、すすす好きでもな――」

「ふふっ。蒼空ちゃんって可愛いね? キラキラした表情で語るのも好きだけど、そうやってヒトの目気にしちゃうところとか、好感度高いなぁ」

「う、へぇぁ……っ⁉ あ、いえその……あ、ありがとうございますぅ」

「……ローズさんって、意外と悪い女のヒトだったりしますか?」

「……はい。ローズ様は天然を装った、人工の”すけこまし”ですから」


 え、紫苑ちゃんもそうだけど、リリィも流石に酷くない? 今のフォローって私の中だとかなりの高得点を付けていいと思ってたんだけどなぁ。


 現代の若者の感性を今の俺がどこまで把握できているから確かに不安だけど、おそらく蒼空ちゃんは自身の趣向を否定されたくなかったのではなかろうか?


 それに何より嘘は付いていない。実際に可愛いと思ったし、ギャルっぽい子がフィギュアが好きなのも、個人的にはかなり好感度高いしね。


 ま、まぁなんだ。だからそんな目で見ないで欲しいな紫苑ちゃん。流石の私も義妹と同年代の子に何かする気なんてないからさ。……あ、でも今は三人とも私と同じか年上だから、実はセーフだったりもするのかな?


「……少々心配はしてましたが、これならば問題は無さそうですね」

「紫苑ちゃん? あ、もしかしてバーロウのこと? 大丈夫大丈夫。ヨタカさんってああ見えてやるときはやる男だからさ。二言は無いと思うよ」

「……これはどっちなのでしょうか。やっぱり、たちが悪いですね」

「え、えっ? なんか滅茶苦茶紫苑ちゃんに警戒されてるんだけどっ!」

「お言葉ですがローズ様、今回は貴女様が悪いかと……」

「え、なんでっ⁉ なんでリリィまでそんな残念なヒトを見る感じ出してるのっ⁉」


 おかしい。絶対におかしい。人見知りなリリィがこんなに早く紫苑ちゃんと打ち解けてるのもそうだけど、その紫苑ちゃんに既に残念なヒト認定されてるのはどうしてなのっ⁉


 いや。確かに俺自身完璧な存在ではないことは重々承知ではあるのだけど、ローズ――延いてはアイヴィスでいる間は出来うるすべての力を行使して魅力的に映るように相応の努力を続けてきたはずなんですが、一体全体何故なんですか?


 ……くっ。私はまだ紫苑ちゃんを舐めていたというのか? こんな幼気な少女然を装っているが、実は海千山千の貴族をも凌ぐ特別な観察眼でも持っておいでなのか?


 あ、でもなんか、ちょっと興奮してきちゃったかも。リリィの表情はフルプレートのせいで分からないけど、紫苑ちゃんも中々にいい視線をくれるじゃん。


「うふふっ。楽しそうなところ申し訳ないのだけど、なんだか面白い子がこっちに向かって走ってきてるわぁ」

「う、噓でしょ? な……なんなのあの不思議生物」

「見間違いでなければあのバーロウ、二足歩行をしていますね」

「それに早すぎない? めっちゃ綺麗なフォームでガンダしてきてかなり怖いんだけどっ!」

「……ちょっと可愛いかも」

「あら、紫苑ちゃんもそう思う? 実はお姉ちゃんもそうなのよねぇ」

「い、いい言ってる場合じゃなくない? ろ、ローズさん! ど、どどど、どうしたらいいのあれぇぇっ?」

「うぅむ。とりあえずリリィ、あのキモ可愛い生物のタックルを止めて」

「はい。皆様は私の後ろ、あるいはその付近で待機してください」


 おぉ、流石ははぐれ個体。中々に癖の強い子が現れたねぇ。二本ある角のうちの一本が欠けているところから察するに、ボス争いに負けて群れから追い出された個体なのかな? 完全に憶測でしかないけども。


 しかしラヴちゃんの『絶対防御』に阻まれてなお前進を止めようとしないとか、度胸こそ認めはするが知能はほぼ無いようなものと思って良さそうだな。


 この程度ならシュアの力を借りずとも、俺だけでなんとかなりそうな気がする。実際こちらには目もくれていないし、警戒すらしてなさそうだしな。


 よし、そうと決まれば早速やりますか。かかってきなさいはぐれバーロウ! このローズ様秘蔵のブロードソード(市販品)の錆にしてくれようぞっ!


「良いよリリィ、流石の防御力だ。リリィさえいれば万の敵すら怖くもないね!」

「ありがとうございますローズ様。ですが、油断は禁物ですよ?」

「分かってるよリリィ。怪我したら元も子もないからね」

「そういうことです。はぐれ故のイレギュラーも考えられるので、なるべく早く、慎重に任を熟してください」

「分かった。一気に行くよ―—紅華一刀流四ノ型『紅時雨べにしぐれ』っ!」

「—―ローズ様、踏み込みが浅いです! 仕留めきれていませんっ!」

「ちぃぃっ。やっぱり『宝剣』と比べると見劣りするなぁこの剣っ!」

「—―剣のせいにしないっ! ローズ様があと半身踏み込んでいれば、確実に仕留めきれていましたよ!」

「うぅ。剣のことになると厳しい……でもそんなリリィちゃんも好きぃ」

「ローズ様! はぐれの狙いが貴女に変わりました! 正面から斬りかかるのではなく側面を取ってください!」

「そうは言われても突進が怖すぎて――ひぁぁっ!」

「—―今ですっ! 一ノ型で決めてくださいっ!」

「ま、任せてよっ! —―紅華一刀流一ノ型『紅一閃』っ!」


 し、仕留めたかっ⁉ ……よし、大丈夫そうだ。動いてない。


 ふぅぅぅ。危ねぇ冷や汗掻いたぁぁぁっ。いつもどれだけ武器の性能に頼り切っているかが分かるなぁこれは。


 逆に『宝剣』の恩恵が凄まじいことの証明にもなるわけだが、流石に身分を隠している身で所持することは躊躇われるよな。


 ちなみに『宝剣』というのはアインズ皇国の至宝であり、特定のヒト――アイヴィスしか使いこなせない専用の武具である。


「凄い剣捌き……ローズさんって、実は強かったんですね」

「え、そんな丁寧語になるくらい意外だったの蒼空ちゃん」

「……私も驚きました。てっきり戦うのはリリィさんかと」

「むむ。そんなに意外? これでも私、紅華一刀流を免許皆伝してるんだけどなぁ」

「ローズ様はいい意味で賑やかしですからね。剣の道を歩んでいるにしては、ヒトより少々おしゃべりが達者なのですよ」

「リリィ? もしかしてちょっと怒ってる? 仕留めきれなかったのは確かだけど、私なりに頑張ったんだけどなぁ」

「いえ、怒ってなどいませんよ? 初撃は兎も角、二度目で確実に仕留めたのは実に見事でした」

「ホント? でもなんか、ちょっとむっとしてない? 顔は隠れてて見えないけども」

「……ローズ様って、ズルいです。……はぁ。実は貴女を危険に晒した自分自身に、少々憤りを感じていました」

「え、なんで? 助言も的確だったし、そもそもリリィは完璧に皆を護ったじゃんか」

「これは私のエゴでしか無いのですが、ローズ様には怪我はおろか、危険すら感じて欲しくないのです」

「私のリリィちゃん過保護過ぎないっ⁉ 正直嬉しいけども!」

「あらあら。ローズ様は愛されているのですねぇ? うふふっ」


 なんだろう凄い恥ずかしいっ! 三人揃って生暖かい目で見るのはやめてっっ! 羞恥プレイも嫌いじゃないけど、これちょっとベクトルが違う気がするからっっっ!


 例えるなら、運動会に家族と親戚が総動員で来て応援して貰って嬉恥ずかしな上にそこそこの順位しか出せなかったけどなんか皆にお褒められている姿を仲のいい友達に見られている状態というか。そんな感じだからやめてっ! や、やめろぉぉぉっっ!

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