一章13話 暁の盗賊団。

「いよーし、てめーら! 準備は良いだろうなぁ~? (キョキョ! 張り切って倒すでやんす!)」

「当然っす兄貴。バーロウなんざ、おいらにかかればちょちょいっすよ」

「ほっほっほ。相も変わらずモズは、威勢だけは良いですねぇ」

「……そういうフクロウの旦那は変わらず手厳しいっすね」

「うるさい。良いからさっさと陽動に行……け」

「ひ、久しぶりに声を聴いたと思ったら、こっちも大概ひどいっす!」

「ツグミ、今日は随分とやる気に満ちてるじゃねーか」

「ボク、先輩だから。後輩に良いとこ見せ……る」

「ほほっ。これは、ローズ様には感謝しないといけませんねぇ」

「何故だか知らんが嬢ちゃんは、ツグミにだけは懐いてたもんなぁ」


 アイヴィス一行が呑気に雑談をしている中、Aランクパーティー『暁の盗賊団』の面々はそれぞれ異なった方法でクエストに臨もうとしていた。


 個性あふれる面々の中でも特に際立って面妖なのは、ヨタカが肩に担いでいる知性ある大曲剣インテリジェンスソードである。


 知性インテリジェンスの名に恥じぬ高等な知能を持ち、独自に魔力を練ることでその名に因んだ魔法を行使することが出来る、世界でも有数のしゃべれる魔法剣なのだ。


 少々うるさいことがたまに傷ではあるが、ヨタカのように魔法が使えない者でも魔法を行使できるという、実に実用的な大きなメリットを持っている。


「ほほっ。確かにローズ殿は随分この子に懐いているようでして、我が孤児院にもよく顔を見せて下さっておりますなぁ」

「少なくない寄付に留まらず、誰も受けかがらねぇやっすい修繕の仕事も請け負ったって聞いたぜ? ――ったく、本当に身分を隠すつもりがあるのかぁ、あの嬢ちゃんはよぉ。(キョキョ! 脇が甘いでやんす!)」

「確かに不用心。でも、そのおかげで子供たち喜んで……る」

「……人は見かけによらないとは、よく言ったものっすねぇ」

「ほっほっほ。かくゆう私も胡散臭いから信用できないと、昔は良く言われたものです」

「悪いがフクロウ、お前の見た目の胡散臭さは今も健在で変わってねぇからな? 単に皆が慣れただけだ。(キョキョ! 万国共通でやんす!)」

「司教様、よく勘違いされ……る」

「通報されて投獄されたときは、流石のおいらも肝が冷えたっすよ」


 胡散臭さには定評のあるフクロウと呼ばれた初老の男性は、皇国直営の孤児院の院長先生を生業にしている。


 瞼が隠れるほど伸びた眉毛で目元が見えず、真っ白な髭は胸元辺りまで続く。加えて全身深緑の野暮ったい厚めのフード付きローブと背丈ほどあるシンプルなこげ茶色の長杖が相成り、よりその胡散臭さが際立っているといった印象である。


 そんな彼の職業は迷える子羊を教え導く『求導師』。アイシュ教の中でも特に位が高く、宣教師向きの要職だ。


 今でこそ小国の孤児院の院長に収まっているが、元々は宗教大国である『聖アイシュ教国』にある”アイシュ教の総本山”でを務めていた経歴を持つ実はとんでもない御仁なのだ。


 何がこうなって陸の孤島とも言われる小国に居ついたのは不明だが、現在はAランクパーティーである『暁の盗賊団』に身を寄せている。


「……話は終わり。バーロウ来……た」

「了解っす。手筈通り、おいらから行くっす!」

「私の人形が陣取っている地点まで、手出しは無用ですよ?」

「合点招致っ! 行ってきまっす!」

「それじゃあツグミ。俺らも配置に付くぞ」

「分かった。ボスは任せ……て」

「おう。俺は他のメンツ連れて、適当に群れの首でも刎ねてくるぜ」


 斥候としてバーロウの群れに突貫するモズ。ヘイトを買う目的があるのか大きく真っ赤なマントをバタバタとはためかせている。


 服装も基調を合わせたのかド派手な色合いで構成されており、まるでピエロが一堂に迫る猛獣たちを扇動しているかのように見えなくもない。


 当人は思った以上に食いついてきた集団に気圧されて真っ青な顔をしながらポイントへと全力疾走しているのだが、どうしてもコミカルな印象を受けてしまうのが難点である。


「よくやりました、モズ。……では、行きますよ―—『泥人たちの集いクレイドールギャザリング』」

「ちょっ、待っっ⁉ ふ、フクロウの旦那! まだ早—―っ⁉」

「泥人たちよ、私の後に続きなさい――『泥沼クァグマイア』」

(((((『泥沼クァグマイア』)))))

「—―ぎゃぁぁっ! ちょ、足が抜かるんで……っあ――っ⁉」

「……ほほっ。我ながら、中々に上々の戦果と言えるでしょう」

「おいらの一張羅が泥だらけに……。うぅ、納得いかないっす」


 無数の土人形を召喚する『泥人たちの集い』と、召喚した彼らに自身と同じ魔法を唱えさせる複合技—―『泥中の輪舞ドロドロンド』。


 土属性魔法の基本である『泥沼』を広範囲で展開にすることにより、一度嵌ったものは二度と出られぬほどの拘束力を持たせるまでに昇華した彼のオリジナル魔法である。


 事実確認されたバーロウの群れ全体がその効果範囲に留まっており、ボスとされる一体を除いた全てが拘束されている。


「流石は司教様。私も負けな……い――風遁『鎌鼬切カマイタチキリ』」

「まだまだいく……よ? —―水遁『鉄砲魚テッポウウオ』」

「最後の仕上……げっ! —―火遁『蚊蜻蛉ウスバカゲロウ』」


 忍術と呼ばれる東方の魔法を得意とするツグミ。地水火風に適性があり、四属性をバランスよく使いこなすことが出来る稀有な存在だ。


 戦争孤児のため天涯孤独の身ではあるが、宣教師としてたまたま訪れていたフクロウに拾われ現在に至る。


 物静かで警戒心も強いが、一度心を許したものには割と会話をしてくれるという可愛らしい一面もある。


 細身だがスタイルが良く、濃紺の着物が良く映える。太ももの辺りまでしか布地が無い特殊な一品だが、それを補完するが如く履いている目の細かい黒い網タイツのおかげで防御力は万全だと本人は語っているらしい。


「あの巨体の首を一瞬で刈り、高出力の水圧で血抜きを済ませ、薄皮一枚だけを焼くことで炙り燻製にする、ですか。いつの間にやら内臓も取り除いているようですし……ほほっ。我が子の成長というのは、いつ見ても感慨深いものですねぇ」

「いや、いやいや感心してる場合っすか⁉ ちょ、超絶技法過ぎてお口あんぐりなんすけど! つ、ツグミ嬢はやっぱり半端ねぇっす!」

「ローズ様に派手な技を魅せるのだと、実に張り切ってましたからねぇ」

「……そんな月並みな理由でされた首領ドンバーロウには、流石のおいらも同情を禁じ得ないっすね」

「ほっほっほ。そういえば、ローズ様は燻製肉がお好きとのこと。香りのよい香草と純度の高い岩塩を仕入れて何をするかと思ってはいましたが、そういうことだったのですねぇ」


 るんるんと音符を幻視するほどには機嫌の良いツグミは、仕留めた獲物付近の泥沼を土遁で覆うように操作し火遁で固めることで、より燻す効果を高めることにしたらしい。


 もはや他には興味がないのか、未だ戦闘中にも関わらず周りの手助けをするつもりはないようだ。


 沼に嵌り身動きが出来ないバーロウたちの眼前でその群れのボスを調理するという、客観的に見たらかなり猟奇的な絵面なのはご愛敬である。


「流石はAランクパーティー。全ての群れを足止めするだけでも驚きなのに、まさかボスを一瞬で倒し調理までしてしまうとは末恐ろしい」

「フクロウさんとツグミさんは、並み居るAランクの中でも特に上位ですからね!」

「ヨタカ殿の統率力も実に素晴らしい。弓兵による一斉掃射も去ることながら、複数の魔法師による土魔法で足場を固めつつ止めを刺していく堅実さは皆が見習うべきであろう」

「……モズはうん、ナイスファイトだな。実際あの逃げ足は脅威だしね」


 バーロウ大討伐クエストはその後も順調に進み、皆が改めて『暁の盗賊団』の実力を皆に知ることになった。


 一方残るは群れに馴染めぬ”はぐれもの”と、その討伐を任されたアイヴィス一行だが、その結末は未だ知ることは出来ない。

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